「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第375話 現場は求められている仕事ぶりを知っているか?

「機械よりも人に稼いでもらわないとだめですね。」

先日、個別相談をいただいた40人規模射出成形メーカー経営者の言葉です。

 

売上高アップを狙っている経営者です。これまでは成り行き経営でした。主要なお客様からの受注に対応するだけで、事業を継続できていたのです。

先代から事業を引き継いで10年ほど経過しました。売上は横ばいです。一定水準の利益が出ているのでそれでよしと考えていました。

 

しかし、最近、今のままでいいだろうか?とのちょっとした不安を感じています。

 

主要なお客様がこれからも従来の取引を継続してくれる確証はありません。1本足で立っているのは不安です。

外での取り組みに力を入れ、複数の足で立つ構造に変えていきたいと考えています。そうして3、4億水準から5億を超える安定事業に成長させたいと目論んでいる経営者です。

力づくで回す経営から、仕組みによる経営/積み上げの経営へ。

先の経営者は、弊社コラムをお読みになって、改革の必要性を認識されたようです。

 

経営者による外での活動を強化するに当たって、忘れてならないのは内での活動の強化です。経営者が不在でも現場が回る仕組みがあって初めて、経営者は社長業に専念できます。

工場を現場へ任せられます。工場長が現場を仕切れる仕組みづくりです。

仕組みづくりの方針は人時生産性向上です。

これまで成り行きのやり方でした。納期遵守さえしていればOK。現場のパフォーマンスを気にしたことはありません。今のやり方がいいのか?悪いのか?分りません。

 

少数精鋭の中小製造現場が豊かに成長したかったら人時生産性です。利益アップと給料アップの判断指標です。経営者は、そうした指標を使って、現場のステージを高めたいと考えています。

 

工場長へ指示する人時生産性向上の論点を議論しているときのことです。

先の経営者は設備と人の動きの要点に気付きました。少数精鋭中小現場で儲けるための要点でもあります。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

豊かな成長の証は人時生産性にあらわれます。

製造業の収益構造の要点は固定費と付加価値額、工数の3つです。少数精鋭の中小製造企業では制約ある経営資源をどのように分配するかが問われます。

固定費の効率を高め、製販一体で分子の積み上げに頑張るのです。

利益アップと給料アップ。

全社のベクトルを揃えなければ達成できません。そこで、経営者は方針をトップダウンで示すのです。人時生産性向上の論点を明らかにします。

 

分母一定で分子を積み上げる

分母を増やし、なお一層の分子を積み上げる

詰めて、空けて、取り込む

等々

指示導線とはトップダウンがあって始めて機能するものです。

生産性向上!と現場へ訴えかけても、これだけでは方針になっていません。

スローガンに留まります。

業務のイメージが浮かばないと、生産性向上!はかけ声で終わります。現場での戦術を立てやすくするのは経営者の仕事です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の論点は経営者独自のものです。例えば、

・リードタイムを短縮させながら人時生産性向上させるのか?

・リードタイムを維持しながら人事生産性向上させるのか?

経営者自身のこうした自問自答から始まります。戦術を立てやすいように方針を示すのです。論点のひとつに稼動率があります。

設備の持ち時間に対する稼動時間(マシンアワー)の割合です。

 

稼動率は高いことに越したことはありません。市場の需要がたっぷりある場合、造れば売れます。稼動率に比例して出来高が伸びるなら、高稼働率で機会損失を回避できるのです。

一人一台持ちの人員配置、レイアウトがあります。これは、機械の稼働を最大限にしたい経営者の願望を形にしたものです。

作業者はワークの脱着、ロード/アンロードに加えて、設備の監視をやっています。自動サイクルボタンを押して、その後は監視です。

腕を組んで自動運転している設備を「見守る」ことになります。市場の需要がたっぷりあって、造れば売れるなら、高稼働率が人時生産性を高める論点になり得ます。

 

ただしこれは、製品別レイアウトで規格品をロット生産、連続生産する工場に限った話です。生産効率を追いかける生産形態での話です。

時代は変わりました。かなり前から、大手も含め、製造現場に求められるのは小ロット生産に変わっています。

柔軟性の高い生産活動に対応できなければお客様に選ばれなくなったのです。

多品種で小ロットの生産に対応するために、多くの中小現場では、機能別レイアウトで規格品と特注品を混流生産することになります。

 

 

 

 

 

機能別レイアウトで規格品と特注品を混流生産する場合、高稼動率の優先度は必ずしも高くはありません。もっと重視する論点があるのです。

少品種大ロット現場なら、「稼動率」命!でも、概ね間違った判断になりません。しかし、多品種小ロット現場は事情が異なります。

・段取りをクルクル回して小ロットに対応する。

ここではシングル段取りやワンタッチ段取りが課題となります。

・多台持ちや多工程持ちで投入工数の効率を高めることも考える。

 

多品種では多様性が高まります。ただ、現場にとっての多様性とは、手間暇がかかって面倒くさいことに他なりません。柔軟性が問われます。

細かく繋ぐ、てきぱきと切り替える、「切れのよさ」が必要です。多台持ちや多工程持ちは「切れのよさ」を発揮する現場のスキルです。

 

 

 

経営者の願望実現に貢献してくれるベテラン像も大きく変わりました。

ひとつの作業を黙々とこなし、その技能にかけてはピカ一というのが従来のベテラン像でした。物量があれば、そうなります。

しかし、昨今の経営者は多様な案件をこなせるようになりたいと考えているのです。

そうであるなら、ベテランには、平均水準でイイので、我が社の全ての設備をクルクルと使い回せるようになって欲しくなります。

 

切削加工なら、NC旋盤もMCも使いこなし、汎用旋盤もフライスも操って、研削盤や溝加工機も回せる人材です。

こうした作業者はフットワークが軽く、現場のあちらこちらを飛び回ることになります。そうやって、経営者が考える多様な案件をさばいていくのです。

 

そうした従業員は、細かく繋ぐ、てきぱきと切り替える、「切れのよさ」を発揮するので、一日中、忙しいです。手を休める暇がありません。

忙しいですが、持ち時間8時間を終えた時点での充実感もあるはずです。

 

 

 

 

 

多品種小ロット生産では、細かく繋ぐ、てきぱきと切り替えることを優先させます。段取り回数が多くなるです。

稼働率は高まらないかもしれません。上手く繋げられなかった、上手く切り替えられなかった、ということが起きると稼働率は悪化します。

ただし、その分、付加価値額を積み上げる貢献度合いが高まるのです。お客様の「多品種、小ロット」の要望に応えようと製販一体で頑張っているからです。

 

細かく繋ぎ、てきぱきと切り替える少数精鋭の中小製造従業員は、従来と違う環境に身を置くことになります。テンポのイイ忙しさで「切れのよさ」を発揮することになるのです。

腕を組んで自動運転している設備を「見守る」仕事ぶりでは追いつきません。従業員の”稼働率“は高まります。

 

 

 

 

 

儲かる製造現場での要点のひとつは、従業員の仕事ぶりです。経営者は従業員1人当たり8時間分の固定費を毎日、投資しています。その見返りが付加価値額の積み上げです。

多品種小ロット生産では設備の稼働率よりも従業員の”稼働率“を気にすることになります。細かく繋ぐ、てきぱきと切り替える、「切れのよさ」がないと、お客様に選ばれるための多品種小ロットを実現できないからです。

そして、柔軟性の源泉は従業員、一人ひとりの「切れのよさ」にあります。

 

したがって、経営者が多品種小ロット生産を標榜しているのに、自動運転で稼働している設備の前で腕を組んでいる従業員がいたら、どこかに問題があるのです。

設備の稼働率を気にするあまり、従業員の”稼働率“がないがしろになっています。

さらには、従業員にとっても、腕組んで見守る作業はストレスだったりします。

それよりも、スキルを高めて、多台持ち、多工程持ちができるようになり、テンポのイイ忙しさに身を置いた方がやりがいや達成感を感じたりできるものです。

 

 

 

 

 

そもそも、経営者は、コストの観点でも、従業員にはテンポのイイ忙しさに身を置いてもらいたいと考えるはずです。

設備のコストは、償却により、年々、減っていきますが、従業員のコストは、設備とは違って、減りません。概ね、年々、増えます。そうであるなら、従業員にはテンポのイイ忙しさに身を置いてもらわないと割に合わん!となります。

固定費のうちの人件費と設備費を総工数と総稼働時間、それぞれで除してみれば実感できることです。1時間当たりコストの差異は何%ではなく、何倍です。

設備が1時間止まっているのと、従業人が1時間手待ちしているのとで、どちらのロスが大きいのかは経営者ならすぐに分かります。「手待ち」は7つの無駄のひとつである所以です。

 

固定費とは経営者の意志と意図が込められた投資と言えます。

そうであるなら、従業員には一人残らず、持ち時間内で力一杯に活躍してもらいたいのです。腕組んで設備を眺めているだけでは価値を生み出せません。本人も面白くないはずです。

機械よりも人に稼いでもらうという思考回路が多品種少量生産では必要です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の論点は経営者独自のものです。いろいろな戦略があります。論点のひとつが稼働率です。戦略を示すことで、従業員は経営者の思考回路を知ります。

一方、経営者は自分の思考回路を従業員に真似てもらいたいはずです。真似てもらいたいのなら、戦略を経営計画書、ロードマップで示し、戦術を立てやすくする必要があります。

 

先の経営者は、早速、「戦術を立てやすくする」という観点で戦略を考え始めました。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、てきぱきと切り替える切れのイイ仕事ぶりで多品種小ロットに対応する

衰退する現場は、一人一台持ちで腕を組んで設備の稼働を眺めて稼働率を維持しようとする