「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第361話 作業標準書は役割を果たす後押しをしているか?
「作業標準書はどこまで詳しく書いたらいいでしょうか?」
先日、PJに着手した20人規模少数精鋭部品メーカー工場長の言葉です。
この企業の経営者はいまのままではこなせる仕事量の上限を破れないと判断しました。ベテランによる属人的なやり方になっています。
事業のステージを高めたいと考えている経営者です。ステージを高めるために何が必要?かを議論して、至った結論が「日程計画の導入」でした。
原材料発注ルールから始まって各種在庫管理の仕組みも必要です。PJをやりきれば、ベテランに依存しない、誰でもわかる仕組みの体系ができあがります。
ここで重要な役割を果たすのが作業標準書です。
今月からPJを主導するのは工場長です。工場長は、これまで蓄積型の作業標準書をつくったことがありません。つくったとしてもモグラ叩き型でした。
新たな体系づくりに着手します。冒頭の言葉がありました。
工場には2つの仕事があります。
・管理
・改革/改善
管理とは納期遵守等、現場で最適なQCDを実現させるやり方のことです。計画と実績を比べます。その手順を示したものが作業標準書です。
会社独自のものであり、我が社の「型」と言えます。手順を作ることとそれを守らせることの2つが大事です。
・つくる能力
・守る能力
これが組織能力であり、いわゆる管理です。我が社の「型」です。作業者には決められたことを決められたようにやってもらいます。「型」は我が社のルールです。ルールは作るだけではダメです。守らせないと意味がありません。
この「型」は一旦出来上がると、いずれ壊される運命にあります。改革や改善です。
・経営者目線の「型」破りを改革
・現場目線の「型」破りを改善
私達は利益獲得集団です。付加価値額を積み上げます。その付加価値額は全てお客様からもたらされるのです。したがって付加価値額を積み上げる要点はただ一つ。
・お客様の要望に応えること
我が社の事情は無関係です。
できる、できないは関係なく、要望に応えられなければ、市場から消えるしかありません。競合も必死に追いかけてきます。私たちは進化する技術の世界で戦っているので、外の変化に合わせて我が社を変えなければ生き残れないのです。
お客様の要望に応えるとは、外の変化に合わせて我が社を変えることに他なりません。
「変える」具体業務とは、「ビフォーアフター」です。両者を比べます。ビフォーがなければ変えようがありません。
作業標準書には、“今”、最良と思われるやり方が書かれています。これがビフォーです。これがあるから「変える」際に、チームは共通用語を持ちながら仕事ができます。
ビフォーがなければチームの思考はバラバラです。独自ではなく我流の塊になります。
儲かる工場経営の仕組みとは、管理と改革/改善の手順体系のことです。この手順体系を作業標準書に「過不足なく」記述するのが大事になります。
この「過不足なく」もその現場独自です。
ご支援先では事例で確認しながら、最適なところを探ります。
例えば木の板にくぎを打ち付ける作業の標準書を現場へ示すとき、貴社では「過不足なく」とはどの水準で記述していますか?
1)作業の概要を記述
木の板にマーキングされた場所にくぎを打つ
2)作業の手順を記述
左手でくぎをつまむ、くぎの先端を木の板のマーキング部の当てる、右手でハンマーの柄を握る、ハンマーの打撃部をくぎの頭部に軽く当てて・・・・・
3)作業の要点手順を記述
くぎを左手の親指、中指、人さし指で軽くつまみ、特に親指と人さし指の腹部分に意識を集中させる、木の板のマーキング部のくぎ先端を当てて、打ち込み場所に浅い穴を空け、そこにくぎ先端を固定して左右にズレないように・・・・・・
どこまで記述するかは作業標準書の目的、使い方次第です。一律で決められません。現場毎に事情が異なります。
作業標準書の役割は、管理と改革/改善の手順を示すところにあります。どこまで、記述するかは、現場に事業によりますが、大事なことは経営者の意志や意図の反映です。
儲かる工場経営の手順でないと何のための手順なのかわからなくなります。現場のできるできないは無関係です。
お客様に選ばれるのに不可欠な仕事の流れを記述します。できないことはできるようにならないといけないということです。
作業標準書に「過不足なく」記述する判断の論点は「読み手」です。
読み手は概ね、3階層に分かれます。「一般従業員」「中堅・ベテラン」「新人」。それぞれで作業標準書を必要とする場面が違います。
「一般従業員」は守るルールを読み取ります。やってダメなことの確認です。「中堅・ベテラン」は今のやり方を踏まえて、「型」破りしてより良いやり方がないか考えるきっかけにします。「新人」は何も知りません。仕事の手順のイロハを読み取ります。
「一般従業員」はやってダメなことの確認
「中堅・ベテラン」は改善の検討
「新人」は仕事手順の習得
それぞれの読み手で必要とされることを踏まえて、先の事例1)~3)を使い分けるのです。作業を概要、手順、要点のどこまで記述するかは、作業標準書の目的、使い方次第です。一律で決められません。現場毎に事情が異なります。
作業標準書を現場で使う目的を決めたうえで、事例1)~3)使い分け、実際に作り、守らせる実務をやります。試行錯誤しながら、現場で使いやすいやり方を探るのです。
ここから経営者の手を離れます。現場キーパーソンに主導してもらうのです。与えられたルールは守られませんが、自ら作ったルールなら守られます。
経営者は指示導線のトップダウンで現場キーパーソンへ指示を出し、現場キーパーソンは作業標準書を守らせながら、指示の実現を実践します。
現場作業者の目線を上に向かせるのが指示導線です。従業員の役割はただ一つ。経営者、幹部、管理者、指示する人達を支援すること。これだけです。それ以外の役割はありません。
ですから、できないことがあれば、できるよう個々の従業員が頑張ります。我がチームに所属する以上、個々の従業員に求められることです。
従業員に役割を果たしてもらうために必要なのが、トップダウン(指示導線)と手順(標準書)となります。
貴社の作業標準書は、従業員が”役割”を果たす後押しをしているでしょうか?
先の企業の従業員は、概ね仕事のやり方、工程間連携は”経験的に“知っています。そして属人的とはいえ、仕事をやっているのです。やれているから、それなりの実績を出せています。
ただ、これから、事業のステージを高めたいのです。やり方を変えなければなりません。そこで、焦点をこれから入社してくる「まだ見ぬ新人」に当てることにしました。
・新人が読んで、我が社の仕事の流れや手順を理解できる作業標準書
これを論点にして整備します。ベテランの暗黙知を形式知に変換する作業です。基本は文字ですが、画像、動画も活用します。
ISOを取得、更新しているので、その体系を生かすことにしました。ご多分に漏れず取引先から求められ「否応なしに」継続しているのにとどまっています。
そこで、今、形式的になっている作業標準書の体系を強化することにしたのです。3年、5年と経過すれば、新人教育マニュアル体系にもなります。
新人が入ってきたとき「これを読んでおいてください。」で済むようになるのです。受け入れ側は楽になります。
作業標準書は読み手を想定して作成するものです。
「一般従業員」「中堅・ベテラン」「新人」。
貴社ではどこに重きを置いていますか?
作業標準書は仕事の手順を明記したものです。仕事は流れで表現されます。製販一体で、仕事が流れるようにするのです。
論点は指示導線での役割と手順なのですが、論点を「分担」と誤解している現場が、まれにあります。
半年程前にPJを開始したご支援先現場でのことです。
人時生産性向上の課題設定をしているとき、PJメンバー中堅従業員が次のような発言をしました。
「現場での従業員1人ひとりの仕事分担を明確にする必要があると思います。」
作業標準書に分担を明記する必要があるのでは?との提案です。なぜそれを課題にしなければならないのかを尋ねると、下記の言葉が返ってきました。
「現場業務のサポートをどこまでやらなければならないのか明確にした方がやりやすいからです。」
弊社ご支援先の現場で、まれにですがこの種の発言に出くわします。こうしたとき、2つを問いかけます。
・指示導線における従業員の役割は何ですか?
・“分担を明記した”作業標準書を現場で展開したら本当にやりやすくなりますか?
メンバーで議論した結果、「なるほどそうですね。」と先の発言をした中堅従業員は腹落ちをしたようです。
そもそも少数精鋭中小製造現場での「分担」って何なのか?作業標準書を深く理解してくれるメンバーが増えました。
次は貴社の番です!
成長する現場は、作業標準書で仕事の流れを明らかにしながら作業者各人が役割を果たす
衰退する現場は、作業標準書で作業者の仕事分担を明確に規定するので役割が果たされない