「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第258話 儲かる工場での営業の役割とは?

「成約率では営業の役割が伝わらないですね。」

個別相談での中堅設備メーカー経営者の言葉です。

 

人時生産性向上の実務についてご相談をいただきました。生産性向上ですから、分母と分子の実務に触れます。外と内と製販一体がテーマです。

先の企業では「成約率」を営業活動の判断基準にしています。そこで人時生産性を向上させる実務を従来のやり方と比べてもらいました。

営業活動に期待していることを成約率で評価することは難しいようです。

 

 

 

 

 

ご支援先の現場でしばしば耳にする表現があります。

「現場と事務所」

「製造と営業」

 

連携や連帯の話ではありません。真逆です。

「事務所は現場のことを理解していない。」

「現場は勝手なやり方もしている。」

「営業の言うことは聞いていられない。」

「製造は自分たちの計画を優先して営業の話に耳を傾けてくれない。」

 

「現場と事務所」「製造と営業」。なぜか、これらが二律背反、場合によっては二項対立として語られることがあります。

製造現場の二重構造が誤った考え方で浸透するとそうなります。「分担」の弊害です。「役割」を忘れています。

 

チームに所属しているメンバーには貢献する義務があります。スポーツと同じです。勝つための貢献が求められます。勝つために仕事をするのがメンバーに共通の役割です。

その「役割」を果たすために「分担」があります。全てに優先するのが役割です。「役割」を忘れると先のような思考になってしまいます。

 

従業員一人ひとりに期待されていることがあります。チームの儲けに貢献することです。自分は何ができるか?何をやらなければならないか?貴社ではこうした思考回路が浸透していますか?問題を感じたら手を打たなければなりません。

 

 

 

 

 

営業の役割とは?儲けの観点で人時生産性の構造を考えれば明らかです。付加価値額、つまり分子の積み上げです。

欲しいのは付加価値額の規模です。営業に求めるのは効率ではありません。付加価値額の規模です。売上高ではなく、付加価値額です。

 

製造現場が担うのは「詰めて、空ける」です。分母の効率を高めてリードタイムを短縮します。ただし、これだけでは儲かりません。

空けたところに「仕事を取り込んで」はじめて人時生産性が高まるからです。

・製造の役割:分母の効率を高めリードタイムを短縮し詰めて空ける。

・営業の役割:空けたところに仕事を取り込み新たな付加価値額、分子を積み上げる。

 

 

 

 

 

営業の役割は受注を獲得し、付加価値額を積み上げる機会をつくることです。そうであるなら、経営者が営業メンバーに伝えたいことは、ただ一つです。

「あなたには、この1年間で●●円の付加価値額を積み上げて欲しい。」

 

営業活動の評価基準は積み上げた付加価値額の規模そのものです。

儲かる工場経営は将来投資である固定費の規模感設定から始めます。利益アップ給料アップの本質は固定費回収にあるからです。

 

営業メンバーに期待するのは、経営者が設定した固定費を回収する分の付加価値額を獲得することです。付加価値額の規模を問います。

・営業の役割は付加価値額を積み上げること

 

こうなると契約率や値引きルールは付帯事項です。

10件アプローチして5件成約した場合、10件アプローチして3件成約した場合、成約率では前者が良好となりますが、積み上げた付加価値額の規模で判断すると後者が良好となるかもしれません。

また、「ルールに沿って値引きに応じたから、自分の役割は終わった」ではもったいないのです。それはそれとして、経営者から期待されている付加価値額の規模まで、あとどれだけ必要なのか?値引きで減った分の付加価値額をどこから持ってくるのか?

こうした積み上げの思考回路が欲しいのです。

 

 

 

 

 

「値引きに応じても構わない。期待している付加価値額の規模を達成してくれるならやり方は任せる。」

経営者が営業メンバーへ問いかけることはこれだけです。経営者が設定した固定費を回収できるか否か、これしかありません。

こうしたやり取りを通じて、営業メンバーは成約率でも売上高でもなく、付加価値額の規模が大切なのだと理解するのです。これが役割であるとわかります。

 

知り合いの経営者が次のように語っていました。

「企業で最も大切なのは忠誠心、2番目は協調性、3番目は任された仕事を最後までやりぬくこと。」

これは、しばしば紹介している組織活性化の3項目に通じます。組織活性化の3項目とは下記です。

共通の目標

チームへの貢献

コミュニケーション

 

忠誠心も協調性もやり抜くことも、全てチームへ貢献したいという気持ち次第です。公式、非公式のコミュニケーションを深めて共通の目標を浸透させます。

儲けに貢献して欲しいのです。分担の前に役割があることを理解させる必要があります。

 

20~30名程度のチームなら、分担と役割の考え方が少々曖昧でも、経営者の力尽くが機能します。しかし、売上高5億、8億、10億と成長させ、チーム力を高めたいと考えるなら、分担と役割の徹底は不可欠です。

 

経営者が営業メンバーからの「社長、値引きを求められています。どうしたらいいですか?」という姿勢にいちいち対応していたら社長業に専念できません。

 

「我々の判断基準は人時生産性を4,000円台へ高めることだ。営業による分子の積み上げに期待している。」こうした考え方を浸透させて営業チームを機能させる必要があります。営業の役割は付加価値額を積み上げる機会を作ることです。

しっかり伝えないと、理解してもらえないことがあります。経営者は伝えたつもりにならないことです。

 

 

 

 

 

付加価値額の積み上げが営業チームの最重要課題ですが、闇雲にやっても失敗します。

付加価値額を形にするのは製造だからです。投じられる工数には制約があります。量的側面、時間的側面を両立させる日程計画に沿って製造しなければなりません。

生産管理3本柱の基礎知識に基づく体系と手順が必要です。弊社は挑戦する経営者のご支援をさせていただいています。

 

「なるほど、これなら値引き要求のたびに頭を悩ませることはなくなりますね。それに目標がシンプルで伝えやすいです。それで、積み上げる付加価値額の規模はどのように決めればいいでしょうか?」

先の経営者の頭の中に具体項目が浮かんできたようです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、営業が付加価値額を積み上げる活動を自ら回し製造と連携している。

停滞する現場は、営業が成約率や売上に焦点を当てるので儲けの考え方を共有できない。