「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第393話 正しいトップダウンができているか?

「幹部や従業員に分らせなければなりません。」

人時生産性を高める新たな方針を立てた20人規模電子部品メーカー経営者の言葉です。

 

足元の収益は堅調です。しかし将来を見通すと安心できません。業界の構造が変わりつつあるからです。先の経営者は、変わりつつあるお客様、市場の動向を鋭い嗅覚で関知し、3年後を見通して先手を打とうとしています。

ロードマップ、方針書を作成したところです。製販一体でやることが明らかとなりました。これからその実践です。

 

ただ、経営者には若干の懸念があります。従業員がトップダウンの宣言に反応してくれるだろうか?というのです。先の経営者は積極的に動いてくれる従業員が少ないと感じています。

従業員の動機付けが必要です。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

中小製造企業はつねに2つに晒されています。技術の進化と競合先の追い上げ。現状維持は相対的な後退です。技術革新に挑戦し、競合を出し抜ぬいて生き残らなければなりません。

また、付加価値額の源泉は外にしかありません。変化する市場やお客さまに向き合い、お客様に選ばれるよう我が社を変える必要もあります。意識改革、現場改革、構造改革。

改革は時間を味方につけて進めるものです。

技術開発ひとつとっても、事前調査から始まって技術ロードマップ立案、開発計画立案、開発メンバーの選定、開発着手、開発進捗フォロー等々、ゴールに至るまでの道のりは平坦ではありません。ノウハウ積み上げという時間を味方に付けたやり方になります。

経営者の先導無しにはなし得ない仕事です。

経営者の仕事は、技術の進化と競合先の追い上げに勝ち抜き、市場とお客様の変化に対応するために我が社を変えることにあります。

それを実現させる作戦書がロードマップ、方針書です。

 

 

 

 

 

戦いに勝つには戦略が必要です。サッカーやラグビー、バスケットボールの監督やヘッドコーチは勝つための戦略についてしばしば言及しています。

語られるのはチーム力を活かす引き出す要点です。選手全員のベクトルが揃っていなければなりません。

敵陣へ深く入り込みプレスをかけるのか、我が陣地で守りを固めるのか、明確な戦略が示されていなければ、チームのベクトルが揃わず、選手一人ひとりがスキルを発揮できないのは明らかです。

 

プレスを掛ける選手が居るかと思えば、守りに徹している選手もいるような試合運びでは、選手1人ひとりの力量が一流であっても、チームとしての良さを発揮できません。試合に負けます。

だから、監督やヘッドコーチはチームを任されたら、選手を前にして自分の考え方を繰り返し、語り、勝つための戦略を伝えるのです。テレビでしばしばそうした場面を目にします。

 

分るまで何度も何度も何度も語り、練習を通じて身体で覚えさせ、チームのベクトルを揃えるのです。そうすれば、選手は戦略を実現するためのやり方を自ら判断しプレーをしてくれます。戦術は選手に任せれば良いのです。

監督と選手との信頼関係があるチームはそうやって勝利を重ねていきます。

戦略は戦術に勝るのです。

 

 

 

 

 

先の経営者も同じです。足元の収益は堅調です。しかし、経営者には見えています。今の事業モデルのままでは次世代経営者が苦労することが・・・。

そもそも、今と同じやり方を続けていては、自分の代で事業が伸び悩んで行き詰るかもしれないのです。

経営者は危機感を抱いています。ただ、これは従業員にはわからないことです。

 

経営者は時間軸では将来、仕事場では外に身を置いているので、変わりつつあるお客様、市場の動向が分かります。一方で、従業員は、時間軸では今、仕事場では内に身を置いています。分からないのが当然です。

そして、経営者は状況を分かっていない幹部や従業員の協力を得て、変化する市場やお客さまに向き合い、我が社の改革をしなければなりません。

したがって、変わる必要があることを伝え、従業員の協力を得る必要があります。

 

・工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある

「他人の力を借りる」ための道具がロードマップ、方針書です。ここに、経営者の意志と意図が全て言語化、数値化されます。ここに書かれていることを従業員に知らせるのです。

ただし、一度で伝わるわけもなく、経営者は、分かるまで、繰り返し、繰り返し、繰り返し、噛んで含めるように説明することになります。協力をお願いするには前提条件があるからです。

経営者の意志と意図を理解してもらうこと。

理解できていない人に協力はお願いできないのは当然のことです。

そして、ここからの対応は、経営者によっていろいろあります。

地道に手を変え、品を変えて語り続ける経営者がいる一方、説明しても理解してくれないと、そのまま、放置している経営者もいます。

ロードマップ、方針書の道具としての役割を踏まえれば、どうしなければならないのは明らかです。

 

 

 

 

 

とにもかくにも、改革に協力をしてもらわないとなりません。改革は経営者が一人で奮闘してできるものではないのです。改善と違います。

そして、全社一丸、製販一体の協力体制をつくってもらうのです。さらには、現場に知恵も出してもらうのです。

羅針盤で示した方向へ舵を切るのは船長ですが、目的地に向かうと途中で出会う様々な出来事には船員一人ひとりのスキルで対応します。

経営者も同じです。意志や意図を実現させる知恵は従業員に出してもらいます。出してもらうために、理解してもらいお願いをするのです。協力を請います。これがトップダウンです。

一方的に伝えることがトップダウンであると誤解されている方がいますが、それは間違いです。また、理解してもらっていないのに、協力だけをお願いてもダメです。

現場で現物を扱う製造業であるなら、トップダウンの本質は「お願いをして協力を得ること」にあります。ここは大手の仕事ぶりを学びたいです。

 

 

 

 

 

お願いをして、協力を請うことは経営者の意志と意図を従業員に一層、浸透させることに繋がります。

協力をして欲しいとお願いをされたのです。それも、他でもない、人生を掛けて仕事をしている自分の会社のトップからです。そのお願いを無視する従業員がいるはずはありません。そうやって、従業員へ経営者の意志や意図が伝わっていくのです。

 

トップダウンとは一方的に伝えるのではなく、分かるまで、繰り返し、繰り返し、繰り返し、噛んで含めるように説明し、それでも従業員に伝わらなければ、地道に手を変え、品を変えて語り続け、意志や意図を現場へ浸透させることを言います。

迅速なボトムアップはその結果です。根底にあるのは経営者と従業員の信頼関係。そして、信頼関係の源泉は経営者の言動。

 

したがって、「トップダウンの宣言に従業員が反応してくれるだろうか?幹部も含めて積極的に動いてくれる従業員が少ない」という状況は、そもそも何かが間違っています。

サッカーやラグビー、バスケットボールの監督やヘッドコーチと選手との信頼関係を思い浮かべれば何が間違っているのかが分かるはずです。

先の経営者は、この数か月間の取り組みを通じて、そのことに気付きました。

 

 

 

 

 

・お願いをして、協力を請う

この姿勢がないと、「一方的」になります。フォローと評価が抜けるのです。フォローと評価が抜けたトップダウンはボトムアップにはつながりません。いろいろなご支援先を通じて感じます。

従業員の動機付けは直接にできません。

他人を変えることは無理です。

できるのは、動機付けの環境整備だけです。

実務に根差したPJがそうした場になります。経営者はお願いをして、協力を請い、フォローと評価のPDCAを回せます。

 

今、先の経営者は個別面談の準備をしているところです。問いかけの3か条。ロードマップ、方針書をつくって、それを活かせない状況を放置できない経営者です。

トップダウンの具体行動は経営者によっていろいろですが、これまでを振り返り、先の経営者はこれを選びました。

トップダウンの本質を理解した経営者に導かれた現場は躍進します。協力を仰いで、製販一体になったら、現場での実践開始です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、経営者へ協力する重要性を理解しているので経営者の意志が即浸透する

衰退する現場は、間違ったトップダウンのために経営者の意志がなかなか浸透しない