「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第362話 現場はマテハンをスマートにやっているか?

「マテハンのところがはっきりしないです。」

50人規模工場設備メーカー工場長の言葉です。

人時生産性向上の論点を議論していた時、リードタイムが取り上げられました。

我が社のリードタイムはどこに問題があるだろうか?

各工程には作業標準書が設定されています。重点管理項目も明らかにしているのです。主体作業はしっかりやられています。

ただし、リードタイム構造を知った工場長はあることに気付きました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の本質は「分子の積み上げ」です。削減の時代から積み上げの時代に変わりました。人時生産性を高めたいのなら外の仕事に焦点を当てます。

既存お客様からの電話を待つ従来型の下請けモデルだけでは、座して死を待つことになります。経営者は市場と向き合うのです。

まだ見ぬ「将来の主要お客様」と出会うことが経営者の仕事なのです。経営者以外に我が社がお客様に選ばれる要点を知っている人はいません。

出会って、ご縁を結び、ビジネスに仕上げるのは経営者にしかできない仕事です。

そして、分子積み上げの見通しが立ったら、早速、内の改革に着手します。柔軟性の高い製販一体体制構築です。要点は柔軟性、機動性、小回り性。

お客様に選ばれる商品を効率良くつくれば儲けを最大化できます。

 

 

 

 

 

ここからは経営者の右腕役、現場キーパーソンの仕事です。

 

経営者が外で獲得する仕事をドンドンこなせるように、右腕役や現場キーパーソンは内のやり方をドンドン変えます。経営者の意志や意図を実現するためにドンドン変えるのです。

経験的とか、なんとなく一般的にやるのではなく、「経営者の意志や意図を実現するために」という明確な判断基準があります。

右腕役や現場キーパーソンはそのことを理解してないといけません。外と内の仕事が車の両輪のように連動させないと、車はまっすぐにすすみません。

その上で柔軟性の高い製販一体体制構築をやるのです。

 

指示導線が機能していれば問題はありません。指示導線が機能していれば経営者は工場を右腕役や現場キーパーソンに任せられます。

経営者は外の仕事に専念できれば、分子を積み上げ続ける成長モデルができあがるのです。

貴社には工場を任せられる右腕役や現場キーパーソンがいますか?

 

 

 

 

 

中小製造企業は多品種少量、変種変量の仕事を効率良くこなして人時生産性を高めます。大手と同じ戦略では生き残れません。そこで柔軟性の高い製販一体体制で付加価値額を積み上げるのです。

工場のことを任せられた右腕役や現場キーパーソンは人時生産性を高めるお作法、知識を理解していないといけません。工場では分母に焦点を当てます。工数です。

限りある持ち「工数」で少しでも多くの仕事をさばくにはどうするか?これが論点となります。持ち工数でアウトプット最大化を図るのです。

「詰めて、空けて、取り込む」が方針となります。

 

右腕役や現場キーパーソンがPJを通じてこの方針を実践すれば、具体策を実践するために必要な基本を理解できるのです。弊社がPJで指導している所以です。

知識は座学と実務を掛け合わせて指導します。

こうした分母効率化ノウハウの蓄積は右腕役や現場キーパーソンへ任せていいのです。経営者はミクロやマクロの人時生産性に目を光らせて、取り組みをフォローし評価します。

経営者の時間も有限です。限られた時間は市場に向き合うことに割きます。そこに時間を割かない限り、新たなお客様とのご縁は絶対に持てません。

 

 

 

 

 

「詰めて、空けて、取り込む」論点はいくつかありますが、リードタイム短縮はしばしば取り上げられる課題です。リードタイムを構成するのは3つです。

 

①段取り時間②正味作業時間③マテハン(正味作業時間は解説本などでは主体作業時間と説明されています。)リードタイム短縮ではこれら3つに注目します。

 

①項と②項は現場の王道です。多くの現場で既にやられています。

技術革新でブレークスルーを起こすのは②項です。改善を超える改革水準の成果を手にできます。

シングル段取りに取り組んでいるトヨタの例を挙げるまでもなく①項も重要です。①項では最短よりもバラツキ最小化に焦点を当てるべきであるとはしばしばお伝えしていることです。

 

先の企業も①項や②項はこれまでやってきました。まだまだ改善の余地はありますが、一定水準まで至っています。

ただ、③項はノーマークでした。PJリーダーの言葉を借りれば「作業者任せのブラックボックス」です。

 

 

 

 

 

マテハンとは、工数を投入する作業者や設備の立場で説明した”作業時間“のことです。ワークの立場で説明したら、「移動・停滞」です。

現場4工程のうち、この「移動・停滞」は価値を生まないとされています。

つまりマテハンの”作業時間“は価値を生まないのです。

ただし、無意味というわけではありません。こおは要注意です。無価値と言うことです。これらが無くては段取りや正味作業はできません。

価値は生まないけれども無くすことができない作業。

そうであるならスマートにやるだけです。

 

 

 

 

 

価値を生む作業や段取りの重要性を理解している経営者は多いので、これらの作業時間は注視され確認されます。その反動なのか、価値を生まない作業は作業者任せになっているところが多いです。

作業者任せになると何が起きるか?

マテハンが作業者自身の勝手な判断基準でやられます。

・自分の仕事が終わっても次工程へ連絡しない。

・次工程の事情と無関係に次工程完了品を運ぶ。

・予定より早く作業を終えたので自主休憩を入れる。

・通い箱の準備に1時間掛かっても問題視しない。

・必要以上に手間暇を掛けて工程間移動の梱包作業をしている。

こうした事例はスマートなマテハンとは言えません。マテハンを放置している経営者のやり方に問題があるのです。

 

転職先での切削加工現場の管理者時代、こんなことがありました。

研削盤を担当している勤務40年以上のベテラン作業者が設備を自動運転していている間、その設備に「つきっきり」になっているのです。

見ていると、排出されてくる切粉を小型のブラシで掃いて除去しているのです。稼働を始めると1以上以上は自動運転する切削加工です。

「つきっきり」は必ずしも必要ではありません。その間、別の設備を稼働させることも可能です。しかしながら・・・、そのベテランは切粉除去を目的に「つきっきり」でした。

 

切粉排出に問題があるならクーラントの供給方法最適化が課題です。しかし、そのベテランはもう何十年もそのやり方でやっていました。マテハンをスマートにやるというアドバイスがなかったからでしょう。

そのベテランは決して手を抜こうとする人ではありません。一生懸命な従業員でしたが、スマートなマテハンではなかったのです。

 

マテハンがブラックボックス化しているなら、やるべきことはそのスマート化です。なぜならマテハンは「合理化のフロンティア」と言われているからです。

・機能別レイアウトの特注品生産ではリードタイムのうち停滞が60~80%占めている。

・工数や設備稼働時間のうちマテハンが半分以上占めている。

このような実績も報告されています。

だから、リードタイム短縮ではまずマテハンに注目です。

 

 

 

 

 

ただし、その一方で少数精鋭中小現場では、このマテハンが柔軟性の源泉になっていることも忘れてはなりません。

中小現場の強みは柔軟性や小回り性、機動性にあります。多品種少量、変種変量に加えて、特急、突発、変更に応える必要があるからです。

この柔軟性の原動力は一見無駄に見えるマテハンにもあります。全てが同期化して、きっちりしていると柔軟性は生まれません。無駄があるから柔軟性を高められるとも言えるのです。

 

したがって、使命感があり、当事者意識が高い現場なら、マテハンのブラックボックス化は大いに結構、推奨します。この余裕代を現場は上手に使いこなして価値を生み出してくれるからです。

ただ、そうでない現場では、ブラックボックス化のままにしていると、スマートなマテハンを考えることなく時間だけが過ぎます。

 

マテハンは毒にも薬にもなるのです。

 

貴社の現場はどちらですか?

右腕役と現場キーパーソンはマテハンを管理できていますか?

毒になっていますか?

薬になっていますか?

 

経営者が工場を任せる右腕役と現場キーパーソンに必要な知識を教えるのです。知識がなければ考えることができません。先の現場では知識を身に着けた右腕役と現場キーパーソンが実務に着手します。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、マテハンをスマート化して価値を生み出す機会をつくり生産性を高める

衰退する現場は、マテハンをブラックボックス化のまま生かせず無駄で効率を高められない