「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第353話 業種も規模も異なる企業の事例を生かせるか?

「ウチは規模が小さいのであてはまらないのではないでしょうか?」

先日、個別相談をいただいた30人素材メーカー経営者の言葉です。

 

人時生産性向上を実現した現場事例をいくつか紹介しました。事例であげた企業の業種や規模は先の企業のそれとは違っています。

違っていても有益なのでお伝えしたのですが、先の経営者は、すぐにはそう考えられなかったようです。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

企業は2つの機能を持っているとドラッガーは語っています。

・マーケティング

・イノベーション

全ては新規のお客様とご縁を結ぶためです。中小製造経営者は市場に向き合いながら、市場の変化に対応するために改革をやります。

 

そもそも技術は進化するので、製造業における「改革」の重要性は論を俟ちません。そして改革の対象は固有技術だけではなく、管理技術、事業モデル、組織能力、従業員構成にまで及ぶのです。

 

マーケティングで新たなお客様とご縁を結びます。そして、そのお客様の要望は時代と共に多様で変わるものです。

イノベーションとはそうした市場の変化に応えるためものと言えます。我が社を「変える」ことに焦点を当てなければ、我が社の命脈を保てないのです。

 

我が社を「変える」ことに躊躇していていると置いてけぼりを喰います。判断基準は市場です。お客様の要望に応えるために現場を変えます。

できるとか、できないとかという内部事情は無関係です。イノベーションで生き残ります。経営学の神様、ドラッガーがそう説明してくれているのです。

 

 

 

 

 

自社と同じ業界、同じ規模の事例を知っても、イノベーション水準の改革につなげられません。その業界で、その規模で事業をしている企業は、同じ発想、考え方、文化、組織を持つからです。

まさにその思考回路を持っているから、同じ業界、同じような規模で事業を展開しています。これは良いとか悪いとかと言う話ではなく、結果としてそうなると言うことです。

 

競合と同じ事をやっても儲からないのが商売である以上、同じ業界、同じ規模の企業の事例を聞いても、そこから刺激を受けることは少ないでしょう。

 

他社事例をお伝えした際、「ウチの業界とは違うから。」「その企業は規模が大きいから」という理由を上げて、ウチでは他社でのやり方を使えないと考える(思い込んでいる)経営者がいます。

「同じ業界、同じ規模の企業の事例でないと参考にならない」と考えているということです。これではいつまで経っても変われません。

同じような話を聞いても、そこから刺激を受けることはなく、せいぜい、同じやり方をしていることを知って安心するのが関の山です。

 

弊社は安心してもらうために他社事例を紹介しているのではなく、刺激を受け、我が社へ「応用」してもらうためにお伝えしています。

成長発展のヒントを得たかったら、自社とは違う業種や業界、規模の事例に触れて刺激を受けることです。

 

 

 

 

 

トヨタ生産方式を生み出したトヨタ自動車元副社長大野耐一氏はアメリカのスーパーマーケットをヒントに「かんばん方式」を編み出しました。大野氏は自身の著書である「トヨタ生産方式」の中で次のように語っています。

 

自動車会社とスーパーマーケットの取り合わせ。妙に映るかもしれないが、早くから、アメリカのスーパーマーケットの仕組みを人づてに聞くにつれ、これは私どものが考えている「ジャスト・イン・タイム」に結びつくものではないかと、想像力をたくましくしていたのである。

(中略)

スーパーマーケットから得られたヒントとは、スーパーマーケットを生産ラインにおける前工程とみてはどうかということであった。顧客である後工程は、必要な商品(部品)を、必要なときに、必要な量だけ、スーパーマーケットに当たる前工程へ買いに行く。前工程は、すぐに後工程が引き取っていった分を補充する。こうしてやっていくと、私どもの大目標である「ジャスト・イン・タイム」に接近していけるのではないかと考え本社工場の機械工場内で昭和28年から、実地に応用してみた。

 

JITの実地検討が今から70年も前にやられていたことに驚きます。トップや幹部の強烈な意志と意図のもとで、磨きあげられたやり方がトヨタ生産方式なのです。

うわべだけ真似ても上手くいかないのもうなづけます。

 

今やお作法として定着した「引張型」ですが、当時は革新的な考え方だったことでしょう。従来からある一般的な「押出型」の真逆です。

スーパーマーケットという異業種からのヒントだったので「引張型」という革新的なアイデアのヒントになったのです。

「想像力」が大切だと大野氏は説明しています。経営者が目で見えることにしか意識が向かないようでは事業を成長させられません。競合と同じ土俵で争うことになります。

 

 

 

 

 

想像力をたくましくして、異業種、異業界、異規模企業の事例を自社の事業に当てはめて考える思考回路を持つことです。儲けの本質は業種、業界、規模を超えて存在します。

そうでなければ、エンジニア出身で京セラを創業した稲盛和夫氏が畑違いの通信業界で民間初の第二電電DDI(後のKDDI)を設立して、成功に導けるわけがありません。

事業を成長させ、もうけを生み出す本質が、業種、業界を超えて存在するからこそ、稲盛氏はJALを再建できたわけです。

 

弊社も同じです。弊社は中小製造企業の人時生産性向上指導機関ですが、製造業というくくりで、業種を問わずご支援しています。硬い商品でも、柔らかい商品でも同じです。

「工場」という場を活用して、儲けを積み上げるお作法に違いはありません。想像力が大切な武器になっています。

 

 

 

 

 

成長発展のヒントを得たかったら、自社とは違う業種や業界、規模の事例に触れて刺激を受けることです。想像力をたくましくすれば、見えないものが見えてきます。

先の経営者は、これまで、こうした話を聞いたことがありません。初めて耳にする考え方に触れて、刺激を受けたようです。

いろいろな業種や業界の話には、経営者のヒントになることがたくさんあります。いろいろな業種をご支援してそう感じるのです。

そうした事例をご支援先の経営者や現場キーパーソンにお伝えしています。

 

変えろと言っても変わらないのは従業員の意識です。

これを変えさせるのは環境整備のみ。自社とは違う業種や業界、規模の事例にふれさせます。そうすれば想像力が刺激され、意識を変えるきっかけをつかんでくれるのです。

先の経営者もそうしたことに気付きました。

 

成長する現場は、自社とは違う業種や業界、規模の事例を成長発展のヒントにできる

衰退する現場は、自社とは違う業種や業界、規模の事例は参考にならないと考える