「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第357話 日程計画で意志や意図を現場へ示しているか?
「先生、小日程計画の前に中日程計画が必要です。」
現場に日程計画を導入したいと考えている40人規模自動車部品工場、工場長の言葉です。
お客様から3ヶ月計画が毎月届きます。それに従って、製造の計画が立てられますが、そのやり方が属人的です。
お客様から届く毎月の3ヶ月計画をもとに、製品(品番、製番)毎の必要出荷数量と納期の2つを整理します。現場担当者はこの2つのデータを確認して、計画を立てているのです。
現場担当者が、自分に割り当てられた製品(品番、製番)の製造着手日を決めます。つまり、製造の日程計画は、製造担当者が“各々で”決めるやり方になっているのです。
現場担当者は、”各々で“決めた製造の日程計画を前日に整理して、工場長へ報告します。工場長は、それで明日の製造予定を確認するのです。これまで、このやり方で納期遵守を維持してきました。年商5億円前後です。
そうした中、コロナも収束し始めた昨年、経営者から、「生産性を高めて、事業を年商7億、10億へ成長させたい」との指示が下ろされました。
工場長の課題は生産性を高めて製造できる物量を増やすことです。
しかし、ここで工場長は問題に直面しました。経営陣の指示に合せた製造の計画を立てるやり方が分からないということです。
現場の納期遵守意識に従った計画しか立てたことがありません。
さらに、その計画自体、現場担当者が作っていました。工場長自身、製造の計画立案に携わっていなかったので、経営陣の指示に合せた計画を立てるよう現場へ指示したくても要点が分らないのです。
そもそも、現人員数で生産MAXはどれ程なのかも把握できていません。全体最適化で計画を立てたことがないのです。
「いよいよ我が社も日程計画を実践しなければならない」となりました。
工場長は現場キーパーソンと日程計画の説明を受けました。工場長はやるべきことが頭に浮かんだようです。冒頭の言葉です。
日程計画は大中小の3つで構成されます。経営者の意思や意図が示されているのが大日程です。ロードマップは大日程計画のひとつと言えます。
大日程で明らかにされるのは年間利益。経営者は我が社が生き残り、持続的競争優位を構築するのに必要な利益を従業員に提示します。
その利益から逆算して出てくるのが必要仕事量です。
中日程計画で必要仕事量を確保できているかどうかを確認します。さらに、受注した仕事をこなすだけの余力が工場にあるかどうかを判断するのに使うのもこの中日程計画です。中日程計画は能力と負荷の比較、製品および工程のLT計算によってつくられます。
現場のすったもんだはこの中日程計画でしばしば起きるようです。
中日程計画は、無理を承知でお客様からいただいた受注をこなすにはどうすればいいかを考えるためあります。
しかし、受注を獲得したにも関わらず現場から「忙しくてできない。」と言ってくることがあります。中日程計画が機能していません。
受注の前後関係が表記されているので調整の要点が分ります。現時点の時間枠が見えるので、短縮したい時間幅を決めやすくなっています。
①調整の要点
②短縮の時間幅。
できない理由を上げるために、中日程計画を使うのではありません。経営者は中日程計画で現場に意志や意図を現場に示します。
無理かもしれないけれども、詰めて、空けて、取り込めないだろうか?現場に協力をお願いするのです。
そして、中日程計画に基づいて小日程計画がつくられます。時間単位で現場へ指示するためです。小日程計画の現場で果たす役割の重要性は論を俟たないですが、中日程計画も同じくらいの重要性があります。
詰めて、明けて、取り込める経営者は中日程計画を上手に使っています。
人時生産性の分母は工数です。工数は時間が関係します。この時間を決定するのが日程計画です。時刻と時効の間が時間です。
結果としての人時生産性ではなく、勝ち取る人時生産性を手にしたかったら日程計画が必要になります。
日程計画のお作法を学ぶことなく、日程計画導入の取り組みを進めても、体系的、計画的にやれません。やっても目前の問題に飛びつくモグラ叩き型のプロジェクトに留まります。
蓄積型のプロジェクトにならないのです。
多くの場合、思いつきで終わります。プロジェクトを蓄積型に変えたかったら、現場キーパーソンに生産管理3本柱の型を指導してください。思考の型が出来上がります。
先の企業では中日程計画導入に着手しました。
中日程計画の目的は、①と②の状況を現場へ見せることにあります。そうして、無理を承知で、お客様からいただいた受注を無理矢理にでもねじ込むのです。
お客様からの要望を断る選択肢は成長する中小製造企業にはありません。
中日程計画に経営陣の意志や意図が現れます。
中日程計画は本来、経営者の利益計画を実現させる仕事量を提示するトップダウンの計画です。先の工場長はここを我が社流にアレンジしてやる必要があると考えました。
ボトムアップで状況を整理し、それに対して経営陣の意思や意図を反映させた中日程計画をトップダウンで示すのです。
「これを続けていけば、そのうちにトップダウンでの中日程計画ができますね。」とはその工場長の言。的を射ています。考えるには知識が必要です。
儲かる事業モデルをつくる取り組みは改革です。改善や効率化は現場に任せます。改革は蓄積型のプロジェクトです。蓄積されたノウハウ、経験、人財が次世代の事業をつくります。
ご支援先で勢いがあって、右肩上がりを継続されている経営者は改革を実践しています。蓄積型のプロジェクトなので時間を重ねるほどに強みが磨かれるのです。
弊社のプログラムでは、日程計画の実践は「儲かる事業モデルづくり」で欠かせない実務のひとつとしています。
次は貴社の番です!
成長する現場は、中日程計画を活かした蓄積型プロジェクトにより人時生産性を高めている
衰退する現場は、モグラ叩き型プロジェクトで目前の問題に囚われ人時生産性が高まらない