「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第24話 カイゼンを現場へ定着させる2つの視点
カイゼンが定着しないのはチームオペレーションが機能していないから。持続的なやる気を引き出すための経営者による仕掛けづくりが欠かせない、という話です。
カイゼンが現場に定着しないという声をしばしば耳にします。
なぜカイゼンが現場に定着しないのでしょうか?
現場でチームオペレーションが機能していないからです。自発的なチーム連携、自律的なモノづくり連鎖が構成されていないからです。
そのために経営者は自律性や自発性が発揮され、チームオペレーションが機能しやすくなる環境を整備します。チームオペレーションが機能しやすくなる仕掛けづくりをするのです。
カイゼンをイベントとして考えている現場では、カイゼンの実質的な成果が低いです。そうした現場ほど、年に一度の発表大会や報奨金のほうへ焦点が当たりがちです。
カイゼンをイベントと考えているうちは、自発的なチーム連携に基づくチームオペレーションが機能することはありません。
現場の活動は日々の生産活動に則して展開されます。そこに”イベント”が加わっても、現場は負担にしか感じない。
動機付けがないからです。カイゼンの目的や狙いを経営者が明確に現場へ伝えていないとそうなります。カイゼンのためのカイゼン。活動のための活動。
せっかく取り組むけれども成果は限定的です。現場の組織力、チームワーク、チームオペレーションが機能する機会がありません。
日々の生産活動と切り離され、イベント的な取り組みになってしまうと、全員参加の活動になり難いのです。特定メンバーによるやっつけ仕事になり兼ねません。
ですから、毎年、年に一度の発表大会が完了すると、「ヤレヤレ終わった・・。」となるだけです。そして、また年度が変わって新たなテーマを、”発表大会に向けて”探すという状況になります。
カイゼンを通じてモノづくり力や人財力を高まることもありません。
カイゼンを現場に定着させるために欠かせないのは、自発的なチーム連携に基づくチームオペレーションが機能していることです。
カイゼン手法や5Sの勉強会よりも先に整備すべきことはこちらです。
多くの経営者は意外とそのことに気づいていないのではないでしょうか?手法や知識のみでは現場に定着しないことに留意します。
その前に自発性や自律性を発揮する「場」を現場に造ることが重要です。そのために経営者が持ちたい観点は下記の2つです。
1)カイゼンは将来投資のために行うという明確な目標を設定する。
2)カイゼンは日々の生産活動の一環として行う。
以前、儲かる工場経営においてカイゼンとイノベーションはセットであり、一方のみではダメであると申し上げました。(カイゼンは因果関係を明確にする訓練でもある)
カイゼンを手段として考えるのです。
自動車部品の製造現場の管理者を担っていた時、現場で新たにカイゼンを始めたことがあります。
それまで全くそうした類の活動はしたことがなく、おおむね現場の意識は納期遵守のみに向いていました。そうした現場へ新たにカイゼンを定着させようとしたのです。
そこで、最も意識したのはカイゼンのためのカイゼンのならないようにすること。つまり、カイゼンは大きな目標を果たすために行うという、カイゼンの位置づけを明確すにすることでした。
その現場では製品の洗浄をエアーブローでする工程がありました。ただし、その工程は後付けで実施されたので専用設備がありませんでした。
現場は、出荷工程でエアーブロー作業を出荷の都度行っていました。そこで遠方にある場内エアー配管から延長ホースをつなぎ作業をしていました。
この作業に注目して、現場へカイゼンの提案をしました。作業自体が標準化されていなかったので、標準化することを現場へ提案したのです。
ここで、工夫をしたのは、カイゼンの最終目標は作業の効率を高める自動化であり、標準化はそれを実現させるための手段としたことです。
つまり、より効率よく仕事ができること、そのための設備投資を最終目標としたのです。
延長ホースをつなぎ、その後、製品のどの部位へエアーを何秒間、どれだけの流量エアーブローするのかといった標準化からスタートしました。
そもそもエアーブローは品質維持のためなので、過剰にならず適量なエアーブローを探るのに品質との相関を把握する必要があります。
そこで品質やエアー流量、吐出時間などの工程指標が必要になってきます。良かれと考えた方法が本当にイイ方法なのかの検証も欠かせません。
毎週1回の定期的な打ち合わせを現場で持ちながら検証を進め、3か月程度で標準化が見えてきました。
カイゼンの目的が設備投資であるということが、明らかに動機付けとなっていました。
「定期的にやるのでサボれませんね。」
その時、現場を仕切っていた現場リーダーのコメントです。定期な打ち合わせは自然と仕事を促す仕組みにもなっています。
こうして引き続き、作業の自動化を目指す設備投資の取り組みへつながりました。その現場では、設備投資を目標として、その後もいくつかのカイゼンを進めることができました。
それまで経験がない現場でも目標が明確となったカイゼンならばしっかりやる続けられるのです。カイゼンには明確な目的が必要なのです。
イノベーションを起こす手段とすることで、カイゼンの位置づけが明確になります。イノベーションを目指した長期計画の一環としてカイゼンに取り組むのです。
そこでは、カイゼンで獲得できる成果をイノベーションの原資となる将来投資につなげることが重要です。
そのために、経営者はイノベーションに必要な将来投資を事前に明確にしなければなりません。楽な仕事ではないですが、これは経営者にしかできない仕事です。
その結果、現場は、日々の生産活動の成果を将来投資につなげる工夫をし始めます。カイゼンが経営者の想いとリンクするのです。
自分が働いている会社のトップの想いを実現させるという目的が明確になったカイゼンとそうでないカイゼン、どちらが現場のやる気を引き出すでしょうか?
イベントと捉えられたカイゼンは日々の生産活動とは切り離され、現場の焦点は「困り事」に当たるのみです。
将来投資のために行うという明確な目標設定は、カイゼンを現場のやっつけ仕事にしないためにはとても重要です。
やる気が引き出されると、現場の自律性が発揮しやすい環境に近づきます。さらに、カイゼンを日々の生産活動の一環として行えば、現場全体で一体感を持てます。
日々の生産活動を通じてカイゼンを展開できる場を経営者が仕掛けるのです。
日々の生産活動の良し悪しは、QCDの視点から評価できます。また、将来投資の原資は日々の生産活動から生み出される付加価値です。その他にはありません。
ですから、所定の付加価値を生み出すために維持すべきQCDが設定され、それを維持する活動が生産管理です。
将来投資はQCDの管理から生み出されることを現場にしっかり伝えます。だからカイゼンは特別なイベントでもなんでもなく、日々の生産活動の一環で行われるものです。
そもそも日々の生産活動から生まれる付加価値が投資の原資であることを考えれば、カイゼンが生産活動の一環であるのは当然のことです。
QCDに着目した工程指標を設定します。工場の現状を全てオープンにして、”今”を知るための指標を共有します。
現場は知らされることで頑張れます。経営者から知らされると、現場は情報と共に信頼感も受け取ります。自分たちを信頼してくれたから知らせてくれた・・・。現場の”今”をオープンに表現した指標を経営者と現場が共有することで、一体感が生まれます。
さらにカイゼンでは、日々の生産活動の一環として行うための仕組み化が必要です。QCDに着目した工程指標をどのように日々の生産活動で生かすかです。
そこで現場で実践したいのが、”QCDをテーマにした定期的な”打ち合わせです。具体的には、工程指標の目標値と実績値を比較して、問題がある項目を評価する場です。
問題があると評価された項目の対策を打ちます。対策を打った後、そのフォローと評価を行って効果を判定するのです。これを繰り返します。対策案に効果があったのか、なかったのか検証するのに定期的な打ち合わせが欠かせません。
工程指標を設定し、定期的な打ち合わせを設けることが仕組み化です。
定期的に議論する場がなく、問題が発生する毎に、関係者が集まっては対策を打ち合わせる現場があります。そうした現場では、往々にして効果の検証が抜けます。集まって、対策を考え、それを実施しよう、で現場の対応が終わります。
したがって、対策に効果があったのか、なかったのか、その対策案を修正する必要はないのか、その対策案は定着したのか、という効果の検証が成されません。すると、また、ある一定期間が過ぎると同じような問題が・・・。
QCDに関する定期的な打ち合わせがない現場では、こうした状況に陥っていないかチェックする必要があります。
継続的な打ち合わせには、対策案の効果を検証する機能があるのです。カイゼンを仕組みで行う狙いはこの検証機能にもあります。
効果があると確認できれば、達成感が得られます。検証抜きで、問題発生毎に打つ手は対処療法、その場限りの対応に成りかねません。
QCDを対象にした定期的な打ち合わせを現場へ促すのは、経営者の大切な仕事です。
チームオペレーションを機能させることでカイゼンを現場へ定着できます。そのためには、持続的なやる気を引き出すための経営者による仕掛けづくりが欠かせないのです。
カイゼンが現場に定着していますか?
カイゼンは将来投資のために行うという明確な目標を設定していますか?
カイゼンは日々の生産活動の一環として行われていますか?
まとめ:カイゼンが定着しないのはチームオペレーションが機能していないから。持続的なやる気を引き出すための経営者による仕掛けづくりが欠かせない。