「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第336話 納期遅延の警告を上手く出すにはどうするか?

 

「先生、納期遅延の警告を上手く出すにはどうしたらいいでしょうか?」

先日、個別相談をいただいた大型産業設備メーカー幹部の質問です。

 

扱っているのは10m程度の長尺製品です。基本構造は同じですが、細部が特注になります。納期が長く設定され、3ヶ月や6ケ月、場合によっては1年です。

車台は共通でも、ボディー色や内装、オプションの有無でお客様の多様な要望に応えている自動車と似ている生産形態と言えます。多品種現場です。

 

多品種なので日程管理が要点となります。数カ月から半年、長ければ1年の納期の製品が現場を入り乱れて流動しているのです。

納期が概ね1か月単位で設定されています。日々業務の中で納期に追われることはありません。しかし、「遅れている!」と認識された時点で挽回できない場合もあるようです。

 

納期が1週間、1か月程度なら火事場の馬鹿力を発揮できます。しかし、半年、1年の納期では、巻き返しを図ることが難しい場合もあるのです。気付いた時には遅かった・・・。

遅れを認識しても、挽回できなければどうしようもありません。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

工程管理は生産計画と生産統制の2本柱です。前者は計画、後者は管理で構成されます。後者は管理なので計画VS実績の実務です。計画に対して遅れを認識したら、挽回します。

・遅れの認識

・遅れの挽回

これら2つが生産統制の目的です。仕組みでやります。遅れを認識したら、状況を現場キーパーソンが一緒に知って、製販一体で挽回するのです。

 

遅れを挽回する際、キーパーソン全員で要点を突くのです。「自分の担当工程と関係ないことだから・・・」という言葉はメンバーから出てきません。

 

従業員の役割は「工場が儲かるように一人ひとりが貢献すること。」です。

 

役割が業務分担の上位概念になっていない現場ではおかしなこと起きます。「自分の担当工程と関係ないことだから・・・」という発言が出るのです。

遅れ挽回が、属人的ではダメな理由がここにあります。

 

貴社では遅れ挽回が、現場任せ、担当者任せ、属人的なやり方になっていませんか?もしそうなら経営者は注意が必要です。

現場で起きる悪い話が情報として経営者に届きにくくなっているかもしれません。

 

 

 

 

 

QCDに関する悪い話のほとんどは現場で認識されます。悪い話も小さな芽のうちに摘み取れば、なんとか乗り越えられるものです。それを放置するから大問題になります。

しかし、小さな芽のうちに摘み取れない現場もあります。挽回の実施が属人的な現場です。悪い話に気付いた人が損をする雰囲気があります。

そんな現場では、火の粉が降りかからないように黙っている方がお得です。誰も好んで苦労を背負うことはしません。

 

「遅れを見つけたのに、なぜ対応しなかったのだ~。」と責められたら誰だって面白くありません。こうして悪い話には、蓋をしておく方が無難だとの間違った考え方が浸透するのです

昨今の大手企業で起きている品質不正問題の元凶は全てここにあります。悪い話が現場から上がってこないのです。

 

納期遅延の小さな芽を見つけたら、それを全員で一緒に知って、一緒に挽回策を考え、チームで実践することです。その体制をつくります。

ここで意識されるのは役割だけです。業務分担は関係ありません。こうした仕組みづくりや環境整備が経営者に求められます。

 

そこでは、組織3要素のひとつであるコミュニケーションが大切です。弊社では戦略的コミュニケーションと説明しています。

”悪い話は小さな芽のうちに見つけて、製販一体で解決しよう”と普通に考えるチームに変えなければなりません。

 

コミュニケーションが活発なご支援先の現場ではいろいろなことがドンドン進みます。コミュニケーションが活発な現場ではワンチームが機能するからです。

遅れはチームで挽回します。遅れを挽回するには、コミュニケーションをベースとした挽回するしくみが欠かせないのです。

 

 

 

 

 

遅れの認識をタイムリーにやることも大事です。挽回するしくみがあっても、ギリギリに認識されるようでは、挽回できる遅れも挽回できません。

進捗確認の最適な時間単位を設定します。

 

数年前にご支援したお客様企業先でのことです。今回、ご相談をいただいたお客様企業と同様な業態で大型の産業用設備を扱っていました。

 

納期が1ヶ月単位で設定され、数カ月や半年、長ければ1年の現場です。そこで人時生産性向上を目的にプロジェクトを始めたわけですが、日程計画の「時間単位」について、現場キーパーソンと、度々話がかみ合わないことがあったことを思い出します。

 

「先生、ウチの製品の納期は長いから、時間単位の細かい計画はいらないと思います。」

リードタイムの説明をした後に若手のキーパーソンが疑問を投げかけてくれました。意欲的な若手は積極的です。外の情報に興味を持ってくれました。指導するこちらも力が入るというものです。

 

「いやいや、変えたいのはワークの時間単位ではなく、作業者の時間単位ですよ。」

こうした説明から始めて、なぜ我が社でリードタイム短縮が必要なのかを腹落ちしてもらいました。

 

 

 

 

 

リードタイムは「ワーク」から見た時間経過です。ワークの納期が原則1か月単位で設定されているのなら、それ以上細かい納期を設定しても効果は薄いと考えられます。

しかし、ここで焦点を当てたいのは「作業者」です。作業者は工数を現場へ投入して、ワークを加工します。その効率が生産性で評価されるのです。

 

作業者持っている工数の投入方法を変えて、ワークのリードタイムを短縮します。その成果を1週間や1日の時間単位で得たいのです。

 

それを実現するために、作業者の工数投入を1時間単位で設定します。工数投入のやり方を時間単位で工夫するのです。

時間単位での工数投入方法の工夫を積み重ねます。その結果、相乗効果により、ワークのリードタイムを日単位、週間単位で短くできるのです。細部にこだわらないと結果は出ません。

 

 

 

 

 

ワークの納期が1か月単位だからといって、それに合わせて作業者の工数投入の時間単位も長くすると、多くの場合、無計画な停滞時間が増えます。停滞と運搬は価値を生みません。

そもそも、作業者に一日単位の指示しかしていないと現場も困るはずです。1日8時間の業務の流れが提示されていないと、作業者も上手に動けません。比べる対象がないからです。

 

「今日は早速、段度に入って、10時半から立ち上げ、午後は引き続き、品質確認しながら作業を継続するのだ。15時に係長がチェックしたいと言っていたのでそれまではうまく仕事をやろう。」

 

時間単位の業務指示があれば、作業者は日々、自分の行動を業務指示と比べられます。こうした時間単位の業務指示があれば、納期遅延の小さな芽も見つけ易いです。

今日やるべきことが終わらなかったら、それは遅延の小さい芽と考えます。

 

作業者の時間軸を時間単位にすることで、遅れの認識を的確にできます。業種業界に関わらず、製造現場での小日程計画の時間軸は原則、「時間」です。

結果として、これは進捗確認の時間単位となります。

 

納期遅延の的確なアラームは、挽回の仕組みと小日程計画の時間軸を時間で設定することの2つから考えるのです。

少しでも早く、遅れを認識できれば、それだけ遅れの挽回がやり易くなります。進捗確認の時間単位が長くなると気付いた時には遅かった・・・です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、ワークと作業者の時間軸を切り分けるので時間単位の小日程を使いこなす

衰退する現場は、ワークの時間軸に作業者の時間軸を合わせるので作業者任せになっている