「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第368話 できないことを力づくでもやろうとする姿勢があるか?

「残業させてもやらせなければなりません。」

今年度、人時生産性向上30%を目論んでいる30人規模中小製造企業経営者の言葉です。

 

生産性向上の要点は売上高増です。現在の売上高は既に過去最高水準になっています。人時を高めるために上乗せが必要です。売上高過去実績の天井を破る販売活動が必要です。

加えて、場内で処理する物量の上限を突破することも課題です。受注したけどできませんでは何をやっているのかわかりません。こなしたことのない物量をさばくことに挑戦です。

 

処理が困難と感じたら脊髄反射的に出てくるいつもの言葉は封印します。トップダウンです。増える現場の負荷を乗り越えることに意義があります。

そのことを理解している経営者です。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上活動は改革です。改善ではありません。中小製造経営者は人時生産性を4,000~5,000円から6,000円、7,000円と高め、利益アップ、給料アップを実現させたいと考えています。

豊かな成長は従来業務の延長線上にはありません。削減の時代から積み上げの時代へ。GDPが横ばいになっている昨今の国内で生き残りをかけた戦いに勝つ方法は積極的な分子積み上げ成長戦略だけです。現状維持は相対的な後退を意味します。

 

分母一定で分子を積み上げる。

さらには投資で分母を強化して、それ以上に分子を積み上げる。

 

売上高移動累計の右肩上がりを持続している弊社ご支援先は積み上げの戦略になっています。コスト削減だけで成長戦略を実現するのは苦しいようです。

中小製造経営では少々の無駄やロスは気にしなくてもいいのです。コスト削減の暇があったら少数精鋭の貴重な人材は製販一体による積み上げに投じます。

コスト削減を否定しているのではありません。明らかな無駄は除去します。ただし、無駄取りだけで、人時を4,000~5,000円から6,000円、7,000円へ高める「改革」は難しいのです。

中小の戦略は大手とは異なります。

儲かる事業モデルから考える必要があるのです。従来と同じ仕事のやり方では、現場は従来と同じだけの仕事量を淡々とこなすだけです。

そもそも、儲からない市場に身を置いているなら、儲かるわけがありません。儲からない下請けモデルなら、儲かる下請けモデルに変える必要があります。

儲かる事業モデルを「外」で探り、「内」の業務プロセスを見直す改革です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の取り組みは改革なので、現場にすったもんだや混乱が起きます。従来と違うことをヤロウとするわけですから当然です。できないことをでるようにします。試行錯誤は回避できません。

・従来対比1.5倍の仕事量を従来の人員数と設備でこなす。

・新技術を取り入れた新ラインを立ち上げる。

こうしたトライアルの初期では、事前検討をどれほど重ねても予想外の問題が発生します。問題というは発生するときは発生するもので不可避です。ドタバタします。

残業や休出もやらなければならなくなるでしょう。組織もぎくしゃくします。上手くいかなければ、ストレスが発生するものです。

改革の初期では、できないことを力づくでもやろうとする姿勢が必要となります。そこで問われるのが火事場の馬鹿力、困難に直面した時のチーム力です。

力づくでも構いません。チームで困難を乗り越える力です。その実績自体に意味があります。なりふり構わず、仲間と一緒に挑戦する組織の思考回路形成のためです。

 

 

 

 

 

人時生産性を高める活動に即効性はありません。成果が出るのに時間を要します。目前の納期遵守業務に追われている現場にとってはできるならやりたくない仕事です。「目前の納期遵守業務のじゃまをする面倒くさい仕事である」と現場が考えるのも仕方がありません。

人時生産性向上の仕事は、従来の仕事に上乗せされます。最終的には全体最適化の視点で業務をスリムにできるので、こなす仕事量が増えても負担は軽減できます。

ただし、トライアルに着手した初期段階はそういきません。PJメンバーだけでは手に余ります。面倒くさい仕事であっても現場でやらせるにはトップダウンの指示導線が不可欠です。

 

この仕事はお客様から要望されたものだ。従来のやり方では所定の納期でこなせない。全員で知恵を絞って臨みたい。できないことをできるようにする。社長として無理を承知でお願いをしていることである。製販一体の協力をお願いしたい。

 

改革推進の要点は2つです。

・お客様の要望に応えるためにやる。

・難しいことであると分かっているので無理を承知でお願いしている。

 

人時を高めるためであっても、要点は「お客様」です。そして、できないことをできるようになって欲しいと伝えます。

私たちは技術の世界で戦っているのです。製造業とは進化する技術を駆使して、できないことをできるようになってお客様に価値を提供する業界と言えます。

できないことをできるようにするという、至極当然のことに思いが至らない従業員に出会うことがあります。できることしかやろうとしないのです。

経営者はそうした従業員へもメッセージを送らなければなりません。そうして一人残すことなく、全員を改革に導くのです。

 

 

 

 

 

「新しいことをやろうとしても、続かなくて、いつの間にかやらなくなってしまいます。」

先週、個別相談をいただいた食品加工メーカー経営者の言葉です。

生産性を高めるための業務を指示しても長続きしません。このままでは行き詰るかもしれないとの懸念がいつもまとわりついています。そこで、経営者は新たな指示を出すのです。

しかし、いつの間にかやらなくなってしまいます。

「指示を出してから、どうしていますか?」との問いに、「結局、私自身もなにかと忙しく、言いっぱなしです。」との言葉が返ってきました。

フォローと評価が抜ければ、納期遵守に貢献しない面倒くさい仕事は後回しにされ、そのうち雲散霧消になります。

フォローと評価がない「重要度が高くても緊急度が低い業務」の末路です。

 

「重要度が高くても緊急度が低い業務」を定着させるために、経営者は現場へのフォローと評価を地道にやります。そして自らも必死に動いて現場を促すのです。

そうした経営者の必死の姿を見て志ある従業員は自ら学び、自ら行動し、自ら実践するようになります。

改革を推進してくれる使命感のある従業員は環境を整えれば、勝手に育つものです。本物の人材は実務を通じてしか得られません。

全て経営者の姿勢次第です。「フォローと評価」は改革に欠かせない経営者の仕事です。

 

・お客様の要望に応えるためにやる。

・難しいことであると分かっているので無理を承知でお願いしている。

・フォローと評価

現場は経営者に評価されてなんぼのものです。こうした経験を5年、10年と積み上げると、できないことはチームで挑戦すると普通に考える思考回路が定着します。

 

 

 

 

 

売上高の天井を破ろうとしている先の経営者は現場に働きかけ、行動を促そうとしています。小さなPDCAで構いません。

それと並行して外での取り組みも強化します。特定業界を標的にした商流導線を設定するのが面白そうです。展示会への準備に着手します。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、すったもんだしながら改革に着手して火事場の馬鹿力を鍛え人時を高める

衰退する現場は、すったもんだすることを避けて納期遵守しかやらないので改革が進まない