「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第366話 夏の暑さ対策を夏の暑い中でやっていないか?

「次期社長候補を見直すべきか迷っています。」

先日、個別相談をいただいた30人規模電子機器メーカー経営者の言葉です。

 

同族企業です。「次期社長候補」を一族から指名し、今、仕事ぶりを見守っています。

「熱心にやっているけど、期待していた次期社長候補の仕事ぶりにはなっていない。」

そう感じている経営者です。

冒頭の言葉です。

 

これまで支えてきてくれた右腕役に、次を任せることも考えています。

一族以外の従業員ですが、人間性や能力は十分です。

経営者は、所有と経営の両方で会社を引っ張っていますが、これを機会に、

・経営から身を引く

・M&Aなどで所有も手放す

こうしたことも、選択肢に加えなければならなくなったようです。

 

そんな事情もあってか、先の経営者は少々、後悔しています。

「指名した次期社長候補をもっと計画的に指導すれば良かった。」

 

この先、数年でバトンタッチをしようと考えていたところですが、目論見通りに進んでいません。もっとフォローをするべきでした。

過ぎ去った時間は戻りませんから、経営者は今後の最善策を考えるだけです。

 

 

 

 

 

今年(23年)の夏は、梅雨明け前の7月時点で、35度を超える猛暑日が各地で続いています。昨年より気温が高そうです。エアコンを使用する頻度からそう体感できます。

現場での暑さ対策は必須です。効果的な暑さ対策は冬のうちにやられます。暑い季節がやってきてからの対策はコスパが低くなる懸念があるからです。

 

暑い中での対策は、とかくすったもんだします。

「暑いので、なんでもいいので早く対策してください!」と現場から催促がきます。加えて、暑い時期は、スポットクーラーやエアコンの需要急上昇で本体+設置費用も高くなるのです。そもそも、設置業者さんの人手不足で設定日程も後ろ倒しになります。

 

現場からの催促があり、費用も高く、設置日の見通しがつかないなかで、じっくり選んで、費用対効果が・・・など悠長なことをやっていられません。

「なんでもいいか、対策をやらないと、夏が終わってしまうぞ~。」となるのは火を見るより明らか。

コスパの高い熱中症対策をやりたかったのに、いつのまにか「夏が終わる前に対策を終わらせる」が目的となり、焦点がずれます。すったもんだが起こっているなかでの対策は上手くいきません。

暑熱対策は冬、春のうちに終わらせます。外の影響を受けず、対策のコスパを高くできるのです。寒さ対策もしかりです。

・暑さ対策は冬にやる。

・寒さ対策は夏にやる。

 

事が起きてしまってからの対応は辛いので、事が起きる前に手を打ってしまいます。品質造り込み体制に通じる考え方です。品質不具合品を流出するのを防ぐに加えて、品質不具合品を造らないことに力を入れます。

予防コストで失敗コストを最小化するのです。

儲かる工場経営は先手必勝でトラブルを回避します。

 

 

 

 

 

経営者は将来を見通しています。将来のために、まさに今、何をやらなければならないのか、逆算で考えられるのは経営者だけです。

従業員は今の仕事をしています。足元の収益を確保できなければ、将来もへったくれもありません。今の仕事は大事です。

しかし、経営者も従業員と一緒になって今の仕事をしていては、モグラ叩き型経営から脱却できません。いつまでたっても、計画表に沿った経営ができないのです。ノウハウもチームに蓄積されません。人に蓄積されるだけです。

 

モグラ叩きの動作きっかけは「穴から出てくるモグラ」です。現場キーパーソンの思考回路は事が起きてから動くそれになっています。

通常は目前の納期遵守業務です。問題がなければ、それだけやっています。

そして問題が発生し、モグラが出てきたら、皆で寄ってたかってモグラを叩くのです。

そういう現場では、モグラを見事に叩ける人がいわゆる「仕事ができる人」と呼ばれます。目前で起きたことを処理する能力が高い人です。

 

しかし、持続的成長には将来を見通した改革も欠かせません。外の変化へ対応するためです。見えない将来を言語化、数値化して、計画を立てて人を巻き込み、やり方を変えます。

改革は現在の延長線上ではできません。

したがって、目論んだ改革に着手する時点では、人も風土も思考回路も変わっていなければならないのです。

そこに至るまでには時間がかかります。時間がかかるので、将来を見通して、今やらなければならないことを決めて、今からやるのです。

ロードマップには、将来の事では無く、将来のために今、やらなければならない事が書かれています。マイルストンでチェックです。

 

 

 

 

 

先の経営者へ「次の次」の社長について考えていますか?」と尋ねると、ちょっと考えてから「そうなって欲しい姿はあります。」との答えでした。

ご自身のお孫さん世代で継いで欲しい人がいるとのこと。

「そうであるなら、それを目的にするのはどうですか?」とお伝えしました。

 

同族経営は経営手法のひとつです。ゼロイチで事業を立ち上げた創業者のファミリーから次の経営者、「次の次」の経営者へ経営権が引き継がれていきます。一族での引継ぎだからこそできることがあるのです。DANです。

我が社に大切なことは全て先代から直接、間接的に学べます。日常的に先代の言動に触れることもできるのです。そうやって我が社にとって大切なことが引き継がれます。

 

所有と経営による同族経営、ファミリー経営のメリットはいろいろと挙げられています。そうしたメリットを最大限生かすために、先代の事業を同族経営で継続させたいと考えること自体、立派な経営方針です。

 

企業の存在理由は顧客の創造、お客様に選ばれること、お客様の要望に応えることにあります。それしかありません。経営者が、それを実現させる手段に同族経営しかないと考えるなら、それは立派な方針です。

 

改革の途中、すったもんだしながらも、腰を据えたトップに導かれた現場の雰囲気は、樽に入れられたウィスキーのごとく時間をかけながら熟成していきます。

そして、模倣困難な製販一体体制ができ上るのです。

社長業に専念したい経営者の想いや意思や意図が工場の作業者、隅々にまで浸透しています。理想の指示導線、上意下達です。

しかし、この課題達成までには時間を要します。百年の計が必要です。その時に至ってからでは遅いです。夏の暑さ対策は冬からやります。

 

 

 

 

 

「次の次」のために今、何をしなければならないかを明記したのがロードマップです。その時になって問題を認識してもどうしようもありません。夏の暑さ対策は冬から始めます。

先の経営者は「次の次」を考えました。やることが見えてきたようです。次期社長候補を一族以外に求めることもあり得ます。「次の次」を実現させる手段のひとつです。

 

先代から引き継がれた妥協しないモノづくりのDNAを通じてお客様の役に立ちたいと考えている経営者にとってのブレない工場経営=同族経営という構想があります。

こうした信念がご自身の理念を実現させるのです。

次期社長が一族でなくても、それは手段の話であり、長期の時間軸で信念を貫けば、理念を実現させられます。

「一族から指名した次期社長候補をもっと計画的に指導すれば良かった。」

との後悔は反省ごととして、次へ生かせばイイだけです。事がココに至ってしまっては、一族から指名した次期社長候補を無理やりにそうしても歪を生み出すだけです。夏の暑さ対策をバタバタ暑いさなかにやっても上手くいかないのは火をみるより明らか。

そうする長期計画がなかったので「次」は目論見通りいきませんでした。ただ、「次の次」はこれからのことです。揺るぎない信念があれば解決策は思い浮かぶものです。

 

将来を見据えた長期の時間軸を設定すれば、逆算で、今、何をしなければならないかが見えてきます。同族経営のロードマップです。

その構想をロードマップに示して次期社長へ説明します。「次の次」のために協力をお願いするのです。

口頭だけではなく、書かれたもので示された意思や意図は他人に刺さります。時間軸で書かれたものがあれば、振り返り、遅れも認識できるのです。

 

先の経営者は、さっそく、構想の言語化、数値化に取り掛からなければならないと考えました。夏の暑さ対策は冬から時間をかけてやります。

決断したら行動が速い経営者です。タイムイズマネー。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、夏の猛暑対策を冬からじっくりやるので効果的な高コスパ対策ができる

衰退する現場は、夏の猛暑対策を暑くなった夏にどたばたやるので対策のコスパが低い