「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第251話 儲かるモデル構築で使う工程管理の知識とは?

「規格品だったらもっと楽なのに・・・」

60人規模板金加工企業、プロジェクトリーダーの言葉です。

 

プロセス分析で生産の流れを整理します。儲かる工程設計、ロット設計のためです。先の現場でも分析に着手しました。ご多分に漏れず多品種少量、突発特急、特注品職場です。

「先生、ウチの製品はいろいろあって、整理が難しいと思います。」とはプロジェクトリーダーの言葉。主要な製品から分析することにしました。

・・・ここで曲げ加工。その後、こちらで仮止め溶接。そして長さ1000以下ならこちらの手動機で、1000以上なら自動機で・・。確かに流れが複雑です。

工程分析をしていたとき、冒頭の言葉がプロジェクトリーダーの口をついて出てきました。

 

 

 

 

 

固定費を成長させたい中小製造経営者が考える収益構造があります。

固定費VS付加価値額です。

 

限られた経営資源で付加価値額を効率よく積み上げます。判断基準は人時生産性です。そして、付加価値額の規模を大きくします。

率だけ高めても儲かりません。規模があってはじめて儲かります。

 

率アップと規模拡大の具体項目が必要です。製造現場での儲かる行動指針と言えます。これを明らかにしないと製販一体で動けません。現場に具体項目を伝えていますか?

具体項目のひとつが「多品種少量生産」です。

 

ここで、生産能力1,000個の現場を仮定します。

貴社はどちらでしょうか?

・製品2品種で500個ずつ。(少品種多量生産)

・製品10品種で100個ずつ。(多品種少量生産)

 

お客様の要望が多様化している中、固有技術を絞った多品種化が正しい姿勢です。少品種に比べると、多品種の方が新規のお客様と出会う機会は多くなります。多品種は付加価値額の積み上げに貢献するのです。

 

ただし、小ロット生産が求められます。現場にとっては「面倒くさい」ことです。現場の管理技術が問われます。固有技術+管理技術=コア技術です。儲かる事業モデルもコア技術次第ということです。

 

多品種少量生産は中小製造現場の宿命です。お客様の要望に応えなければ生き残れません。とは言っても、お客様の要望に闇雲に応えるだけでは現場も辛くなります。

したがって、儲かる事業モデルを設計するときは、現場の負荷も踏まえたいところです。工程管理の知識が手がかりを与えてくれます。

 

 

 

 

 

中小製造現場の生産形態はいろいろです。分類する要点がいくつかあります。「設計のタイミング」はそのひとつです。設計が受注の前か後かで分類します。生産管理3本柱のひとつ、工程管理の知識です。

 

●受注の後に設計する:個別生産 

「受注→設計→購買→生産→出荷」

いわゆる特注品です。1回、ないしは数回で生産を終える製品の生産形態です。都度、個別にお客様の要望へ応えます。

この事業モデルでは突発・特急生産も多くなります。駆け込み寺のようです。日程計画では割り込みもあります。

 

小回り性、機動性、柔軟性を生かした中小ならではのモデルですが、現場はたいへんです。段取り回数も多く、工場全体、工程間、工程内の調整作業が日常茶飯事です。仕組みがなければ疲れます。

ただし、付加価値額や率は高く設定しやすいです。お客様の細かい要望に応えます。お客様も納得です。突発・特急では、要望に応えると高価格でもお客様は喜んでくれます。

 

儲けようと考えるなら、原則、特注品対応です。個別生産体制となります。付加価値額をある水準で設定しやすいですが、現場の負荷は増えて大変です。

チームで仕組みを回さないと、現場の負荷は「殺人的」に膨張します。

 

 

 

受注の前に設計する:ロット生産/連続生産

「設計→受注→購買→生産→出荷」

いわゆる規格品です。繰り返し生産する製品の生産形態です。1年から数年にわたって、一定数量を一定間隔で、お客様へ納品します。

この事業モデルでは日程計画が立てやすいです。定期的にお客様から受注が届きます。設計済の製品です。多品種少量生産であっても、規格品なら、日程計画の見通しが立てられます。

 

複数の品種を繰り返し生産するとなれば、品種ごとに生産量をまとめ、製品毎交互に生産すればいいのです。計画的なロット生産/連続生産体制でいけます。

見通しが立って、計画的である分、現場は楽です。自らコントロールできます。個別生産体制が大変なのは、自らコントロールできない要因が多いからです。

 

 

 

 

 

先の現場では、全てが特注品です。突発・特急も普通です。なにか事が起これば、都度、力尽く対応しています。プロジェクトリーダーがいなければ現場は回りません。現場で意思決定できる人が他にいないからです。

この状況を変えなければならないと経営者は考えました。これがプロジェクトをスタートさせた理由です。

 

製品据え付け部門を有するビジネスモデルです。作りっぱなしではありません。現行の人時生産性は4,000円前半で平均以上です。その強みを生かす新商品開発をしようとしています。

新商品開発では「外」を基準に考えます。「内」でできることを基準にした商品を開発しても、お客様に選ばれないのは明らかです。儲けの機会は全て「外」にあります。

とは言っても、効率よくつくる論点も外せません。少数精鋭の中小現場が最高のパフォーマンスを示せる環境整備も必要です。

 

儲かるために、「お客様に選ばれる」と「効率よく造る」を両立させます。

・お客様に選ばれるには特注品での個別生産

・効率よくつくるには規格品でのロット生産/連続生産

儲けるには相反する生産形態のいいどこ取りをすることになります。儲かる事業モデルを構築するにも工程管理の知識が必要です。「製造業」だからです。工学の体系があります。

 

お客様が期待している個別ニーズへいかにうまく対応するか?これが儲けのカギです。「貴社のために対応しました」感をお客様に伝えられたら、@付加価値額を高く設定できます。付加価値額率も高くできるでしょう。特注品、オーダー品の個別生産です。

一方、効率よくつくろうとするなら規格品です。繰り返し製品なので、現場も日程計画を自らコントロールできます。計画的にロット生産や連続生産すればいいのです。在庫も持てるので現場の混乱も減ります。

 

 

 

 

 

手にしたいのは、「顧客様に選ばれる」と「効率よくつくる」を両立させる事業モデルです。生産形態の観点を加えて考えます。

「特注品の個別生産」と「規格品のロット生産/連続生産」の特徴を知らなければなりません。中小現場の能力を最大化するためです。製販一体で現実解を探るのが正しい姿勢となります。

 

儲かる事業モデルは付加価値額規模と生産形態からも考えられます。大手や競合と同じ土俵では戦いません。全ては経営者の設計次第です。

・付加価値額=@付加価値額×販売数量=売上高×付加価値額率

・特注品の個別生産と規格品のロット生産/連続生産

生産形態の知識は、儲かる工場経営を設定する手がかりを与えてくれます。営業戦略や商品開発、プラントレイアウトの実務とともに考えたいことです。

 

 

 

 

 

当然のことですが、製販一体の発想がなければ、儲かる知恵は生まれせん。改革の狼煙は、経営者の意図を知った当事者意識を持つメンバーの議論からあがるものです。

ただ、闇雲に製販一体を現場へ期待してもダメです。ロードマップが先です。「変える」ためにどうするかを、まず、問わなければなりません。判断基準は「変える」です。

 

ロードマップで経営者の設定した価値観を浸透させてから、製販一体で議論をします。そうでないと、現場から出てくる意見は決まっているからです。

「できない」「無理だ」「いまのままで問題ない」

 

ロードマップ抜きでは、判断基準がベテランの「できる、できない」になりがちです。余分なエネルギーを費やします。ですからロードマップで将来を説明する必要があるのです。

成長させる固定費規模、人時生産性の目標値を示します。

 

先の企業は新商品開発に着手するところです。「この観点は気が付きませんでした。」とは経営者の言葉。来月から製販一体での議論に着手します。

「特注品のように販売し、規格品のようにつくる」です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、製販一体で工程管理の知識を生かし、儲かる事業モデルを構築する。

停滞する現場は、工程管理の知識を生かそうとせず、相も変わらず「できない」という。