「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第373話 軸はブレていないか?チェックしているか?

「先生、品質管理に対する考え方が間違っていました。」

先日、個別相談いただいた50人規模鉄鋼メーカー経営者の言葉です。

 

製造業はコア技術で稼ぎます。そして、そのコア技術は何らかの要素技術です。製造業で稼ぐ要点のひとつは、その特性把握にあります。

要素技術特性を活かした事業構造にしなければ儲かりません。

 

・熱間加工は高温で塑性加工するので室温での最終寸法を保証することが要点である。

・化学反応で成果物を生み出すプラントでは温度管理が要点である。

・切削加工で1,000分の1台精度を出すにはチップ交換頻度が要点である。

等々経験や知識、ノウハウに基づいた特性把握が必要です。

 

先の企業の要素技術にも特性があります。

製造条件変動要因を探ることが要点です。

その製法は外部要因の影響を受けやすく、品質不具合品を多数、造ってしまう懸念を常に抱えています。現場は不良品や手直し品との戦いです。

したがって、設計・開発・試作段階がカギとなります。製造前に勝負か決まる製法なのです。造る前の品質管理に少数精鋭中小現場の工数を投入しなければなりません。

しかし、その現場は場内で発生した不具合品を追いかけ、市場へ流出した品質不具合品への対応に奔走していました。

いわゆる「モグラ叩き」状況です。

事態を乗り切れさえすれば、それでイイという誤った考えも生まれます。やっつけ仕事になるのです。ノウハウが蓄積されません。

技術特性を踏まえると、現場の視点は「不良品を造ってしまってからどうするか」ではなく、「不良品を造らないようにするにはどうするか」でなければなりません。

そのことを先の経営者にお伝えしました。

品質造り込み体制が必要です。

そのための要点をいつくか説明したところ冒頭の言葉が返ってきました。

 

 

 

 

 

我が社の間違いや痛いところを指摘されて、気持ちがいいと感じる経営者はいません。分かっていても、正論を指摘されると、カチンとくるものです。

先の経営者は聞く耳を持った誠実な方です。外部の意見を素直に取り入れる度量の広さを持った経営者であることは、相談を始めて10分もすれば分かります。

だからこそ、先の経営者は外部の力を借りでも、我が社をよくしたいとの思いで来られたのです。我が社を成長路線へのせるぞとの強い覚悟がなければできません。

経営者自身のブレた軸の修正も必要です。場合によっては、考え方や思考回路のコペルニクス的転回も必要です。

 

自分自身のことを一番知っているようで、知らないのが自分です。知らないうちに立ち位置や言動が変わってしまうことがあります。

考え方や思考回路は外部環境に影響されやすいからです。

我が社を豊かに成長発展させる考え方や思考回路を持っているつもりでも、あらぬ方向へ引っ張られます。先の経営者も同じです。

 

先の経営者も「品質不具合品を造らないようにするにはどうするか」に基づいた品質管理が望ましいと考えていました。背骨として持つべき「軸」のことは知っていたのです。

持つべき「軸」を知っていても、なかなか、そうできない場合があります。現場のすったもんだや目前の出来事に引っ張られ、経営者もモグラ叩きに陥っていました。

ブレない軸へ戻るよう、指摘し、後押ししてくれる従業員はいません。分かっているけれども、そこから抜けられないのです。問題の原因がここにありました。

 

「軸がブレても、誰もそのことを教えてくれませんからね。」とは先の経営者の言葉。経営者は孤独で辛い立場にいます

 

 

 

 

 

考え方や思考回路は外部環境に影響されやすく、知らないうちに立ち位置や言動が変わってしまうことがあります。そのことを知っている経営者は、自分が抱いている考え方や思考回路に監視の目を光らせ、軸がブレていないか否かをチェックするのです。

定期的に自分を振り返ります。

 

指示導線のトップダウン軸がずれていると成功はおぼつかないのは明らかです。成功とは心が揃って得られるものです。

経営者は自身の軸に監視の目を光らせます。弊社がご支援先の経営者を後押ししていることのひとつはこの「監視の目」です。

自身では気付かないことでも、外部からは気付きます。外部の目は多数の事例を知っています。差異に気付きやすいのです。

外部の力を活用している経営者はそのことを知っています。客観性です。

 

 

 

 

 

経営者とは自身の意志と意図を持って事業を創り、実践する人のことを言います。全てが主体的です。

工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。想いがなければ経営できません。したがって、経営者は主体的、主観的でいいのです。

ただし、これは成果が得られているときの姿勢です。想いを遂げられていなければ何かが間違っています。

経営者が自分でそれを見つけられれば最良ですが、事情は複雑です。工場が上手く回っていないと、経営者も現場のすったもんだに巻き込まれます。社長業どころではありません。

こうした事態では客観性が経営者の後押しをしてくれます。

 

客観性とは比べることです。

ご支援先では、経営者や現場キーパーソンへ、規模が異なる企業、業種の異なる企業の事例をしばしばお伝えしています。

自動車部品工場時代のことや転職先中小現場管理者時代の出来事もしばしば語ります。工場の規模感で言うと、前者は400人規模、後者は40人規模です。

なぜ、弊社はこうした多様な事例をご支援先の経営者へ話しているのか?

外部の多様な事例と「我が社」を比べてもらいたいからです。

差異にヒントがあります。

 

セミナーなどでもこうした話をします。以前のセミナーでのことです。セミナー終了後に聴講下さった経営者の方とのお話の中で、こんな言葉をいただきました。

「いろいろな話を聞けて参考になりました。ただ、ウチと同じ規模の会社の話も聞きたかったです。直接に当てはまりますから。」

30人規模の経営者にとって、大手は当然のこと、100人規模でも「ウチと違って規模が大きい」企業です。事業構造が異なるので、当然、仕事のやり方も違っています。

事業を成長路線へ乗せるヒントを掴みとってもらいたくて、あえて事業構造が違う事例をお伝えしたのですが、そのことに気付いてもらえなかったようです。

 

 

 

 

 

経営者は主体的、主観的でなければいけません。競合と同じことをやっていても儲からないわけですから、当然です。

ただし、言動は主体的、主観的である一方で、自分が抱いている考え方や思考回路に監視の目を光らせ、定期的に自身の軸がブレていないかをチェックすることも忘れてはなりません。

内省。

経営者のにはこの姿勢も持っていただきたいのです。あらぬ方向へ引っ張られていないかチェックします。

 

外部の力も借りれば、客観性を手にできます。我が社とは規模が異なり、業種も違う企業の事例に、軸をブレさせないヒントがあるものです。

自社と同じ規模、同じ業種の話を聞いても参考になることはないでしょう。その規模、その業種でそのやり方だから、その低人時生産性に甘んじるわけです。

「同類相憐れむ」では悲しくなります。良い事例との差異を認識するのは辛いことかもしれませんが、経営者であるならそれを機会とするのです。

地元経営者の集まりで研鑽を積んでいる経営者がいらっしゃいます。自社とは異なる規模や業種の経営者の集まりです。差異を認識する絶好の機会ではないでしょうか?

客観性は経営者の後押しをしてくれます。

 

 

 

 

 

客観性から有益な情報を引き出せるか否かは経営者の感性によります。高みを目指す意識を持っっている経営者の気付きへの感度は、それはもう、高いです。経験的にそう感じます。

ブレない軸を持って高みを目指して欲しいのです。

ご自身が抱いている考え方や思考回路に監視の目を光らせ、自身の軸がブレていないかをチェックすることを忘れないでください。客観性を活かす感度もスキルのひとつと考えています。意識を高め、トレーニングすれば高まります。

経営者の仕事場は「外」です。社長業に専念するために工場の仕事は現場に任せます。

任せられた右腕役や現場キーパーソンのチームはトレーニングしながら、経営者の期待に応えられるよう、頑張るのです。

 

経営者の仕事はあくまでお客様、競合、業界、市場に向き合うことにあります。

経営者は「外」、現場は「内」です。

ただし、内省の「内」は経営者自身の仕事です。客観的な目で自身の軸がブレていないかをチェックします。

先の経営者は、外部の力を借りて、ブレない軸へ戻ることにしました。今回を機会に客観的な目で自身の軸がブレていないかをチェックできようになればイイのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、自社とは異なる規模、業種の企業事例を耳にして考え方を変え成長する。

衰退する現場は、自社と同じ規模、業種の企業事例を耳にしウチと同じだと知り安心する。