「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第354話 経営者は現場キーパーソンに森を見せているか?
「先生、森を見せないとダメですね。」
最近、プロジェクトに着手した40人規模メーカー経営者の言葉です。
ベテランが現場を支えてくれています。しかし、現場を引っ張ってくれる若手人材が育っていません。将来の右腕役がいないのです。
経営者の言動に触れた右腕役は「社長はこんなことを考えているのだ!」とトップの意図や意志を理解します。そうして、経営者と同じような思考回路を持つのです。
同じ思考はダメですが、思考回路は同じくします。右腕役に工場を任せるためです。工場を右腕役に任せないと、市場に向き合う時間を確保できません。
貴社には任せる仕組みがありますか?
その仕組みにおいて、標準書の体系は大事な役割を果たします。
右腕役に工場を任せる活動に着手したいのなら、製販一体で、段取りや運搬、作業日報などのルーチン業務をこなせる仕組みが不可欠です。
まずはルール作りです。実務的な標準書の作り方があります。先の経営者はそのことを知りました。冒頭の言葉です。
経営者の仕事は市場に向き合って、儲かる事業モデルをつくることにあります。
ご自身の事業モデルは今、儲かっていますか?
もし、今、儲かっているなら、儲かっているウチに、将来も儲かるよう、将来を見通して、その事業モデルを変えます。
儲かっていないのなら、儲かる事業モデルに変えることが喫緊の課題です。
時代はうつろい、技術は進化し、競合は追い上げ、お客様の要望は高度化、複雑化します。中小製造企業が生き残るには、改革が必要です。
・下請けモデルでもいいので、儲かる下請けモデルを考える
・単品では儲かりにくいので、組み合わせを考える。
・形あるモノの提供では差別化できないので、サービスを考える。
我が社の事業モデルを儲かる事業モデルに変えることを改革と言います。
現場改革、意識改革、構造改革。スクラップ アンド ビルド。不要な木は伐採して、新たな木の苗を植えます。不要なものを捨ててから、新たなことに挑戦です。
森全体をどのような形にするのか?
どのような林の組み合わせにするのか?
これらは森全体が見えていないとできません。
森が見えてないと、残すべき木を伐採してしまい取り返しがつかなくなるかもしれません。覆水盆に返らず、です。戦術は戦略に従います。森が先です。
一方で木を見ることも大事です。
何かの原因で一本の木に火が付いたとします。火が付いた木に気付いたら、その木を切り倒すなり、火を消すなりすれば、被害は最小限に止められます。
気付かずに放置しているとどうなるか?
延焼します。気付いた時点ではすでに大きな山火事です。こうなるともうどうしようもありません。森全体が燃えてしまいます。
一本一本の木に目配せしていたら、こうしたことは起きません。これを管理と言います。
管理とは異常を小さなうちに見つける仕組みのことです。工程管理の生産計画と工程統制の関係を知れば分ります。
QCDと人材に関する問題は、小さなうちに気付けば、解決に余計な手間暇をかけなくても済むのです。現場キーパーソンも疲弊しません。
ご支援先で事業モデルの議論をしているのに、気が付くと現場の人材問題の話に始終してしまうことがあります。それだけ人材問題は根が深いのです。
本当なら、問題に気付いた時点で、即、芽を摘み取るべきでした。
もしご自身が今、解決の見通しがつかない問題を抱えているとしたら、
・小さなうちに異常を見つけられなかった
・異常を見つけていても放置していた
どちらかです
そもそも、木を見て、評価し、手を打つ仕組みがなければ、そうした問題は放置されます。気が付いたら、森全体が燃えていた、となるのです。
一本一本の木に目配せする仕事の重要性も忘れてはなりません。
先述のように、木を丁寧に見ることは大事です。しかし管理ばかりでは儲かりません。戦術は戦略に従います。先に森です。森のグランドデザインです。
経営者が森の構想を明らかにします。右腕役は構想にしたがって木を植えます。
そうやって、右腕役に工場を任せる仕組みができるのです。手順書、マニュアル、社内ルール。仕組みの根幹を成すのが標準書です。
組織能力は2つで構成されます。
・ルールをつくる能力
・ルールを守る能力
標準書作成は前者です。
指示導線上から3番目、指示する人が標準書を作成します。リーダー、主任、職長、班長、係長。現場を仕切る現場のキーパーソン達がつくるものです。
その業務をやっている人が作業の機微を知っています。最も的確な標準書作成者は指示する人です。人から与えられたルールは守られませんが、自ら決めたルールは守られます。
「ウチの現場には標準書をつくる能力がありません。」と語る経営者がいます。
こう語る経営者は、標準書の作成それ自体を現場へ丸投げしていることが多いです。現場キーパーソンを指導せずに標準書を書かせようとしています。
お作法を知らなければ、無理というものです。お作法をしっかり指導します。標準書の目的や使い方を伝え、我が社の具体的な作成手順を教えるのです。
標準書は仕組みの根幹を成します。したがって、その根幹を作成する手順にその組織、チームの思考回路が現れます。
作成手順が決められていないと言うことは、現場の思考回路もそうだということです。担当者次第、属人的な現場になっています。
経営者の意志や意図を反映させた作成手順を決めます。森を見せて木を考えさせるのです。
標準書の体系は2通りで整理できます。
・大分類様式
・業務流れ様式
前者では、会議、安全、品質、クレーム、発注業務等、我が社の業務を大分類として抽出し、さらに森を構築している林に区分します。林を分解したら木です。これが標準書になります。
後者では、特注生産の場合、お客様からの問い合わせから出荷までの各業務が大分類です。これら業務の流れ自体が森です。森を構成している林を実務に分解します。情報の流れも大事です。各実務について標準書を作成します。
この2種類の体系を上手く組み合わせます。・・・と言うのは簡単ですが、経験を積まないとイメージが浮かびにくいものです。現場キーパーソンはそうした壁に直面します。
だから、プロジェクトを通じて教えるのです。
標準書作成の要点は、経営者が大分類や業務の流れを現場キーパーソンに見せることにあります。森を見せて目的を伝えるのです。この森には経営者の意志や意図が含まれます。
経営者が大分類や業務の流れをつくるのです。
森があれば、自分が作成する標準書の位置付けが分ります。部分最適化だけではなく、全体最適化にも気付くのです。
右腕役がいなければ、経営者の時間は「内」の業務にも割かれます。
・標準書を作る。
・作ったルールを守らせる。
・現場を仕切る。
・日程計画を立てる。
・納期遵守に加えて、生産性向上の活動もやる。
右腕役がいなければ、経営者が自ら、こうした業務もやらなければなりません。現場の問題に関わらざるを得なくなります。
こうなってしまっては、経営者は新規のお客様と出会う機会を逸します。それが嫌なので、先の経営者は将来の右腕役を育成しようと決意しました。弊社はプロジェクトで右腕役を育成する大切をお伝えしています。
教えるべきことを、早々に教えたほうが経営者は楽ができます。標準書の作り方は最たるものです。先の経営者に指名された30代前半の右腕役候補が仕事に取り組み始めました。
次は貴社の番です!
成長する現場は、経営者から示された森の構想にしたがって適切な木を植えることができる
衰退する現場は、森を見ることなく木を植えることしかやらないので全体最適化にならない