「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第23話 3現主義では現場の「場」の力を生かす

ヒントや答えを引き出しやすい「場」を生かすために社長自ら現場へ足を運ぶ、という話です。

 

今もそうですが、工場を訪問したらまずは現場です。

振り返れば、新人として現場へ配属された時からそうでした。毎朝、ラジオ体操が終わったら、まずは現場へ足を運びます。前の日にやった対策の効果を確認すること、前日に発生した不良品をチェックすること、必ずやることがありました。

 

新人として配属された工場での仕事を通じて、自然と身に着いた習慣です。多くの仲間達もそうでした。

 

製造プロセスの開発責任者を担って、技術上の課題をあれこれ考える時、あえて現場へ出たものです。机に座ってじっと考えているよりは、稼働している設備を眺め、機械音を聞き、作動油の匂いを感じながら思考をめぐらした方が、じっくりと考えられました。

その後、管理者になってからも、技術上の考えをまとめるために、現場で腕を組みながら、う~ん、と考えたこともしばしばです。

 

カイゼンを展開する時は当然として、製造プロセスを開発するなどのイノベーションを目指す技術開発においても、現場にヒントや答えがあるからです。

 

技術開発では現状を否定し、全く新たな視点から考えるアプローチもありますが、現状をベースに、新たなアイデアを積み上げるケースも多いです。「既存技術 + 既存技術」が付加価値を新たに創出する手法としてしばしば用いられます。

 

一般的に言われることですが、事務所スタッフが現場に入り込み、そこで仕事をする組織風土、組織文化が日本の現場力を高めている一因です。

 

日本のエンジニアは、現場とコミュニケーションをとりながら、”その”現場に適した技術に仕上げようと、”技術”と”現場”を擦り合わせる努力をします。そして、現場もそうした”頑張る”エンジニアに協力しながら技術や技能を高めます。日本ではずっと以前から普通にされてきた仕事のやり方です。

 

一方、欧米では事務所のエンジニアは現場で直接に仕事をすることはないとしばしば言われてきました。机上で検討したことを一方的に現場へ伝えるような仕事のやり方です。欧米ではお金をかけて設備投資を行い、ドンと一気に技術水準をステップアップさせることがエンジニアの仕事であると考えられていたようです。

 

日本でも、当然、投資が伴うこうした技術のステップアップは行われます。しかし、それ以上に、エンジニアと現場が連携した、日頃の継続的なカイゼンが重要視されてきました。

地道なノウハウの積み重ねは日本人の国民性に合っているのかもしれません。華々しさはなく地味ですが、成果は確実です。

こうしたカイゼンの積み重ねがあるからこそ、投資による技術のステップアップも、より一層効果的なものになっています。

 

カイゼンとイノベーションの相乗効果が日本のモノづくりの強みです。1980年代、日本のモノづくり力が世界に認められた源泉はそこにありました。

欧米にはなくて、日本の現場にはあったもの、それはカイゼンです。

 

日本のものづくりは昔から”現場”を重視してきたのです。現場に答えがあるからということもさることながら、現場の「場」が何かイイ方向へ作用する力を持っているとも感じます。

 

 

 

モノづくりでは、3現主義が基本です。

現場、現物、現実。まずは足を運べということです。

 

新人として配属された工場でお世話になった先輩技術者にこんな方がいました。

その先輩技術者と、日々の生産活動で発生する不良品の対策を検討しては、現場で実施していました。

問題が発生し、その先輩技術者へ報告します。過去にも起きたことがあり、解決方法が見えている場合は、そのまま任されました。

ただし、これは新たな問題だなと判断されたら「まず、現場、行こう!」でした。机で絵を描きながらアレコレ説明している時間があったら、現場へ足を運んで、現物を見て、現実を肌で感じた方が、話は早いです。

 

まず現場という習慣は、こうした経験から身に着けたのかもしれません。実際、現場で状況を目の前にして話をする方が、解決の糸口を見つけられやすいです。

 

事前検討手段では3Dでのシミュレーション、さらには、今後、VR(Virtual Reality : バーチャルリアリティ)やAR(Augmented Reality : 拡張現実)が現場でも活用されると予測されます。

”事前”であるならこうした机上の検討は極めて有効です。

しかし、現実の生産が開始され、現場に現物が流動し始めたなら、この「まず、現場、行こう!」以上に効果的な対応はありません。なにせ答えが現場にあるのですから。

3現主義の根拠は現場にヒントや答えがあることであり、これはまぎれもない真実です。

凡事徹底。当たり前の対応を当たり前にやる。3現主義のねらいはそこにあるのです。現場にヒントや答えがあるので現場へ足を運びます。

 

 

 

長年、現場に身を置いていると、現場には問題などを解決させる何かイイ方向へ作用する力、「場」の力のようなものがあると感じます。

ここで、不良品が現場で発見されたケースを想定します。

次のどちらの対応が問題解決を図るのに望ましいでしょうか?

・経営者は現場リーダーやキーパーソンを自分の机のところへ呼び出し、報告を求める。

・経営者は現場へ足を運び、現場リーダーやキーパーソン、現場作業者と不良品を目の前にして、ワイワイガヤガヤやる。

比較するまでもないでしょう。

「現場」では、自社製品を目の前にして仲間同士で話せば、何か「場」の力のようなものが生まれます。ある「雰囲気」が生まれます。

一緒になって問題を解決しよう、他でもない「自分の会社」の問題だからなんとかしたい。一体感、仲間意識、チームワーク、こうした感覚です。

現場でなら作業者も現物を目の前にして多くを語ってくれます。

こうした場で、日ごろからあたためていたアイデアを一生懸命に話してくれる作業者の姿を何度も目にしました。

そうした話を受けて、他のメンバーも「それならば、さらに、これは、こうもできるよ。」と前向きに発展させることもあります。

現場で、現物を目の前にして話をすることの効果です。

ですから、経営者も現場へ足を運び、現場リーダーやキーパーソン、作業者と一緒になって議論をするのです。経営者も、現場の「場」の力を生かすのです。

現場から出されたアイデアを採用するかどうかの判断もその場でできます。

なにせ、経営者がその場に居るわけですから。

短時間で効率よく解決策を決定し、即、実行に移せます。

現場に足を運んで、自分たちのアイデアに耳を傾けてくれた社長の姿を見て、現場はますます頑張ります。現場には、何事も前向きに進めようとする「場」の力が働いていると感じる次第です。

現場の関係者を事務所の会議室に呼び出して、同じようなことを会議室で展開できるでしょうか?

 

 

 

3現主義では、現場にヒントや答えがあるので現場へ足を運ぶわけですが、もうひとつ、ヒントや答えを引き出しやすい「場」を生かすために、社長自ら現場へ足を運ぶという観点も加えたいです。

現場のメンバーが一生懸命に語っている話に、”現場”で耳を傾けて下さい。「ウチの現場もなかなかのモノだ」と感じること間違いないです。

現場で現物を目の前にして、現場メンバーと話をすることから得られる成果を体感して下さい。

現場に足を運んだ社長の姿を見て現場はますます、社長の役に立ちたいと考えます。

 

 

社内には3現主義が定着していますか?

問題を解決するために現場のメンバーを会議室に呼び出すことはしていませんか?

社長自ら現場へ足を運び、現物を目の前にして、”現場”で耳を傾けていますか?

 

 

まとめ:ヒントや答えを引き出しやすい「場」を生かすために、社長自ら現場へ足を運ぶ。