「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第27話 現場へ厳しい対応を迫る時に併せてやるべきこと

現場にとって厳しい対応をとらねばならない時は「見通し」を一緒に示す、という話です。

 

 

現場の管理者として、カイゼンや5Sの指導をはじめ生産管理、収益管理など多くの業務に携わってきました。

大手企業の工場から、十数人規模の工場まで、複数の現場を経験して、成果を出すために必要なことを知りました。それは、新規事業の立ち上げなど、開発業務においてもそうでした。成果を出すために欠かせないこと・・・・・。

それは現場のチーム力です。

 

2、3人程度で構成されている現場なら、管理者が1人で現場を仕切ることは可能化もしれません。しかし、10人程度、いや、5人を超えると管理者が1人で現場を仕切り、仕組みを回すことは不可能です。

現場の仕事は属人的な要因が強いものです。作業者同士の相性なども配慮しなければ仕事がうまく進まないことなどは多くの経営者が経験されていることでしょう。

ですから単独作業に加えて、複数人でこなす業務も考慮するなら、経営者ひとりの目で現場を全てフォローすることは不可能です。

したがって、多様な業務を適切にフォローするには現場のチーム力が絶対に必要なのです。

 

たびたび申し上げていますが、現場で機能させたいのはこうした自律的なチームオペレーションです。ですから、あらゆる場面で、経営者は次の2つを考えます。

1)前向きの施策ではチームオペレーションを最大化すること

2)後向きの施策ではチームオペレーションへのダメージを最小化すること

 

経営者の打つ手が、いつも”積み上げ”を成果とする前向きの仕事であるわけではありません。失敗を清算して、出直しを図らねばならない仕事も当然にあります。

私自身、規模と業種が異なる複数の現場で仕事をしてきましたが、そこで一貫して重視したのは現場のチーム力。

どんな現場でも、まずはチーム力の構築を図ることを優先して仕事をしてきました。これ抜きにイイ仕事はできないことを何度も経験しました。

そうした姿勢で仕事をするなかで、最も辛かった業務とは・・・・・・・・。

人員削減でした。

 

請負型の仕事を中心とした職場の管理者を務めていた時の話です。

お客様の仕事量が激減したあおりを受け、受注量が大幅に減ったことがありました。なんとか乗り切れないものかと知恵を絞ったものの人員削減が避けられない事態に陥りました。

人員削減の対象は2名の派遣社員です。その彼らに辛い事実を伝えなければならなかった。

その派遣社員は現場に採用されて1年程度経過していたところでした。前日にも「やっと仕事にも慣れてきた。」という趣旨の会話を交わしていました。

基本的には正社員と同じ業務をこなし、現場でも正社員、派遣社員、分け隔てなく互いに協力し合って頑張っていたのです。

チームオペレーションを機能させる一翼をしっかりと担ってくれていました。彼ら自身は頑張っていた。しかし、直面した事態では、どうにも対応し切れませんでした。

彼らには、しっかり事情を説明し、職場を去ってもらいました。

今考えても、胸が痛む出来事でした。

 

立場こそ違え、一緒に頑張った仲間が去らねばならなくなったのです。そして、残った現場は不安を感じることとなります。

これからどうなるのか、自分は大丈夫なのか、そもそも職場は存続するのか?現場には将来への不安が生じます。

 

もともと、その職場では、従来の生産能力以上に対応するために、その派遣社員を採用したいきさつがありました。ですから、仕事量が減ったと言っても、2年程前の水準に戻っただけです。

現場の正規社員分の仕事量は十分に確保できる見込みはありました。現場にいる十数人の正規社員の削減までは不要です。

ただし、こうした情報を現場は知りません。

不安を取り除くのに、まずは現状を知らせました。当面は大丈夫だということを明確に伝えることによって、現場は、まずは安心します。しかし、完全に不安が除去できたわけではありません。

なぜなら、今後、再び、差し迫った事態になったら、いよいよ・・・・・・。今の出来事から、将来の不安を感じてしまうのは当然のことです。

ですから、現場にとって厳しい対処をした後、経営者は、ここで語るのをやめてはいけません。当面は大丈夫だから、今まで通り頑張れというだけでは、現場のやる気への配慮に欠けます。

 

 

人員削減をしなければならない程に仕事量が減って辛い時期ではあるけれども、こうした時だからこそ将来に向けて手を打とう。

そもそも、今回、辛い状態に陥った理由は受注量の増加を人員増で対応したためだ。

したがって、将来へ向けて生産性を上げておけば、現在の人員でも増量へ対応できるうえに利益も増える。

こうしたことを現場へ伝えられます。さらに、先を見通して将来投資の視点で未来への展望を語るのです。

以前、人件費が大部分を占める固定費は将来投資と考えるべきであると申し上げました。将来投資をフル活用するために、現場の生産性を向上させることが、これからは多くなります。つまり減産に備えた、新たな付加価値を創出する機会となります。

だから、先の現場でも、これから、増産にも減産にも対応できる現場を作るんだ、ということを現場に伝えました。これをキカッケに、その現場では多能工化をやろうと自発的に活動を始めました。

人員削減を選択せざるを得なかった背景を伝え”現状”を知ってもらう。ただし、それだけでは現場は辛くなります。だから、あの時も大切なのは見通しを示すことでした。

 

 

今は辛くても将来に向けて頑張れば、必ず未来は今よりも良くなる。こうした実感を持てば、現場は頑張れます。

辛い時こそ、現場へは見通しを示すことが重要なのです。したがって、経営者は常に見通しを示すことができる状態に身を置かねばなりません。

困った事態に直面したので、一時的だが給与カットに協力してもらおう。ついては将来に向けて・・・・・。と、困った時点で未来のことを考えても遅いのです。

 

常に先を見据えた戦略、長期計画を持っていないと的確な見通しを示すことは無理です。先を見据えた戦略、長期計画を持ちマイルストーンを設定して必要な判断をしていれば、そもそも人員を減らすという辛い仕事をしなくて済む経営も可能です。

 

 

当社のコンサルティングで5年先、10年先を見通すことの大切さ、それを言語化して全員で共有する意義を多くの経営者様にお伝えしたいと考えているのは、こうした経験に基づきます。

願うならば現場へ厳しい対応を迫ることはしたくはない。しかしながら、断腸の思いで、そうせざるを得ない場合もあります。その時は見通しを語る。的確な見通しが、現場からやる気を引き出すためには必要なのです。

5年先、10年先を見据えた計画が見通しを立てます。現場に厳しい対応が必要な時は見通しも併せて示します。現場は、今がつらくても頑張れます。

 

 

現場に厳しい対応を迫る時、将来のことも併せて説明していますか?

見通しを立てるための長期計画はありますか?

 

 

まとめ。

現場にとって厳しい対応をとらねばならない時は「見通し」を一緒に示す。