「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第259話 設備だけでなく人の効率も評価できるか?

「従業員の心が疲れてしまう感じがします。」

先週、個別相談をいただいた従業員数20人、小規模組立系製造企業経営者の言葉です。

 

先代から事業を引き継いだ女性経営者です。仕事の進行は現場のベテランに任せています。ただ、そのやり方に限界を感じているのです。受注ロットが小さくなり、要求仕様も複雑化しています。

 

ベテランが一生懸命に対応してくれていますが、新人がついてこられません。その結果、会社を辞めてしまう新人もしばしばです。そもそも、適正な生産能力も把握できていません。目隠しをしたままマラソンをしているようなものです。

 

現場の負荷が高まっています。「何も手を打たなかったらどのような問題が起きますか?」と尋ねたとき、冒頭の言葉が返ってきました。

 

 

 

 

 

工場が持つ「稼ぐ力」は付加価値額の率(生産性)と規模の2つで表現できます。

率が高くて、規模が大きいのが理想です。率は低いが、規模が大きいのは合格です。率は高いが、規模が小さいのは今一つです。

 

製造業の収益構造は固定費VS付加価値額になっています。収益は固定費と比べてなんぼです。結局、黒字化か赤字かは付加価値額の規模で決まります。

ただし、率(生産性)も見なければいけません。投入できる分母には制限があります。率を見据えつつ、規模を大きくするのが正しい姿勢です。

 

 

 

 

 

付加価値額人時生産性は率(生産性)を評価する代表的な指標です。弊社はこの指標を重視しています。

中小製造企業3,000~4,000円/人時、大手製造企業6,000~7,000円/人時が目安です。現状値と目標値を設定して変化を見ます。低下傾向を認識したら、原因を探るのです。

 

・分子の大きさに比べて投入する分母が大きくなりすぎていないか?

・分母の大きさに比べて積み上げる分子が少なすぎないか?

 

会社も生き物です。体調が悪くなることや、運動不足で最近太り気味ということもあります。そうなること自体は仕方がありません。

外部環境は変化します。企業活動とはそれに対応しようと内を変えることです。変える過程でいろいろなことが起きます。

 

経営者に必要なのは、体調変化を知る術を持つことです。

貴社には術がありますか?

ご支援をしている現場でも、良品率、稼働率、原価達成率、一日当たり生産量等々、多様な指標で体調変化をとらえようとしています。

 

工場のパフォーマンスを監視するいろいろな観点を持つことです。そして、貴社ならではの判断基準体系をつくります。

 

 

 

 

 

設備総合効率は工場のパフォーマンスを評価する体系のひとつです。

もともと、TPM活動における設備の使用効率を示す指標です。バッチ生産やロット生産の現場で用いられています。私も自動車部品工場時代、その考え方を使っていました。

設備総合効率は多くの経営者に知ってもらいたい指標です。対象は「設備」なのですが、「人」にも応用できるからです。

 

設備総合効率はロスと関連付けて説明されます。

・時間稼働率:設備の段取りと故障による停止ロスの大きさ

・性能稼働率:チョコ停と設備速度低下による性能ロスの大きさ

・良品率:不良と手直しの不良ロスの大きさ

(出典:生産管理用語辞典 日本規格協会)

最後の良品率は直行率と表現したほうがいいかもしれません。これら3つの積で総合的に評価します。

 

設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率(直行率)

 

このように3つの項を掛け合わせ、分母と分子を約分していくと最後に残るのは次です。

・分母:設備の持ち時間

・分子:良品を製造するのに要した時間

 

現場に投入した時間に対して良品を製造した時間の割合を示す指標になっています。生産量と時間は比例関係にあるという前提です。

設備の持ち時間の全てが良品を製造するのに投入されるのが理想です。それを達成できない場合、3つの観点で原因を究明します。

 

付加価値額の積み上げが効率的でないと認識したら、次の3つの側面から調べよとこの指標は教えてくれます。

・稼働状況

・サイクルタイム

・品質状況

 

工場のパフォーマンスは3項目から構成されているということです。

 

このように分解できると、重視すべき項目に焦点を当てやすくなります。どこが弱くて付加価値額を積み上がらないのか?的確な対策を打てるのです。

チーム力を高めるためにはベクトルをそろえる必要があります。的確な対策があってこそベクトルが揃うのです。儲かる工場経営、納期遵守以外の論点がここにあります。

 

 

 

 

 

値決めレートを設定するとき、モノづくりの主役は?と貴社でも考えるでしょう。モノづくりの主役は「設備」だけではありません。「人」の場合もあります。

設備総合効率は文字通り「設備」を評価していますが、「人」が主役の現場にも適用できるのです。

 

先の経営者は「作業者の心が心配」と語っていました。3項目のどれにあたるでしょう。

性能稼働率です。

サイクルタイムの維持が課題となります。

 

・溶接作業

・組立作業

・取付け作業

・汎用加工作業

などなど、「人」が主役の仕事は「手作業」が大部分を占めます。そして、「手作業」が主体となる仕事の駆動力は作業一人ひとりのモチベーションです。ここが自動機と異なります。

やる気を持って主体的にやれば「手作業」の質が高まり、サイクルが短くなるのです。逆に家庭の心配事がある中で「手作業」に従事したら・・・・。

 

サイクルがモチベーションで変動するのです。

ある組立系ラインの課長が「ウチの課題はモチベーションの維持です。」と説明してくれました。「人」が主役の職場で効率を確認する3つの側面を次のように把握している課長です。

・稼働状況

・サイクルタイム(モチベーションの影響あり)

・品質状況

 

 

「人」が主役なら、性能稼働率に焦点を当てます。時間稼働率や良品率ではありません。もちろんこれも大切です。

重要管理ポイントは?と問われたら性能稼働率であるということです。人のモチベーションを評価する必要があるからです。

体系があって、焦点が明らかになるとベクトルが揃います。

 

 

 

 

 

工場の特徴を把握したうえで、どこが弱くて、どこが強いのか?得意領域や不得意領域を知ることは人時生産性を高めるのに大切です。

複数の判断基準を持って体系的思考ができます。

 

工場のパフォーマンス評価だけでなく、固有技術の評価も同じです。

加工技術には、切削加工、鋳造加工、プレス加工、射出成型などいろいろありますが、それぞれ弱いところと強いところ、得意分野や不得意分野があるものです。

万能の技術などありません。

したがってパフォーマンスの判断基準を多く持つことは的確な固有技術を選択することにつながります。

昨今、カーボンニュートラルやSDGなど新たな判断基準が追加されていることには注目する必要がありそうです。

 

 

 

 

 

「なるほど、そのように考えれば現場のパフォーマンスを評価できますね。」とは先の経営者の言葉。従業員一人ひとりの気持ちをくみ取っている経営者です。

性能稼働率を高める論点をいくつか提案をしました。モチベーションを維持、高揚させてもらう具体項目です。もやもやしていたことが、少々晴れました。

 

人はどんなに辛くても、やることが見えて、見通しや希望が持てたら頑張れます。付加価値額を積み上げる体系があるのです。目隠しのマラソンでは限界があります。

 

ただ闇雲に3つの観点で評価しようとしても失敗します。具体手段は現場によってケースバイケースだからです。特に性能稼働率がそうです。

時間評価と出来高評価の見極めなど、手順があります。実地に即したやり方を理解する必要があるのです。弊社は挑戦する経営者のご支援を力一杯しております。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、工場の効率を評価する的確な指標でベクトルを揃えチーム力を高める。

停滞する現場は、 工場の効率を評価する体系がないので、相変わらず納期遵守だけである。