「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第298話 技術多角化の前にやらなければならないことは?
「競合先にも売れるかも知れません。」
売上低迷の状況を打破しようとしている50人規模産業機器メーカー経営者です。
踏ん張りどころに直面しています。時間が掛かっても新たなモデルを考えないとジリ貧だと考えている経営者です。
お客様に選ばれるには?という観点で議論を重ねていたとき、扱っている産業機器に組み込まれている部品が話題に上がりました。その部品は大手競合先が供給している標準品です。
この企業でもそれを購入しています。ただ、しばしば、標準品で対応できないことがあるのです。それなら・・・ある製品企画が浮かびました。そして、その製品の販売先を考えていた経営者がふと一言、口にしました。冒頭の言葉です。
コア技術で儲ける戦略は「技術は絞り、お客様のすそ野は広く」です。要素技術はコアに絞ります。そのコア技術を多様な業界のお客様に届けるのです。
溶接技術に強みがあって自動車業界が主要なお客様である企業を想定します。歪みが少ない溶接技術がコア技術の企業です。この企業の事業を成長させる戦略は2つあります。
・歪みが少ない溶接技術を建機業界、産業設備業界、半導体業界、医療業界等々、自動車業界以外の業界へ提供して、新規のお客様を開拓する。
・溶接技術に加えて、塗装技術も手がけて、従来の主要なお客様である自動車業界で新たな価値を提供し、業界を深堀して新規のお客様を開拓する。
長年、同一業界で仕事をしていると後者でやりたくなります。新たな技術を手がけるやり甲斐もありそうです。「技術を多角化し、お客様は集中、深掘り」の戦略です。
しかし、技術開発を伴う新たな価値提供にはリスクを伴います。そのことを忘れてはなりません。塗装技術は現場に取って初めてです。
ノウハウがありません。試行錯誤です。自社だけでは解決できない問題にも直面します。「技術を多角化し、お客様は集中、深掘り」の戦略は収益化までに時間を要するのです。
新たなコア技術を加えることは技術戦略上、重要な課題です。しかし、少数精鋭の中小であるなら、その前にやることがあります。「技術は絞り、お客様のすそ野は広く」の戦略です。
コア技術をしゃぶりつくしたか?
コア技術を磨き、周辺技術を加え、あるいは分解して、新たな価値を広くお客様へ届けられないかを考えます。お客様の業界が不問ならばチャンスは多くなるのは明らかです。
お客様からの電話を待って、要望された製品を要望された納期に合わせて製造しているだけのビジネスモデルに慣れてしまうと、新たな戦略を自ら構築する思考回路を持てません。それではジリ貧です。
だから、我が社がお客様に働き掛けるのです。
先のご支援先では、ある産業機器分野の設計・製造に強みがあります。先代は特許を出願しました。コア技術に独自性があるのです。
ただし、その機器の販売だけでは売上が伸びません。売上低迷を打破するために、コア技術を分解して、特定の部品を取り上げたのです。モーターを組み込んだ部品です。
この部品は大手競合先が標準品で提供しています。通常、その標準品を購入していますが、標準品から外れたサイズが必要となることもしばしばあります。その時は内製していました。
大手競合が設定している標準品のサイズ以外の範囲をウチで標準化したらどうだろうか?
こんなアイデアが浮かびました。
ニッチかもしれませんが、一定の需要があることは経験的に判断できます。このビジネスモデルの優れているところは競合先もお客様になることです。
大手の標準品以外のサイズの時は「ウチに相談してもらえればなんとかしますよ。」と競合先にも提案できます。競合先であっても、便利と思えば、我が社でも選んでくれそうです。
コア技術を分解して、お客様のすそ野を競合先まで広げました。競合先であってもお客様になり得ます。コア技術をしゃぶりつくした成果です。
規格品なので、引張型などやり方次第でリードタイムは短くなります。そもそも機能別レイアウトの現場なので柔軟性は高いです。生産形態を知り、コア技術をしゃぶりつくします。
・コア技術をしゃぶり尽くす
・新たなお客様を見つける
・お客様のすそ野を広げながら、人時生産性を高める。
「技術は絞り、お客様のすそ野は広く」が少数精鋭の中小製造企業が考えたい技術戦略です。固有技術の開発だけが技術戦略ではありません。技術の多角化の前にやることがあります。
次は貴社が抽選する番です!
成長する現場は、コア技術をしゃぶりつくして新たな価値を生みお客様のすそ野を広げる。
停滞する現場は、コア技術を広げても試行錯誤で成果が出ずお客様のすそ野が広がらない。