「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第364話 お客様が出てこない組織づくりをしていないか?

「ウチでは現場の土台作りからやらないとダメです。」

先日、個別相談をいただいた30人規模表面処理加工メーカー経営者の言葉です。

 

生産性を高めて処理量を増やしたいと考えています。コロナ禍で受注が低迷している中小製造企業が少なくない中、この企業の受注は堅調です。

月によっては能力以上の受注があります。対応できなければ受注をお断りするのです。商機を逸失しています。

 

先の経営者は、問い合わせの案件を断ることなく全て対応したいと考えているのです。経営者なら誰でもそう考えます。

生産性を2割アップさせる必要がります。仕事のやり方を変えなければなりません。ただ、簡単にはできなさそうです。

長年、やってきた仕事のやり方にこだわるベテラン。

チーム力よりも個力に依存している現場。

新たなことに挑戦し難い雰囲気。

先の経営者は、人時生産性向上活動に”先だって“、組織の風土や文化を変える取り組みをしなければならないと考えています。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上活動は改革です。改善ではありません。意識改革を含みます。

・改善は従来業務の延長線上でやられる。

・改革は全てを白紙に戻した最良のやり方でやられる。

後者では意識や思考、考え方のコペルニクス的転回が求められます。我が社の思考回路を変えるのです。トップダウンが欠かせません。

経営者は、従業員一人ひとりの脳みそに手をズズッと入れてグイグイかき回し、「地球が太陽の周りを回っていると考えるのだぁ~。」と新たな意識や思考、考え方を浸透させます。

簡単なことではないですが、それをやらないと我が社は生き残れないのです。

 

改善とは違って、改革には壁が立ちはだかります。

変えることへの現場からの抵抗という壁です。

変化は不確実性を伴います。慣れた従来のやり方を捨てて、新しい方法や状況に適応しなければなりません。

人間は元来、怠け者です。

安定性や予測可能性のある状態を好みます。居心地がイイです。キャリアが長いベテランほどそう感じます。従業員は既存のプロセスやルーティンに頼る傾向があるのです。

・現場の雰囲気が・・・

・ウチは組織の土台がまだ・・・

・ベテランが自分のやり方に固執して・・・

分かっていてもできない原因は「我が社の組織風土や組織文化にある」と考える経営者がいます。相談をいただいた先の経営者もそのひとりです。

 

 

 

 

 

改革に必要なのは、「立ちはだかる壁を取り払うために我が社の組織風土や組織文化を変えること」ではありません。

すったもんだ回避のための組織土台作りは上手くいかないのです。

・儲けを”自ら“積み上げるしくみづくり

・経営者の強力なトップダウン

この2つを通じて、ベクトルを揃えます。外を向いた取り組みからスタートです。「立ちはだかる壁を取り払うために」と考えたとたんに視線は内向きになります。

「立ちはだかる壁を取り払うために」との考え方には「お客様」が存在していません。

 

経営者は下記を現場へ訴えます。

「お客様に選ばれるよう我が社を変えなければならない。社長は市場に向き合う時間を増やす。そのために工場を現場へ任せなければならない。全社一体、現場一丸、製販一体。

社長からの指示は全てお客様から要望されたことだ。トップダウンの指示導線が機能するチームをつくって欲しい。人時を高めて、利益アップと給料アップを実現させたいのだ。

受注を断ることなく、全て受けたい。それがお客様の声だ。したがって、これまでの仕事のやり方を見直して処理能力を2割アップさせて欲しい。」

できないことをできるようにしてもらうのです。協力を仰ぎ、現場の改革を促します。

 

現場は従来のやり方を変えなければなりません。現場はすったもんだします。できないことをできるようにしなければならないのです。

現場はストレスを感じます。右往左往しながら、ベクトルを揃えようとします。経営者の指示であり、トップダウンだからです。

そうやってできあがるのが、風土であり文化です。途中はガチャガチャ混乱します。従来のやり方を変えるので当然です。論点はお客様に選ばれるように現場を変えることにあります。

すったもんだ回避のために組織の土台作りをやるのではありません。事業の目的はお客様を創造し、お客様に選ばれ、そのお客様から儲けをいただくことにあります。全てのスタートは「お客様」です。

 

 

 

 

 

すったもんだ回避のために組織の土台作りをやるという姿勢に「お客様」は出てきません。観点が全て「内」を向いています。

管理にのみ焦点があたり、「管理のための管理」を生み出す懸念があるのです。

 

平等にとか、公平にとか、という誤った論点が取り上げられ、360度評価のための360度評価みたいな、わけがわからないことにもなります。

組織風土や文化はどうでもいいのです(と言うのは極論ですが)。経営者がやらねばならないことは儲けを”自ら“積み上げる製販一体チームをつくること。

 

お客様に選ばれなければどうしようもありません。お客様に選ばれるために、組織をどう変えるか?が正しい姿勢です。

 

 

 

 

 

改革=お客様に選ばれる現場に変えること。

判断基準は「お客様に選ばれる」です。

従来のコア技術では、対応できないことばかりのはず。現場は混乱します。抵抗するベテランもいるでしょう。やろうとしてもできなくて困る若手も出てきます。

改革にはすったもんだがつきものです。だからトップダウンです。小さく始めて、ベクトルを徐々に揃え、改革のジャングルを切り開きます。

 

そして成果を出すことです。成果が出れば、すったもんだや混乱は関係なくなります。トップダウンで現場に任せながら成果を出すうちに醸成されるのが、組織風土や文化です。

すったもんだや混乱を回避する組織風土や文化を先につくって、それから改革に取り掛かろうという組織づくりでは「お客様」が出てきません。内向きのチームになります。

 

 

 

 

 

人時生産性を高めるチーム構造は「お客様に選ばれる」で考えます。

 

お客様の声を的確に受ける窓口役が必要です。仕様と価格を検討する見積もり担当者、受注が決定して製造以降を担う担当者。

お客様と製造部門をむすびつける営業部門、工務部門、設計部門、開発部門のチーム構成を考えることになります。

お客様に選ばれるように仕事のやり方を変えるのです。それを経営者が伝えます。

全ては儲けを自ら積み上げるためです。そのために我が社の仕事のやり方をどのように変えるか?という思考です。

 

全てはお客様から儲けをいただくため。ここが意識改革のキモです。

「できるとかできない」を問うているのではない。できないことはできるようにして欲しい。どうしてもできないのなら、できる範囲で最大限貢献して欲しい。

経営者はこうしたことを従業員へ語り、協力をお願いするしかありません。

経営者が必死の姿勢を示せば、右腕役や志がある従業員は動いてくれます。改革は小さくてもいいので始めることです。徐々にベクトルが揃います。

 

こうしたなかでも、まだ抵抗する従業員がいるかもしれません。

「その従業員への処遇」と「改革」は別の問題です。抵抗する従業員への処遇と改革の取り組みをごちゃごちゃにしている経営者がいます。改革をやらないと生き残れないです。

「抵抗する従業員がいるのでは改革ができない」では誰が経営者なのかわかりません。

 

そもそも組織風土や組織文化、現場の雰囲気は、結果として出来上がるものです。組織の風土や文化は、人時生産性向上活動に”先だって“変えるものではなりません。

組織風土や組織文化、現場の雰囲気は、本業の実務を通じてしか、その本質を変えられないのです。少なくとも技術で戦っている製造業ではそうです。

 

 

 

 

 

・儲けを”自ら“積み上げるしくみづくり

・経営者の強力なトップダウン

この2つを通じて改革を推し進め、結果として現場の思考回路を変えることになります。

全てはお客様に選ばれるためです。その結果、それにふさわしい風土や文化、雰囲気が醸成されるのです。「お客様」が出てこない組織風土や組織文化づくりは現場に刺さりません。

 

先の企業は、右腕役に人時生産性向上のお作法を理解させるところからです。改革の論点を明らかにして、改革に着手します。まずは小さく始めて、ベクトルを揃えるのです。

すったもんだしながらでもやります。先のご相談いただいた経営者が正しい意思決定をして成果を上げられることを祈るばかりです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、お客様に選ばれるようすったもんだしながらやり方を変えて人時を高める

衰退する現場は、試行錯誤や混乱をさけて組織のための組織をつくるので人時は高まらない