「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第273話 手が空いた時、現場は何をしているか?
「先生、現場のリーダーを見てください。」
50人規模板金加工メーカー幹部の言葉です。
先日、ご訪問して、現場に入ったときのことです。リーダーが10人ほどの作業者を相手にワイガヤやっていました。また、組立工程では作業者同士でスキルアップに励んでいます。
幹部が状況を説明してくれました。「今は仕事量が少なく、この1週間は手が空くのですが、その空き時間にリーダーが動き始めました。こんなことは初めてです。」
リーダーが主導する自主的な活動を喜んでいる幹部です。
現場の手が空いた時にリーダーがどんな言動を示すかは、その企業の経営者や幹部の姿勢次第です。現場が経営者や幹部の思考回路以上の言動を示すことはありません。
その意味で、先の現場では幹部の執念が実りました。付加価値額人時生産性向上活動をやらなければと考えた幹部の想いが現場に浸透したようです。
ご支援先で、現場リーダーや班長が、「納期を守れているから問題ないです。」「今、仕事が薄く、手が空いています。」と発言するのを耳にすることがあります。
経営者から現場の管理を任されているリーダーや班長です。現状把握をしている点では頼もしいのですが、リーダーや班長にもう一段目線の高い仕事ぶりを期待したいのです。
納期遵守は今や当たり前です。競合先と同じ事を考え同じ行動をしている限り差別化はムリです。これは商売やるうえで論を俟たない事実です。
お客様視点は大切です。お客様から付加価値額の原資をいただいている以上、お客様の方を向かないモノづくりはありません。しかし判断基準までお客様に合わせる必要はないのです。
儲かる工場経営を標榜する経営者なら、自ら設定した「固定費」を徐々に成長させていきます。そして、それに合わせて付加価値額規模を拡大させるのです。
製造業の収益構造は固定費VS付加価値額ですから、豊かな成長に設備や人材への「投資」が欠かせません。投資をしたら回収します。経営者が毎月の付加価値額積み上げスピードを決めます。
納期遵守だけの現場とは付加価値額積み上げスピードをお客様に決めてもらうことになるのです。現状維持の黒字確保はできるかもしれません。が、利益アップ、給料アップ、人時生産性150%アップの儲かる工場経営にはなりません。
「納期遵守以外の論点」を持たないと儲からないとお伝えしている所以です。経営者が決めた毎月の付加価値額積み上げスピードを達成してこそ儲かります。
こうしたことは現場のリーダーや班長は知りません。現場は日々の生産活動で手が一杯です。日々の生産活動だけが自分の仕事だと思い込んでいます。
それ以外の業務は「余分なこと」と考えてしまうのです。知らないことは教えなければなりません。
我々の役割は分担に関わらず、全員で儲けを積み上げること。暇であろうが、忙しかろうが改革改善を繰り返すのだ。そうして、利益アップ、給料アップをするのだ!!
こうした思考回路を現場へ組み込みます。経営者が納期遵守以外の論点の重要性を現場へ伝えない限り、人時生産性向上プロジェクトは機能しないのです。
・納期遵守以外の論点=付加価値額人時生産性向上
5,000円、6,000円、7,000円・・・を目指して。
毎月積み上げられる付加価値額を100とするなら、今の設備と人員のままで、130、140、150・・・と伸ばせる現場に変えたいのです。
これが人時生産性向上活動です。
2つやることがあります。
1.積み上げる分の新規受注を獲得する。
2.積み上げた分の受注をこなせる現場に変える。
後者は、「忙しいからできない。」とは言わない現場に変えることを意味します。納期遵守に加えて、現場自身も変わるための活動をやるのです。
先の現場でも納期遵守は全く問題になっていません。
経営者が気にしていたのは、我が社の工場はどこまで稼働したら儲かるのか?でした。新商品を上市しようとも考えています。
せっかくの自社開発商品です。儲け幅を拡大したくなります。その目安が必要でした。そして、検討の結果、それが明らかにされました。
なるほど、この物量水準までこなせる現場にならないと儲からないのか!!
現状は100だけど130にしなければ儲かる水準にならないことが明らかになるのです。現状VS目標。人は数値で目標を示されれば頑張りたくなるものです。
数値の威力と言えます。個人よりもチームであるならなおさら頑張りたくなるはずです。
・受注、設計、見積もり、作業指示書…仕事の体系を見直なおそう。
・現場での作業手順や工程間連携を強化しよう。
・スキルが低い作業者の支援をしよう。
等々
儲かる物量水準をこなせる現場に変わるための具体項目です。日々の生産活動以外で取り組む項目となります。
生産活動が忙しいとできません。手が空いた機会を見つけてやることになります。自主性がなければ継続できません。先の現場はそうした現場に変わりました。
仕事量が少なくて現場の手が空く時間があったとします。そこで、新たに生産性向上活動に着手しようとしたとき、貴社の現場はどちらの反応をしますか?
・「仕事の量が少ないのに、なんで生産性向上をやらないとだめなのだ。無駄だろう。」
・「手が空いているので新しいやり方を全員で学ぼう。生産性を高める絶好の機会だ。」
先の現場も、従来は、手が空くと、やることがないということで、「なんとなく5S」とか「なんとなく打合せ」をやっていました。時間つぶし以外の何物でもありません。
しかし、今はもう違います。手が空いた時間を人時生産性向上活動の機会と捉える現場に変わりました。幹部はそのことが嬉しいのです。
そこには、幹部の努力がありました。
人時生産性向上の論点を現場へ繰り返し教えていたのです。分かるまで繰り返しやりました。執念が実ったのです。
繰り返し、繰り返し教えなければ納期遵守以外の論点の重要性は伝わりません。重要度は高くても緊急度が低い仕事とはそういうものです。
だからこそ逆に、それをやり切れば競合に勝てるわけです。
納期遵守が全てと考えるA社の現場は、手が空いた時間は「暇な時間」と考えます。お客様の納期に合わせて仕事をしているので、そう考えるのが普通です。
納期遵守以外の論点を理解しているB社の現場は手が空いた時間は「活動の時間」と考えます。人時生産性向上が豊かな成長に欠かせないことを知っているからです。
日々、生産に忙しいので、手が空いた時間に「できないことをできるようにしよう」とします。人時生産性向上の論点を理解して、それを実践するのです。
このまま、A社とB社が、5年、10年の時間を積み重ねるとどうなるでしょう?
B社は利益アップ、給料アップの5,000円、6,000円、7,000円・・・を実現させます。どちらの経営者や従業員が豊かな生活を送れるか?もう明らかです。
貴社はどちらですか?
両者の違いは、経営者や幹部が、我々には納期遵守以外にも大事な取り組みがあるのだと教えているか否かに起因します。現場自体の良し悪しではありません。
現場に組み込まれた思考回路の差です。つまり経営者や幹部の姿勢の差です。生き残るためにやらないとならないのです。
納期遵守の思考回路が悪いと言っているわけではありません。それだけだと事業を豊かに成長させらず、生き残れないと言いたいのです。時代の流れには抗えません。
右肩上がりの時代が終焉した21世紀、競合と同じことをやっている限り差別化はできないのです。空き時間での言動に「現場力」が表れます。
お客様の納期“だけ”に合わせて仕事をしている現場からは、しばしば「忙しいからできません。」という言葉が返ってきます。
さらに、そうした現場に限って、仕事が減って手が空いたら空いたで、今度は「そんなことをやっても無駄です。」と言う言葉が返ってきます。
現場は知らないだけです。
したがって、現場は事情を知れば頑張ります。それが製造業の現場です。もともと、中小現場には、柔軟性、機動性、小回り性などのチーム力があるのです。
貴社の現場にも「眠れる経営資源」が必ずあります。
プロジェクトを通じて、納期遵守以外の論点を現場へ伝えます。プロジェクトキーパーソンへの指導もカギです。
ただし闇雲にやってもダメです、手順があります。5年先、10年先の見通しを示したロードマップにこそ現場を動かす原動力があるからです。
次は貴社が成長する機会をつかむ番です!
成長する現場は、人時生産向上の重要性を知っているので手が空いた時間に活動を進める。
停滞する現場は、納期に合わせて仕事をするので手が空いた時間は暇な時間と考える。