「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第297話 イイ仕事はひとりでやれないものだと教えたか?

「製販一体をプロジェクトの合い言葉にしたいですね。」

1月からご支援をしている50人規模部品メーカー幹部の言葉です。

 

右腕役や幹部の人材育成が課題となっているご支援先は少なくないです。しかし大手ほどそこへ時間を掛ける余裕が経営者にはありません。そこでプロジェクトです。プロジェクトで人を育てます。だからプロジェクトをやり切りたいのです。

プロジェクトを成功させるにも手順があります。プロジェクトをやり切る3種の神器。合い言葉はそのひとつです。経営陣はそれを連呼します。

合い言葉を考えていたときのことです。幹部から一言がありました。冒頭の言葉です。製販一体。この4文字に製造業で儲ける本質がぎゅっと詰まっています。

 

 

 

 

 

モノづくりの強さは現場にあるといわれてきました。ただし、これには前提があります。こなす受注がたっぷりあることです。

90年代にそんなときがありました。たっぷりある受注をいかにこなすか?に焦点が当たります。その結果、現場が注目されたのです。

 

しかし、状況は変わりました。たっぷりある受注をただこなせばイイという単純構造ではありません。持続的な受注が普通ではなくなってきました。

こなし切れない受注を断るのに苦労したのは過去の出来事です。

 

少品種多量生産から多品種少量生産、変種変量生産へ移行するなか、儲かる構造が変わりました。現場の効率だけを単純に高めても儲からない中小製造企業は増えています。

外部環境が変わりました。体質や構造を変えなければなりません。現場のペースに合わせるのではなく、お客様のペースに合わせることが求められます。

突発・特急、急な変更。お客様のわがままにもお付き合いするのです。そうして受注を維持します。現場はこれまでやったことがないことにも挑戦しなければなりません。

 

 

 

 

 

次の調査結果があります。

・感染症の流行による事業環境変化の捉え方(n=5,991)について。

これまでになかった新たな変化が生じた 55.3%

従来からの変化が加速した 15.7%

どちらとも言えない 28.9%

(出典:中小企業白書2021年版)

 

新型コロナウィルス感染症拡大によって事業環境が変化したと考えている経営者は7割以上です。変化に合わせて変わらなければならないと感じている経営者がほとんどです。

ではどのように変われば儲かるのか?

現場は営業の言葉に耳を傾けます。

製販一体です。

 

製販一体は製造業で儲ける構造を説明しています。

・原材料を加工する

・商品、製品を販売する

①加工で価値を生み出し、②価値をお客様に届ける。

 

付加価値額を積み上げるために①と②を連動させます。営業だけが頑張っても、現場で価値を生み出せなければダメです。製造だけが頑張っても、受注がなければやっぱりダメです。

儲かる工場経営の要諦は「お客様に選ばれる商品、製品を効率よくつくる」ことにあります。黙っていてもお客様から受注の電話が舞い込むことはなくなりました。

したがって、①だけではダメ、②だけでもダメ、①と②を連動させないと儲からないわけです。製販一体で実現させます。そうしないとお客様に選ばれません。

 

 

 

 

 

先日、あるご支援先の幹部が「製品1つひとつに利益がぶら下がっているわけではない。」と語ってくれました。言い得て妙です。製造業の本質を表現しています。

現場で生み出すのは利益ではなく、付加価値額(儲け)だからです。製造業の収益構造は固定費vs付加価値額であるとお伝えしています。現場の儲けは付加価値額で計るのです。

そして、現場はその付加価値額を生み出すために、工数を投入します。

工数=リードタイム×要員数

 

したがって、我が社の商品、製品は2つの数値で特徴づけられるのです。投入された工数と積み上げた付加価値額です。これは図示できます。

X軸を工数。Y軸を付加価値額。商品別の実績をプロットすれば我が社のポートフォリオができあがります。すると、我が社のゴールデンゾーンに気付きます。

同じ量の儲けを積み上げるなら工数は少ないほどいい。

同じ量の工数を投入するなら付加価値額は多いほどいい。

 

つまり、原点から引いた直線の傾きが大きくなればなるほど嬉しいわけです。ビジュアルにわかります。経営陣だけでなく、現場も見てわかるのです。「見てわかる」は現場の動機づけになります。

 

「読んで分かる」ではなく、「見てわかる」にして現場を動かす。

トップダウンを機能させる要点です。ごちゃごちゃ言うのではなく。数値や図、表に語らせます。数字や図、表は雄弁です。

 

ゴールデンゾーンの目指す具体業務は次です。傾きを大きくするアクションと言えます。

お客様との厳しい交渉の結果、実現できた値上げ。

知恵を絞り、原材料や外注の原単位を削減した結果、実現できた付加価値額率向上。

全社連携を強化した結果、実現できたリードタイム短縮。

全社一丸、現場と営業、製造と販売、製販一体の取り組みでないとできないことばかりです。ゴールデンゾーンはそのことを教えてくれます。

 

 

 

 

 

毎月のロット生産実績を見積もり対比でプロットしているご支援先があります。努力目標を「傾きを増やす」と表現して毎期、ビジュアルに説明してご支援先もあります。

いい仕事はひとりではできない。

納期さえ守っていれば、現場や営業がバラバラでも、自分だけで仕事をしていても構わないだろうという納期遵守至上主義の中小製造企業は今後、時代の流れについていけません。

力づくではノウハウがチームに蓄積されないからです。のど元過ぎれば熱さを忘れる仕事のやり方を続けていては、技術革新や競合先の後塵を拝します。

製販一体の人時生産性向上PJが貴社の命脈を保つのです。

製造業は技術の世界で戦っています。技術の進化と競合の追い上げに晒されていることを忘れてはいけません。強力なトップダウンで製販一体を実現させるのです。

 

 

 

 

 

納期遵守は大切です。しかし、与えられた納期に従って仕事をしているだけでは儲からなくなりました。

与えられたことに従って仕事をしているだけでは、そのお客様と運命共同体です。私達はそのお客様のお世話になってはいますが、「運命」まで共にするつもりはありません。

我が社は我が社です。生殺与奪の権を自ら握ります。握るための具体策が人時生産性向上です。儲かるように仕事を組み立てます。納期遵守以外の論点の攻めるロードマップです。

 

納期遵守以外の論点とはリードタイム短縮、人時生産性向上です。そして、リードタイム短縮で付加価値額の積み上げを本気でやろうとすると、自職場だけでは実現できないことに気付きます。だから製販一体です。

 

会社全体、工場全体でベクトル揃えてやらなければならないことがあります。製販一体は製造業で儲ける構造を説明しているのです。イイ仕事はひとりでやれないものなのです。

製販一体の重要性を「読んで分かる」ではなく、「見てわかる」ようにします。腹落ちの度合いが全然違うからです。

先の企業は4月から本格的にプロジェクトをスタートさせます。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、納期遵守以外の論点の重要性を知っているから製販一体で仕事をする

停滞する現場は、納期遵守にしか焦点が当たっていないので自工程でしか仕事をしない