「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第295話 儲かる工場経営でもっとこだわりたいことは?

「これからどうすればいいかを考えます。」

30人規模板金加工メーカー経営者の言葉です。個別相談のご依頼をいただきました。

 

売上が低迷しています。売上を回復させるために、何ができるか?「内」「外」「製販一体」それぞれのフィールドでいろいろやっている経営者です。

新製品を開発したとのこと。仕様上の優れたところを熱心に説明してくれました。技術へのこだわりがバンバン伝わってきます。そこで次のように尋ねました。

「どんなルートで売るのですか?」

冒頭の言葉が返ってきました。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営の要諦は下記です。

「お客様に選ばれる商品(製品)を効率良くつくること」

 

製造現場であるなら「効率良くつくること」は昔からやっています。現場主導の生産性向上活動です。活動の着眼点が変わっていることには留意してください。

削減の時代から積み上げの時代へ。

リードタイム短縮です。

 

3人でやっていた仕事を2人でできるようにすることは大事なことですが、2人で1日要していた仕事を3人で半日に短縮できるなら、そちらを優先させたいのです。空き時間をつくって仕事をねじ込むのです。

貴社の現場が24時間稼働であると仮定して下さい。そこで人時を高めたかったらどうするか?ということです。

現有の工数でこなせる仕事量を増やします。人時生産性を高めるためです。儲かるタイムマネジメント、リードタイム短縮がテーマとなります。

 

 

 

 

 

そして、昨今、「効率良くつくること」とともに大事なのは、「お客様に選ばれること」です。売る先がなければ生き残れません。売上減とはお客様に選ばれていない証左です。

私達は製造業なので技術の世界で戦っています。差別化競争に勝ち抜かなければなりません。コア技術を磨き、機能的に優れる(と自社で判断した)製品を開発します。

 

先の経営者も売上減対策で新製品開発を実践しました。開発した新製品に自信満々の経営者です。その意気やよしです。ただ、それが売れるかどうかは別です。

お客様が選んでくれなければ1円にもなりません。国内家電業界の歴史が、自社で考えた高機能商品で儲けられるかどうかについて、その答えを語ってくれています。

 

 

 

 

 

「これは売れるはずだ」と思い入れがあっても、売れるとは限りません。儲かる開発には手順があります。先の経営者のように「これから売り方を考えます。」では遅いのです。

 

社運をかけた新製品が万が一にもお客様に選ばれなかったら心血を注いだ時間は全て埋没コストになってしまいます。「いやぁ~、こうした失敗も経験です。」そんな悠長なことを言っていられる中小はありません。大手と違います。

 

中小製造企業で豊かな成長と発展を願うなら、「お客様に選ばれる」販売、営業、技術開発、商品開発の観点を持たなければなりません。

親企業の言うとおり造っていれば儲かる時代は過ぎました。

そもそも親企業も生き残りに必死です。先代からお世話になってきた親企業かもしれませんが、運命共同体になるのだけはゴメンです。

自社の生殺与奪権は自ら握らなければなりません。

もっともっと自ら売ることを考えたいのです。

 

 

 

 

 

コロナ禍で売上減の問題に直面しているご支援先があります。その一方で、コロナ禍にかかわらず「売上高移動累計の右肩上がりが止まりません!!」というご支援先もあるのです。

両者を比べると、その理由がわかります。

「お客様に選ばれる」実践の有無です。

 

故野村克也氏がその書籍で「負けに不思議な負けなし」と語っていました。同時に「勝ちに不思議な勝ちあり」とも語っています。

しかし、商売に関して言うなら、勢いがあるのには理由があるのです。「勝ちにも不思議な勝ちなし」です。

・経営者自ら、販売チャネルを増やしている。

・経営者自ら、お客様ニーズに沿った新商品開発をしている。

・経営者自ら、自社商品のトレンドを分析し売れ筋をお客様へ提案している。

・経営者自ら、毎日午前中はお客様へ足を運び、ネタがないか探っている。

 

造ることもさることながら、売ること、売れることに執着し、実践しています。既存顧客の深掘り、新規顧客の開拓で付加価値額を積み上げることに熱心です。

お客様に向き合っているので、お客様に選ばれる機会に恵まれます。

 

売上減の問題に直面しているなら、まずはお客様に向き合うことです。

経営者の仕事場は「外」にあります。

 

 

 

 

 

中小製造企業の多くは下請け型モデルです。販売費をかけなくても収益をあげられることがメリットとされていました。

事務所で電話を待っていれば、親企業から電話か掛かってきます。その電話を受ければイイだけです。電話を受けたら見積りや手配書を作成します。後は納期遵守で売上が立つのです。

 

あるご支援先でのことです。売上減に直面しているので、どうやって挽回しようかと営業部門のメンバー(2名)も含めてブレーンストーミングをしたことがあります。

しかし、なぜか営業部門メンバーと話がかみ合わないのです。

なぜか?

 

営業部門のメンバーは「親企業から掛かってくる電話を受け、見積りや手配書を作成すること」が営業の仕事だと思い込んでいたからです。

新規顧客の開拓はおろか、既存顧客の深掘りもやったことがありません。お客様に向き合うことが営業の業務であると考えていなかったのです。

 

下請けモデルに甘んじてきた弊害ですね。」とは経営者の言葉。

イイ仕事をしていれば黙っていてもお客様の方から買いに来てくれるという発想が下請け型モデルの根底にあります。

 

それでも、お客様の方からの電話があるうちはそれでもいいのですが・・・・。連絡がこなくなったら、ジエンドです。口を開けて親鳥からの餌を待っているものの、親鳥が来なくなって餓死するひな鳥になってしまいます。

 

こうした状況が悪いのではありません。従来はこれでヨカッタのです。ただし、外部環境が変わりました。変わるのに合わせて、営業改革を進めればイイだけです。

口を開けて待つだけのひな鳥から卒業します。

変化は競合を凌駕する絶好の機会

ということで、この企業の経営者はトップ営業に絞り、踏ん張る決意をしています。変われない従業員に無理はさせられないこと、内勤で実力を発揮してもらえればイイこと、こうした考えに基づいて決断しました。営業部門はゼロから構築です。

 

 

 

 

 

これからは、下請け型モデルであろうとなかろうと生き残るため、お客様に向き合った営業力、販売力、開発力を強化しなければなりません。経営者自身が売ることに執着するのです。

向き合うお客様は、自社商品、製品により、いろいろです。

消費者

メーカー

一次部品メーカー

二次部品メーカー

商社・代理店

 

自社商品、製品の拡販に貢献しそうなチャネルを探します。そして、そこへ働き掛けるのです。先代の人脈リストから新たな訪問先を探している二代目経営者もいます。

売上減の打開策のひとつは数打ちゃ当たるです。

 

中小製造現場管理者時代、リーマンショック後の大幅売上減対策でとにかく既存のお客様のところへ通ったことがあります。まさしく数打ちゃ当たるです。現場の若手も連れていきました。こうした行動は売上増のきっかけになったと考えています。

・直接的な成果

・間接的な成果

それぞれありました。

 

 

 

 

 

行動すれば何らの成果が出てくるのが「外」での活動です。お客様と向き合えば、お客様も人間ですから、何かしらの情報をくれます。

人は自分に興味を示してくれた人にしか興味を示さない。

「お客様に選ばれる」要点はいろいろありますが、これもそのひとつです。まずは、お客様と向き合って、お客様に興味を示します。そうでないと我が社のことを憶えてもくれません。

 

選ばれるためには、まずは我が社のことを憶えてもらう必要があります。

我が社にとって我が社は唯ひとつですが、お客様にとって、我が社はワンオブゼムです。我が社と商社・代理店との関係も同じになります。

したがって、営業活動は原則、直販でやりたいのです。そうでないと、ここでも生殺与奪の権を自ら握れなくなります。

 

「外」での活動は「内」での活動とはちょっと違うところがあるとも感じています。事業の回復を心底願い、「外」で頑張る経営者には大きな力が働くものです。

 

 

 

 

 

向き合ったお客様へ、下記の答えを提案して、憶えてもらいます。

我が社はお客様にどんな価値を提供できるか?

 

考え抜きます。そうして自社商品、製品、サービスを選んでもらうのです。ご支援のなかではスマイルカーブや時間はお金になる話をお伝えしています。顧客視点です。

お客様の利便性アップにどうやって貢献できるかをひたすら考えるのです。コア技術の組み合わせで考えます。

 

自動車部品工場勤務時代、技術営業としてお客様と向き合って設定した提供できる価値は「軽量化製品」と「コスト」の両立でした。

中小の戦略としては辛いです。大手だからそれらを提供できました。中小は価格競争以外のフィールドで、価値提供を考えます。「時間はお金になる」はそのひとつです。

 

販売、営業、技術開発、商品開発の方針は2つあります。

・技術オリエンテッド

・顧客オリエンテッド

前者はシーズ、後者はニーズに基づきます。

 

スマホは前者の代表例です。スマホの初登場は2007年。故スティーブ・ジョブズ氏が初代iPhoneを披露したときです。その後の日本初上陸は翌2008年。当初の評価は低いものでした。ガラケー全盛期です。

「電話はガラケーで十分だ。」「小さなパソコンみたいなものをわざわざ持たない。」

 

それが、今や、一時も手放せないツールとなりました。当時、誰が今の状況を予測できたでしょうか?手に収まる小さなパソコンのニーズがあったわけではありません。

しかし、潜在的なニーズはあるはずだとジョブ氏は見通していたのです。スティーブ・ジョブズ氏が天才と称される所以です。

 

 

 

 

 

私達中小製造企業の事業モデルは原則、顧客オリエンテッドです。ジョブ氏の真似をしてもリスクが高いでしょう。ですから、まずは向き合うお客様のフィールドを選択します。

売上減の打開策のひとつは数打ちゃ当たるですが、標的は明らかにします。ある程度絞り込むのです。闇雲に鉄砲を撃ってもだめです。的を設定します。

 

・地域(商圏)

・業界の特定商品群

・特定ニーズ

 

例えば、「ゆるまないネジ」売りたかったら、ネジがゆるんだら困ってしまうお客様を選ぶことになります。そして、その絞ったお客様へガッチリ向き合います。

「外」の活動は地道です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の論点は詰めて、空けて、取り込む、です。新たなに取り込む付加価値額を私達に出してくれるお客様がなければ、「内」をどんなに磨いても人時は高まりません。

お客様に選ばれるには、まずはお客様に憶えてもらうことです。お客様と向き合います。

それから数打ちゃ当たるです。そして、我が社はお客様にどんな価値を提供できるか?を考え抜き、我が社を選んでもらいます。

お客様に選ばれる商品(製品)を効率良くつくること

 

多くの経営者がコロナ禍での低迷を打破すべく、売上高の積み上げ、付加価値額の積み上げに挑戦しています。貴社だけではありません。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、足しげく通い、提供できる価値を伝え、お客様に憶えてもらって選ばれる

停滞する現場は、社内だけで良かれと考えた高機能商品を開発してもお客様に選ばれない