「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第308話 属人化をしくみ化する手順に誤りはないか?

「ウチの現場は工程がいろいろあって対応が難しいです。」

真剣になって訴えるオーナー経営者が、目前にいらっしゃいます。個別相談でお邪魔した先でお話を伺いました。

工程管理上のご相談です。特注品個別生産ビジネスモデルの現場です。現場は一品一品をお客様の要望に合わせて製造しています。機能別レイアウト工場です。

お客様からの納期も厳しい上に、受注量の平準化ができていません。内製、外注の日程計画変更が繰り返されます。その変更の難易度が高く、ベテランに依存しているのです。

経営者は、日程計画業務が属人的になっていて難しいと感じています。冒頭の言葉です。

経営者は日程計画変更をもっとスマートにできないだろうか?属人的な仕事をしくみ化できないだろうか?とも考えています。日程計画立案プロセスのシステム化です。

 

 

 

 

 

 

 

設計タイミングの違いで2つの生産形態があります。特注品生産規格品生産です。

特注品生産は個別生産と一対です。お客様からいただく図面に描かれた製品を、原則、1度だけ製造します。そのための最適な工程を設定して、指定の納期までに製造完了を目指す形態です。

一方で規格生産はロット生産や連続生産と一対です。お客様かいただいた図面の製品を一定期間、繰り返し製造します。繰り返し造るので工程は特定されていて、所定の数量を製造し続ける形態です。

経営者はこの2つのモデルを組み合わせ、収益の最大化を図ります。特注品生産と規格品生産は経営者の意志と意図によって選択される製造戦略の項目です。

 

 

 

 

 

業種業態によっては、選択できる製造戦略が特注品生産だけ、規格品生産だけという場合もあります。例えば、試作を事業の柱に掲げている現場は特注品生産です。

また「なんでも引き受けます。」というビジネスも特注品生産になります。「なんでも引き受ける」のですから、お客様からどんな図面が届くかはわかりません。

受注の度に工程を設計し、内製ができなければ外注にお願いします。受注決定から製造着手までに手間が掛かるのです。おまけに、いつお客様から問い合わせが届くか分かりません。

「やれやれ、飛び込みで入ってきた大型案件の日程調整が終わった。」とほっとするまもなく、お得意様から、短納期案件の依頼があったりします。

そうして日程計画の再調整になります。特注品ビジネスはこれの繰り返しです。

 

一方、自動車や家電、産業設備のように市場へ一定数、出回る製品の部品を製造する事業を柱とする現場は規格品生産です。その特徴は特注品生産と対照的であると言えます。

ある程度決まった工程で一定数量の製品を繰り返し製造するので、計画的です。お客様からの突発、特急もありますが、極めて稀です。お客様から「急に変更があって申し訳ない。」という一言もあったりします。

その点、特注品ビジネスでは突発、特急、変更が日常的です。

 

 

 

 

 

規格品生産に比べて、特注品生産は手間暇が掛かかります。都度の工程設計、入り組んだ日程調整、難易度の高い突発、特急、変更対応。面倒くさいわけですから、付加価値額率を高く設定し高い見積りを出しても、お客様はその単価を認めてくれるのです。

中小ならではの柔軟性、機動性、小回り性に価値を見いだし、お金を支払ってくれます。

したがって、貴社の特注品ビジネスの付加価値額率が業界平均よりも小さかったら、何かが間違っているということです。戦う相手が違うのか、参加している市場が違うのか等々。

そもそも儲からないビジネスモデルであるなら、何をやってもダメです。従業員が気の毒と言わざるを得ません。

 

特注品生産は個別生産であり都度対応です。日程計画の変更調整には手間暇がかかります。受注の平準化は原則できません。お客様は我が社の都合で受注を出してくれないからです。

結果として、特注品の日程計画は、変更調整の繰り返しとなります。全てはカスタマイズなので、その分、お客様から付加価値額をいただくのです。

 

手間暇が掛かる日程計画立案に中小現場の強みが表れます。柔軟性のない大手は嫌がることです。

もし、貴社が特注品ビジネスなのに日程計画変更や調整をいやがっているなら、それは中小の強みを活かそうとしていないことになります。先の10項目があるからお客様は手間賃を支払ってくれるのです。

特注品の儲けの源泉は、多品種少量、特急突発、割り込み変更など、変化へ柔軟に対応できる日程計画の立案調整力にあります。

 

 

 

 

 

特急突発、割り込みが日常茶飯事の特注品ビジネスであってもリードタイムを短縮したい、ついてはベテランによる属人的な仕事ぶりをシステム化しようと考える経営者がいます。

複雑になっている我が社の日程管理の効率を高めよう!その心意気やよしです。しかし、注意を要します。やるべきことをやった上での判断でなければ強みを失うからです。

属人化をしくみ化する手順に誤りはないか?

これを客観的に確認してもらう必要があります。渦中で試行錯誤していると気付かないことが多々あるものです。

経営者は複雑さや面倒くささの根本原因を知っていなければなりません。属人的と感じる仕事のやり方を分析して、ボトルネックを明らかにします。

 

 

 

 

 

「ベテランへ丸投げした状態なので理解できていない。」そのことを属人的と称している経営者が少なくありません。「複雑でいろいろある」と一言で片づけず、ベテランと一緒になって、紐解く分析をしたか?いうことです。

ベテランはベテランの判断基準を持って仕事をしています。仕事は選択の連続です。属人的というのは、それを理解していない外部の人が使う表現に過ぎないことがあります。

 

日程管理が複雑で面倒だと感じるのは、そもそも余力が不足しているからです。特急突発、割り込みがあっても、設備能力に余力があれば、日程計画変更の難易度は下がります。

ご支援先の、ある特注品を扱うメーカーでは、割り込み受注が入っても対応できるよう、常に、1案件分の工数を空けています。空けておけば、変化に対応しやすいです。付加価値額率が高い特注品だからこそやれます。

 

日程計画変更の複雑さや難しさの原因を上流に求めると、これも「そもそも」ですが、お客様から、突然に問い合わせがあるからです。特注品であっても、先を見通せれば、複雑さは緩和されます。

特注品であっても、お得意様に相当するお客様がいるはずです。そのお客様の受注情報を少しでも早く手にします。状況が分かれば先手を打てます。

 

複雑さや面倒くささを丁寧に紐解きながら、上記のような対応をやって、その後に標準化できる項目をシステム化します。そうでないものまでシステム化すると、かえって複雑さを助長します。

特注品を対象にした日程計画のシステム化にはこうした留意点があるのです。スケジューラーを導入しても、マスター登録した以上のアウトプットは出てきません。

 

 

 

 

 

多品種少量、特急突発、割り込み変更など、変化へ対応する「ベテランチーム」をつくることが具体対応のひとつです。

ベテランは現場の隅々まで知っています。現場を動かすこともできます。そのベテランが仕事のしやすい状況をつくればいいのです。

ベテランの仕事ぶりを分析します。

・システム化できるところ

・システム化できないところ

ボトルネック分析をしながら、これらを整理するのです。

結局、後者はベテランの仕事ぶりに依存します。が、それでいいのです。そもそもシステム化できることは競合先でもできてしまうからです。

 

特注品で稼ぐ要点がベテランのノウハウであっても構いません。若手を「ベテランチーム」に入れれば、実務を通じて育成ができます。

大手工場勤務時代、ベテランで構成された「改善班」というチームがありました。各工程のキーパーソンだったベテランの集団です。

 

 

 

 

 

多品種少量であってもコストを最小化するマスカスタマイゼーションという概念があります。お客様にはオーダーメード品を提供しながら、大量生産なみのコストで製造するという考え方です。

特注品は手間暇がかかります。お客様はその手間暇に価値を感じてくれるのです。だから特注品は付加価値額率が規格品より高くなります。

 

そして、手間暇の部分にさらなる儲けの要点があるのです。

・システム化できるところ

・システム化できないところ

システム化できないところは「ベテランチーム」が担います。そうして、少しでも特注品ビジネスの効率を高めるのです。

 

競合先はチームに蓄積されたノウハウを見ることはできません。模倣困難性の高いノウハウとなります。

中小現場のマスカスタマイゼーション対応はアナログとデジタルの融合と言えます。このあたりの分析は一度経験しないと腹落ちしないところが多々あるものです。

属人化をしくみ化する手順に誤りはないか確認しながらしくみ化をやります。手ほどきを受けながらでもやってみることです。しくみ化で我が社の強みを喪失しては本末転倒です。

 

 

 

 

 

「なるほど、まだやることがあったようです。」

先のオーナー経営者はご自身の事業を成長発展させることに貪欲です。手間暇で稼ぐビジネスモデルを展開しています。特注品ビジネス。それを強化したいというゆるぎない信念を持っています。

その一方で、外の意見に耳を傾ける度量もあります。知らないことは外をから買ってくればいい。そうして時間を手にしています。

オーナー経営者の目的は、ご自身の事業を成長発展せることであり、ご自身で問題を解決することではないからです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、属人化を放置せずしくみ化可否を考えアナログとデジタルを融合させる。

停滞する現場は、属人化のまましくみ化を図り無理にデジタル化して我が社の強みを失う。