「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第272話 「正しい」目標設定ができる体系を持っているか?

「これからどんな数値目標を設定すればいいでしょうか?」

100人規模の射出成形メーカー経営幹部の言葉です。

 

プロジェクトも後半戦に入りました。仕上げへ向けてプロジェクトチームの一体感を高めます。弊社プロジェクト完了後に本当の意味での改革本番を迎えるからです。

メンバー間での共通用語が増えてきました。定義に沿った数値で状況報告がなされるようなりました。中長期的には、収益規模を大幅に成長させる意欲的な目標も設定しています。

 

そこへ向けた具体行動を徐々に本格化させる段階です。これまでも数値目標を掲げてきましたが、取り組みのステージが高まったのに合わせて、数値目標の体系も見直します。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

目標設定の重要性については論を俟ちません。多くの経営者もそのことを知っています。その一方で、上手くできないのも目標設定です。

ドラッガーは目標を次のように説明しています。

目標とは、事業の構造、活動、人事の基盤となるものである。全体の構造だけでなく、個々の部門と個々の仕事の内容を規定するものである。

ドラッガーは目標設定に階層があると語っています。

・全体の構造

・個々の部門

・個々の仕事

 

目標は階層構造になっている必要があります。経営者目線と従業員目線は違うからです。従業員目線から経営者視線への移行を階層で表現します。

目線の違いに配慮できないと掲げた目標はスローガンや標語のようになってしまいます。埃をかぶったまま工場の壁に貼られている「安全第一」のポスターのようです。

 

目標が目標として機能していません。

目標が機能していない現場では、「安全第一」と表示された看板の下でやられている不安全行為を放置します。目標は機能するように設定しなければなりません。

 

また目標は数値である必要があります。経営者の最重要業務である「フォローと評価」とは比べることだからです。言語表現だけでは比べる対象として、客観性に欠けます。

経営者の指示は、後日、フォローされ、評価されなければなりません。フォローと評価によるフィードバックが現場のスキルを高める唯一の手段だからです。

 

このプロセスが抜けると、現場は「丸投げ」されたと受け取るのです。

ご支援の中で「言ったことを現場は守らない。」と嘆きのコメントを語る経営者がいらっしゃいます。その時にお尋ねするのが、この「フォローと評価」です。

丸投げされた現場のことを慮れば、なぜ「言ったことを守らない」のか、その理由が想像できます。丸投げせず、「フォローと評価」をするには数値目標が必要です。

 

 

 

 

 

弊社が掲げる儲かる工場経営とは利益アップと給料アップです。人時生産性向上。生産管理3本柱による具体策の体系づくりをご支援しています。

大手と同じやり方をしても上手くいかないので、少数精鋭中小現場の実情に合わせてご指導をしています。

そこで、少数精鋭中小現場の一人ひとりに“納得して”頑張ってもらうのに欠かせないのが目標設定です。

 

 

中小現場の管理者時代に痛感しました。赤字職場を黒字化させる取り組みで感じたことです。単なる目標設定ではダメでした。

「正しい」目標設定でなければなりません。成果を出すためです。赤字職場を黒字化させるときの目標設定は黒字化を目指そう!!ではダメだったということです。

 

どんな現場でも持っている判断基準があります。納期遵守です。製造現場を仕事場に選択した以上、若手はこれを先輩従業員から教わります。

日々の仕事をこなしていくなかで納期は守るものだという思考回路が組み込まれてゆくのです。しかし、納期遵守の思考回路だけでは儲からなくなりました。

 

中小現場の管理者時代に担当した赤字職場で従業員を前にして黒字化を目指して頑張ろうと伝えたのですが、手応えがありません。

なぜか?

作業者は毎日、納期に追われて仕事をこなしています。納期を守るためです。自分は一生懸命に仕事をこなしていると考えています。

 

そもそも少数精鋭です。大手現場の仕事ぶりを知っている私の目から見てもバタバタ忙しそうでした。

作業者にしてみれば、「自分が一生懸命に仕事をこなしていること」と「赤字であること」が一致しないのです。経営者の意向が浸透し、数値慣れをしている現場でなければ、赤字と言われても「?」となります。

 

「伊藤さん、赤字になったと言われても何をすればいいかわかりません。」現場の若手に言われて気が付きました。大手現場と中小現場の思考回路は違います。違いに留意です。

 

そこで、まず、納期遵守だけでは儲からないことを説明しました。今から10年ほど前の話です。当時、私は中途入社の管理者でした。顔が利くとか力づくとか、無理やり現場を動かすことはできません。

そうした状況でも、2年後黒字化できたのは、「正しい」目標設定のおかげです。このあたりの経験事例をセミナーやご支援の中でお伝えしていますが、結局、納期遵守以外の論点を知ってもらうことが要点でした。

 

 

 

 

 

納期遵守以外の論点があり、その論点が人時生産性です。貴社のそれを5,000円、6,000円、7,000円・・・と高めます。

しかし、これを直接に目標値としてもダメなのは明らかです。ドラッガーの指摘にあるとおりです。目標には階層があります。「正しい」目標設定でなければならないのです。

 

製造業の収益構造は固定費VS付加価値額です。固定費は経営者が決めます。自社の豊かな成長と発展のために必要な費用(投資)です。何としてでも固定費を上回る付加価値額を積み上げなければなりません。お客様からいただくのです。

したがって、最重要目標値は付加価値額となります。そして、それらを獲得するための工数とのバランスが人時生産性です。利益アップ、給料アップの指標になります。

 

付加価値額や人時生産性が重要指標であることに間違いありません。しかし、いきなりこの数値を現場へ示しても作業者は「?」となります。

日々の業務がこれらにどう貢献しているのかが分からないからです。いきなり経営者視点で現場へ語っても刺さりません。だから階層なのです。

 

 

 

 

 

数値目標の体系を設計できなければ階層を決められません。結局、人時生産性向上活動の体系と手順が明らかにならないと「正しい」目標設定ができないということです。

経営者の考える大日程計画と現場活動を連動させるのが人時生産性向上活動の体系と手順となります。

 

人時生産性向上活動をスタートさせるにあたって、経営者の方々と議論を重ねます。体系が明らかになって見えてくるのが人時生産性向上の論点です。

何を、どうやって人時生産性を5,000円、6,000円、7,000円・・・と高めるか、貴社ならではの具体項目が整理されます。

ここまでくれば、あとは目標設定の階層設計です。ドラッガーの知恵も拝借します。作業者目線から経営者目線への階層構造です。

 

◎第1段階:現場の頑張り評価

・製造現場各工程の個別の頑張り

・営業部門担当者の個別の頑張り

 

◎第2段階:製販一体評価

・製販一体の頑張り

 

◎第3段階:工場全体評価

・利益の裏付け

 

上記の体系を紐解くと下記になっています。

「内」「外」→「製販一体」→「全社」

 

例えば、全社の人時生産性は第3段階です。商品別、製品別は第2段階です。重要なのは第1段階の設計です。

製造現場各工程を対象にした目標は総合効率の構成要素が候補になります。また、営業部門担当者を対象にした目標はずばり“付加課額の規模”でしょう。

営業スタイルもリモートに変わりつつあります。非接触の営業活動であっても、その成果へのフォローと評価が欠かせません。ここに新たな項目を掲げた経営者もいらっしゃいます。

 

現場に刺さる目標を第1段階に掲げることが目標設定体系づくりのキモです。経営者からのフォローと評価も現場の琴線に響きやすくなります。

売上高や利益だけの目標では標語になってしまうのがオチです。貴社では正しい第1段階の目標を設定できていますか?

 

そして、目標設定で留意すべきことがあります。特に第1段階です。

現場の「各工程」を収益や収益率で評価してはならないということです。

 

付加価値額の規模や固定費の配賦率は各工程の管理者に決定権がありません。現場でコントロールできない要因を含む指標では納得感が得られにくいのは明らかです。

原則、「各工程」が個別に頑張り、自己で完結できて成果を上げられる目標にします。動機付けです。

 

 

 

 

 

数値目標の体系を設計し階層化して、数値に経営者の考えを語ってもらいます。数値に語らせるのです。数字が経営者に変わって仕事をしてくれます。

経営者はその分、楽になるのです。

 

ただし、闇雲に目標設定の階層づくりをすればいいわけではありません。新たな思考回路を現場へ組み込むことが必要です。大手と中小の差異に留意してプロジェクトを進めます。

 

意欲的な経営者は挑戦しています。「正しい」目標設定で人時生産性150%アップ、利益アップと給料アップを実現させるのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、内・外→製販一体→全社の目標体系でベクトルを揃え生産性を高める。

停滞する現場は、売上高や利益を目標に掲げられ、当事者意識が生まれず標語で終わる。