「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第293話 PJリーダーへ経営者視線の何を教えるのか?

「そんな風に考えたことはなかったです。」

まさに今、プロジェクトのベクトル揃えをしている30人規模部品製造企業PJリーダーの言葉です。

これまで経営者と一緒に外で仕事をしてきた営業部門担当者です。経営改革プロジェクトのPJリーダーに抜擢されました。

 

工場経営の主役と言えばこれまで製造現場であることが多かったです。「強い現場」が国内モノづくり強さの背景と言われているので自然な流れだったかもしれません。

しかし、今や工場だけが頑張っても儲からなくなりました。儲かるモノづくり戦略は当然のこと儲かる営業戦略も必要です。儲けようとしない限り、儲からなくなりました。

 

下請け型モデルならなおさらです。製販一体で経営改革を推し進めなければ成果が出にくくなっています。従来とは変わったのです。

経営者は、生き残りをかけた経営改革には全社を俯瞰する観点が必要と考えました。製販一体。そこでPJリーダーを現場ではなく営業から抜擢したのです。

 

この企業も「現場が強い」傾向にあります。そして、PJリーダーも現場の事情に合わせて仕事をすることが多かったようです。そうした中、新たなPJを主導することになりました。

まずは経営者の考え方を理解しなければなりません。経営者の頭の中の見える化。今、経営者目線の考え方に触れています。

もともと意欲的な中堅従業員です。分からないことを放置せず分かろうと努力しています。いろいろな考え方を知った先のPJリーダーの口から冒頭の言葉が出てきました。

 

 

 

人時生産性向上PJは経営改革です。改善活動ではありません。今の延長線上には、経営者が考える水準の成果を求められないからです。土台を造り変えます。

だからこそ、利益も給料もアップするスケールの大きな成果を手にできるのです。経営者は2割、3割ではなく、2倍3倍の規模で成果を願望しています。

その一方で従業員は大きく変わることを求められるのです。小さく変わるだけなら個力だのみで構いません。しかし、大きく変わろうとするならチーム力でやらないと無理なのです。

ベクトル揃えでそうします。

ご支援の中で「何をやるか」よりも「なぜやるのか」の方が大事ですとお伝えしている所以がここにあります。「なぜやるのか?」これは経営者の願望そのものです。

 

 

 

従業員は、経営者自身が期待しているほどに経営者の頭の中を理解できていません。伝えた積もりになっていることがほとんどです。

したがって、経営者はPJリーダーへ丁寧に自身の意志や意図を伝えなければなりません。繰り返し、繰り返し、繰り返しです。

そこでやっとPJリーダーは「社長の考えていることが見えてきた」となります。重要な論点です。

 

なぜ丁寧に、繰り返し、繰り返しなのか?

経営者視線と従業員視線の圧倒的な違いに起因します。

時間軸です。

 

経営者の時間軸は5年先、10年先の水準。

従業員の時間軸は明日、来月、せいぜい半年後の水準。

 

当然ですが、従業員の時間軸は短いのです。短いから悪いと言っているのではありません。現場は原則、短い時間軸で仕事をこなすことが求められています。納期遵守です。

日程計画に従います。今日までにあれをやらないといけない。明日のために今日はここまでやろう。日程計画の時間軸です。

 

 

 

製造業は人と設備に投資をしながら付加価値を積み上げる形態の事業です。貴社独自のモノづくりノウハウをチームに蓄積しながら、模倣困難性を高めます。

この辺り、アルバイトで事業を継続させる形態の小売業、飲食業、サービス業とはひと味、違うかも知れません。製造業はこれらの業種よりも人時生産性が高いという事実があります。

労働生産性の中央値は中小製造企業を100に対して中小小売企業は90,中小宿泊、飲食サービス業は46程度です(出典:中小企業白書2021年版より筆者作成)。

 

いずれにしても、製造業において、経営改革の成果は一朝一夕には出てきません。構想を立て、それへ向かって時間をかけながら成果を刈り取り、成長発展するのです。

固定費vs付加価値額。製造業の収益構造は固定費回収です。経営者は時間を味方に付けて、回収の傾きを高められる製販一体チームをつくるのです。

 

現場は、「時間を味方に付ける」時間軸の大切さを理解できたとき、経営者の意図や意志を理解し始めます。ただしこれはかなり難しいことです。日々、納期に追われていますから仕方がありません。

ですから、経営者の右腕役のPJリーダーには、一足早く、社長の時間軸をなんとしてでも理解してもらいたいのです。全社ベクトル揃えで一肌脱いでもらわないとなりません。

 

 

 

忙しくなると、「人が欲しい、人を入れてくれ。」と直ぐに言ってくる現場があります。納期に追われている現場は納期遅延の不安要素に直面をすると、何か手を打ってもらいたいと考えるものです。

しかし、経営者はそう考えません。付加価値額を2倍、3倍の水準で積み上げる目途が立たないうちは人員を増やしたくないのです。人時生産性が高まりません。

従来の仕事の延長線上で分母を増やし分子を積み上げようとしても、所詮、分子は分母に“比例”して増えるだけです。

 

分母を1.2倍して分子を1.2倍にできても、利益の規模を増やせますが、従業員一人当たりの給料を増やせません。分母を増やす以上に分子を増やせるブレークスルーがあって初めて人時生産性はアップします。

 

したがって経営者はいつも先を見通し、時間を味方につけた作戦づくりに余念がないわけです。目前の多忙さを理由に「人が欲しい、人を入れてくれ。」とは何事だ、給料を増やせないぞ、今の人員、設備をしゃぶりつくしたか?と経営者は問いかけたくなります。

持っている時間軸の差です。

 

先のPJリーダーも、人を増やすと、会社の利益は増えるかもしれないけど、給料は増えないということを始めて知りました。

付加価値額を積み上げられる状況に至って初めて人員を増やさないと、従業員はハッピーになれない事実があるのです。2倍、3倍の水準で付加価値額を積み上げられるようになるにはブレークスルーが必要であり時間を要します。

 

一旦採用した従業員を、受注量が減ったからと、退職を勧告することは簡単ではありません。それだけに人の採用は戦略です。時間軸を設定して、人時生産性を高める人の採用のやり方があります。

従業員へ教えない限り、従業員も経営者視線を理解しようがないです。経営者はPJリーダーに時間軸を教えなければなりません。経営者視線を教えるとは時間軸を教えることです。

 

ただし、闇雲に経営者の時間軸だけを伝えてもPJリーダーに刺さりません。繰り返しますが「なぜやるのか?」が先です。

プロジェクトのフィールドと時間軸の組み合わせに着目して、手順を踏み経営者の願望を見える化することが先です。ここをキーパーソンと共有します。

右腕役とは経営者が持つ思考回路のコピーを頭の中に持てる人のことです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、忙しくても人を増やさず現有設備をしゃぶりつくして人時生産性を高める

停滞する現場は、忙しくなるとすぐに人を増やすので人時生産性が高まらず給料も増えない