「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第28話 カイゼンを考える枠組みを現場へ示す

カイゼンを付加価値の視点でとらえれば、イノベーションと同じく「代替」「類似」「創出」の3段階の考え方を適用できる。考える枠組み(フレームワーク)を現場へ示せば、現場は解決策を広い水準で考えることができる、という話です。

 

カイゼンの対策を考える枠組みを現場へ示していますか?

カイゼンをイノベーションへつなげる仕掛けをしていますか?

 

 

カイゼンとイノベーションはセットです。カイゼンあってのイノベーションであり、イノベーションあってのカイゼン。

両者を組み合わせることで、活動が現場に定着しやすくなります。

当社がご提供する10年ロードマップ戦略ではカイゼンをトリガーとして現場のモチベーションを高めるところから始めます。

そして、そこからイノベーションへ繋げる仕組みを構築していくのです。キモはカイゼンからイノベーションへの連続性。

しかしながら、カイゼンとイノベーションを切り分けて考えている経営者が多いと感じています。

新製品開発を現場に任せず、自ら手掛けて進めている経営者もいらっしゃいます。次期の主力製品を自らの手で生み出さねばという強い責任感からです。

そうした姿勢で臨まれているなら、もっと経営者の負担が軽くなって、成功の確度が高まる取り組みをして欲しい、そう感じています。

ですから、カイゼンからイノベーションへの連続性をご理解いただきたいのです。

自社でイノベーションを起こして、事業展開をワンランクアップさせたいと多くの経営者は考えます。変化に対応できなければ、生き残れないことをご存じだからです。

そこで、カイゼンからの連続性に注目してイノベーションを起こす仕組みを考えるのです。

 

 

 

 

技術開発や商品開発、イノベーションは、その達成水準からおおよそ3段階に分類できます。

1st stepは「代替」、2nd Stepは「類似」、3rd Stepは「創出」

例えば、自動車の軽量化で、これら3段階を具体的に説明すると以下のようになります。

まずは、1st step「代替」。

軽量化では、第一段階となる従来と同一材料で考える水準です。

鋼製の部品であるならば、鋼を使って、求められる機能を維持する最も軽い構造を追及するケースです。

現行の加工方法を改良、あるいは新たな加工プロセスを考案します。そして、最も軽い構造を生産できる製造技術を確立します。

具体的には鋼の薄肉化や熱処理の工夫による材料強度アップ。従来材質の性質を極限まで引き出します。

「代替」なので、従来技術の延長で考えたイノベーションです。

 

次に、2nd Step「類似」。

軽量化では、第二段階となる従来と異なる材質で考える水準です。

鋼をアルミ合金、樹脂などに材料置換する。軽量化対象品、そのものは従来通りですが、材質で革新を狙っています。

「類似」なので、全般的には似ています。が、いくつかの革新的要素を含んだイノベーションです。

 

最後の3rd Step「創出」。

軽量化のために、誰もやったことのないアイデアを実現させる水準です。新たな市場を生み出すような水準です。

車の構造を根本的に変えるような水準。これまでに類を見ない飛びぬけた技術の水準です。

具体的なアイデア、浮かびますか?(これは難易度が高いです・・・。)

 

 

また、剃刀で例えると次のような感じです。

従来は一枚刃構造だったのが、剃り味を上げるために2枚刃構造を考案した水準が「代替」。前例があって、前例の延長線上で描く技術開発や商品開発が当てはまります。

電気カミソリは「類似」です。剃刀に類似していますが、電気で刃部を連続可動させる革新的要素を含みます。

さらに、TVで表現すれば、「代替」は有機ELパネルTVや4K、「類似」は3DのTVというところでしょうか。

そして、「創出」はまったく前例のない新たな価値を顧客に届ける水準のイノベーションです。

顧客のニーズ、届けたいコトに焦点を当てた、これまでに類を見ない技術の開発や商品の開発です。何度も事例で取り上げていますが、iPhoneがそうです。

考えてみれば、世界初のラジオもTVもカメラも全て新たな市場を生みました。歴史を振り返ると、こうした水準のイノベーションを重ねてきたことにも気付きます。

3rd Step「創出」の判断基準は新たな市場を創出するか否かです。

 

 

 

 

こうした3水準は、技術開発やイノベーションの優劣を意味するのではありません。イノベーションのターゲティングを意味しています。

1st stepの開発が求められる場合もあれば、画期的な3nd Stepを狙いたい場合もあるでしょう。

当然、1st→2nd→3rdと進むにしたがって生み出される付加価値の規模は拡大します。

私自身が携わった開発業務では1stおよび2ndはありましたが、3rdの水準はありませんでした。

新たな市場を創り出すほどのイノベーションを是非目指したいです。しかし、当然ながら、そう簡単に成果の出る仕事ではないのも事実です。

 

 

 

 

現場のカイゼンもイノベーションと同様な分類ができると考えています。長年、現場でカイゼンを実施してきた経験から感じていることです。

カイゼンもイノベーションと同様に「代替」、「類似」、「創出」の水準で分類できるということです。

かって企業に所属しエンジニアとして仕事をしていた時、大手と中小の現場でカイゼンを実践してきました。

そして、大手の現場で、こうした分類の意識は全くありませんでした。問題点を見つけ、望ましい姿を描き、ギャップを課題に変換して、計画を立て・・・・、こうした流れで自然と仕事が進みました。

カイゼンの”分類”を意識したのは、中小の現場でカイゼンを推進しようとしたのがきっかけです。中小現場でカイゼンを実践しようとした時、大手では経験しなかった印象を現場から感じたからです。

それは、現場からの反応がイマイチだったということです。

これは、決して現場のメンバーの怠慢というのではありません。

何をどうしてイイのかイメージが湧かなかった、そもそもカイゼンの仕組みがなかった、ということに起因していました。

そこで、何をどうするのか?カイゼンのイメージを現場と共有するために、目指す水準の3分類を説明したのです。

考える枠組み(フレームワーク)を現場へ与えることで、アイデア出しを促しました。

 

 

 

 

イノベーションの対象は、顧客へ届けるコトを規定した設計品質です。

一方で、カイゼンの対象は、設計品質を伝える情報を正確に素材に転写できているか表す製造品質です。

両者には、対象の違いはあります。

ただし、イノベーションンもカイゼンも、新たな付加価値を生み出したいという狙いはいっしょ。

設計品質では可能な限り大きな付加価値を創出します。

製造品質では設計品質で設定した付加価値の範囲内で、その最大化を図ります。

カイゼンを付加価値の視点でとらえれば、イノベーションと同じく3段階の考え方を適用できます。

 

 

設計品質で設定した付加価値の範囲内で、その最大化を図るために、我々には何ができるのだろうか?経営者は現場にこのように問うのです。

そして、考える枠組みを提供します。

問題点を解決するために現状の延長で考えたらどうなるか?(代替)

問題を解決するために革新的要素を加えたらどうなるか?(類似)

問題を解決するために、前例のない誰も思いつかなかった方法ではどうなるか?(創出)

 

イノベーションで対応策を考える判断軸は「科学的、工学的な知識やノウハウ」です。一方、カイゼンで対応策を考える判断軸は「経営的な知識やノウハウ」です。

つまるところイノベーションは科学的、工学的課題、カイゼンは経営的課題を解決するための手段であり手法ですから、当然といえば当然です。

カイゼンの判断軸が、「現場の知識やノウハウ」ではないことに留意しなければなりません。

実行するのは現場ですから、実行のためには、当然、現場の知識やノウハウを生かします。

しかし、何を目指してカイゼンするのか、何に注目してカイゼンのテーマを選択するのか、カイゼン自体の活かし方は経営者が考えねばなりません。

カイゼンはあくまで経営問題を解決する手段であると経営者自身が強く思うことが肝心です。

そして、考える枠組み(フレームワーク)を現場へ示すことで、現場は解決策を広い水準で考えることができます。不慣れなことに取り組むとどうしても発想の幅が狭くなります。

自分の知っている領域でしか考えられなくなる傾向が往々にしてあるので、そうした制約を取っ払うのに考える枠組みは効果的です。

 

 

 

 

かって中小現場で一緒に仕事をした現場リーダーのY君も慣れないカイゼンを目の前にして「なにから手をつければいいでしょうか?」と疑問を投げかけてきました。

そこで、先に示した3段階を説明し、現場でアイデア出しをしてみてと指導しました。

何かひらめいたのかF君は、後日、現場メンバーとワイワイガヤガヤと話し合ったようです。

ホワイトボードに大きく枠を描き、それに上下3分の一のところへ線を引いて上段、中段、下段の3段に分割して、現場へこう説明しました。

「それぞれの枠に当てはまるアイデアを出そう。」

なるほど、これを目の前にした現場は、解決水準が3段階あることを目で知ります。上位の欄を埋めようとすれば、自分の経験や知識の水準を超えて、なにかひねり出そうとするはずです。

Y君の工夫でした。こうした工夫によって現場はカイゼンにおけるアイデア出しのイメージが定着したようです。

その後、その現場では、イノベーションを狙って「代替」水準の成果を出してくれました。

 

 

 

 

カイゼンは、それ自体が現場に様々なスキルを訓練し習得させる機会を提供してくれます。因果関係を重視した思考方法や議論をする力などです。

カイゼンのテーマや対策案を3段階の枠組み(フレームワーク)で考えることでアイデアも整理しやすくなります。

さらに、イノベーションを発想する手がかりを与えてくれます。

3段階の枠組み(フレームワーク)はカイゼンからイノベーションへの連続性を下支えしてくれるのです。

現場へカイゼンを考える枠組みを与える理由は、カイゼンをイノベーションへつなげたいからです。

そのための思考訓練を現場で重ねるのです。繰り返し、繰り返しです。闇雲に思いつくことを取り上げるだけでなく、系統立てたアイデア出しができます。

枠組みを活用するメリットです。

こうした思考訓練は必ずイノベーションへ生かされます。

 

 

 

 

カイゼンとイノベーションはセットでやるべきなのです。

イノベーションをチームで達成します。経営者が一人で悩む必要はないのです。

イノベーションに向けて、まずはカイゼンで引き金を引きます。

そうして儲かる工場経営を設計していきます。

 

 

カイゼンの対策を考える枠組みを現場へ示していますか?

カイゼンをイノベーションへつなげる仕掛けをしていますか?

 

 

まとめ:カイゼンを付加価値の視点でとらえれば、イノベーションと同じく「代替」「類似」「創出」の3段階の考え方を適用できる。考える枠組み(フレームワーク)を現場へ示すことで、現場は解決策を広い水準で考えることができる。