「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第334話 変われない現場に教えたいこととは?

「先生、現場にそうした他社の話を聞かせたいです。」

先週、個別相談をいただいた設備メーカー経営幹部の言葉です。

 

「現場の作業者は自分のやり方に固執して・・・・」こうした困りごとがあります。プロジェクトの目的は人時生産性向上です。仕事のやり方を変えたいと考えています。

しかし、現場が自主的に動かない・・・。ベテランから若手への技術伝承が進まない・・。ないないづくしの問題に直面し、ご相談をいただきました。

個別相談の場では、しばしば、弊社ご支援先での事例、自動車工場勤務時代や中小管理者時代の経験をお伝えしています。ヒントがあるからです。

興味深く耳を傾けていたその幹部から一言ありました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人は自分のことを知っているようで意外と分からないものだ。

人は自分のやり方が一番いいと考えるものです。経験や思い込みで考えるのが人ですから、「自分は正しい」と考えるのは、ある意味で、自然なことかもしれません。

当コラムでもしばしば取り上げる「認知バイアス」です。判断するときは主観的でもいいのですが、判断材料が主観的では困ったことになります。

 

「決断は主観的でもいいですが、決断を決める各種情報や事実は客観的でないとダメです。」ということを、多くの経営者は知っています。

ただ、知っていてもなかなかできないのが人間です。

 

 

 

 

 

経営者に意見をしてくれる人は社内にいません。

「社長、ご自身の仕事のやり方を変えたほうがイイと思います。今、○○のようにやっていますが、本来なら△△のようにやった方が上手くいくはずです。」

こうした意見をしてくれる幹部や従業員がいたら、幸いなことです。感謝しなればなりません。少数精鋭の中小製造企業ならなおさらです。現場は日々業務に追われ、それどころではありません。

 

社長の言動に意見をする人はいないので、経営者は自ら考え、自ら判断・決断し、自ら行動することになります。いきおい経営者は客観的な言葉に触れる機会が少なくなるのです。

その分、認知バイアスが強まり、客観的な判断がやりにくくなります。

 

そうであるなら、経営者はご自身のことを客観的に評価して、アドバイスしてくれる人と一緒に仕事をすれば良いのです。弊社はそうした経営者のご要望に応えていることになります。

プロジェクトを進めていく過程で様々なことをお伝えできるからです。経営者の認知バイアスを解く一助になります。

また、弊社は経営者の仕事場は外にあると繰り返しお伝えしています。これも、ご自身のことを客観的に評価する機会になるのです。

 

 

 

 

 

外の情報に触れる機会が少ない現場も事情は同じです。

現場は、自分たちのやり方が一番いいので変える必要はないと考えます。そもそも、変えること自体、面倒くさいものです。

動機付けがなければ動かないのは当たり前かもしれません。現場の任意バイアスを解くには動機付けが必要であり、その機会は外にあります。

 

比べる機会があれば何かに気付くものです。他社の製造現場を訪問すれば、黙っていてもウチの現場と比べます。その現場のキーパーソンや作業者と交わす会話も貴重です。

現場には現場特有の思考回路があります。ウチとは異なるそれに触れることになるのです。

「ウチの考え方と違うぞ」。思考回路の違いに刺激を受けます。さらには、設備や治工具類の違いも目にするでしょう。「あれっ!あれはウチの工具類とは違うぞ」。

 

 

 

 

 

自動車部品工場勤務時代に技術交流会と称して競合先の現場担当エンジニア同士が互いの工場を訪問し合う機会がありました。今から30年も前のことです。

当時は競合というよりも同業の仲間意識の方が強かったかもしれません。ギリギリの戦いが繰り広げられている昨今の自動車部品業界では、あり得ないことです。

その交流会は3年間ほど続きました。

 

交流会であっても、所詮は競合同志です。互いに相手の技術を探ろうとします。当時、その競合先の工場でどうやっているのか知りたいことがありました。

一緒に訪問する仲間と分担して情報収集したことを憶えています。

・競合先もコストで苦しんでいるのだなぁ

・競合先と同じようにやってもウチでは同じ結果にならないよなぁ

訪問したからこそ分かったことが多々ありました。外を知って、ウチと比べたから認識できたことです。外を知ればウチと比べられます。客観的な目線が組み込まれるのです。

 

 

 

「外を知る」機会は製造現場以外にもあります。

我が社を選んでくださるお客様も対象です。お客様のところでウチの商品や製品がどのよう扱われているかを知れば、客観的な目線を組み込めます。

 

ある部品製造業のご支援先では、お客様の工場に足を運んだのをきっかけに、ウチの製品がお客様の現場でどのように扱われるのかを知りました。

それを知れば、お客様がもっと扱いやすくなるようなやり方に変えたくなります。そうした気持ちが沸いてくるものです。

ましてや、訪問したお客様の現場で、そこのキーパーソンから「いや~、いつも〇〇〇さんにはお世話になっています。ありがとうございます。」と言葉を掛けられたらどうでしょう。

「ヨシ、ひとつイイ仕事をしてやろう」と思わない人は現場にいません。

 

ある食品加工業のご支援先では自社商品を扱っている小売り店舗でウチの商品を手にした家族連れを目にしたベテラン従業員が次のように語ってくれたそうです。

「ウチの商品を手にした家族がワイワイを話している姿を見て、長年この商品を関われられて嬉しいと感じた。」

 

 

 

 

 

人間が一番頑張れるのは、自分のためより、他人のためのときだと言われています。つまり、人の役に立って、人に喜んでもらうこと以上の動機付けはありません。

 

外を知ると、自然と自分を客観化できます。「ウチのやり方は・・・」「ウチの商品、製品は・・・」と言う思考が生まれるのです。

 

人は主観的な生き物ですから比べる対象がない限り、自分が一番であると考えます。そもそも、人は手を抜きたくなるものです。動機付けがなければ、主観的に仕事をやります。それが普通です。

 

貴社では外のことを知らせていますか?外のことを見せていますか?

 

 

 

 

 

「自分のやり方に固執して、仕事のやり方を変えようとしない」状況にある現場に必要なのは意識改革です。

ただし、残念ながら、意識改革を進めようと、直接にそのことを伝えても従業員は意識を変えることはありません。多くの経営者や幹部が苦労しています。

 

人は主観的ですから、言われたからと言ってそれを変えるものではないのです。そのことを一生懸命に伝えても徒労に終わります。

したがって、要点は環境整備にしかありません。それを通じて、何かを感じ、何かに気付き、何かに促され、腹落としてもらいます。

 

客観的にウチのことを考えられるよう比較対象を教えるのです。現場がそれを知ることができるような環境を与えるのです。

競合やお客様の現場を訪問する、外部から情報提供を受ける、経営陣がお客様先で知ったことを伝える…等々。お客様の声や競合の様子などです。

 

 

 

 

 

弊社はプロジェクトを通じて、現場のキーパーソンへ、動機付けのきっかけになるよう、ご支援先での事例を解説することがあります。

 

ただ、闇雲にそうした話を伝えればいいというものでもありません。あくまで「ウチのやり方は・・・」「ウチの商品、製品は・・・」という思考になってもらうためです。手順があります。人時生産向上の論点のひとつです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、外を知っているのでお客様に選ばれるようにウチのやり方を懸命に変える

衰退する現場は、外を知らないので、客観的にウチを観られきず、やり方を変えられない