「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第459話 問題解決の観点を間違えると現場はどうなるか?

「リーダーへの指導をしっかりやります」
支援先の製造部門長が社内クレーム対応について説明してくれました。
定期プロジェクト会議の合間に、現場で起きている出来事を話題にすることがあります。この現場では、先月、作業指示に関してトラブルが発生しました。幸い、お客様へは迷惑をかけなかったので、社内クレームとしたようです。
そこで、先の部門長に、どのような対応をしたのか尋ねたところ、冒頭の言葉が返ってきました。問題の原因はリーダーの行動にあったようです。最終的に、そのリーダーの行動に焦点を当てて対策書がまとめられました。
問題が発生した時、当事者に焦点を当てたくなるものです。ただ、それは、真の対応策にはなりません。儲かるモノづくり現場では、そこに焦点を当てないのです。
●問題発生時の2つの思考
製造現場でトラブルが発生したら2段階で対策を考えます。
・暫定策と恒久策
両者を同時に考えるのが原則です。
一般的に、トラブルを認識したら、その時点で現場や工場を止め、根本対策を打つのが望ましいと言われます。トヨタのアンドンがそれです。その場で即、根本的な対策をしてしまいます。最も望ましい対応です。一定水準以上の組織能力を持っているチームならできます。
しかし、発展途上にあるチームでは難しいです。そこで2段階で考えます。
少数精鋭の中小現場では、問題が発生したからと言って、製造を止めるわけにはいきません。複数工番が現場で並行して流れています。製造しながら、トラブルにも対応しなければならないのです。
対象製品を選別し、目前のトラブルを避けながら、製造を続けることになります。この手立てが暫定策です。
そして、暫定策で終わる中小現場も少なくありません。目前の混乱を乗り越えたら、意識は既に次の仕事に移るからです。当面は問題ありません。ただし、のど元過ぎれば・・・となるのが人です。同じトラブルの再発懸念は残ります。
そのトラブルは二度と起こしたくありません。やはり根本対策を打ちたくなります。これが恒久策です。
現場で問題が発生したら、暫定と恒久の2つの対策を打つ必要があります。起こしてしまったトラブルによるマイナス影響を最小限にするために、暫定策をたてます。
また、そのトラブルを二度と発生させないために、恒久策をたてます。
これは品質管理に通じる考え方ですが、こうしたお作法を右腕役に、しっかり指導するのは経営者の仕事です。
●自動車部品工場時代に教わったこと
恒久策の目的は、そのトラブルを二度と発生させないことにあります。大事なのは原因の究明です。元凶はもとから立たなければなりません。
なぜなぜ分析やAs is / To beなどの手法を使います。ここでは問題と向き合う視点や観点が大事です。万能の手法はありません。問題を捉える視点や観点が適切でないと、恒久策に至らないのです。
現場で問題が発生したとき、経営者であるあなたは、右腕役や現場キーパーソンにどんな指示をしていますか?
自動車部品工場で、現場担当のエンジニアとして勤務していた時も品質や安全に関するトラブルに見舞われることがありました。
作業者も起こしたくて起こしているわけではありません。そのことは分かっているわけですが「なんでやらかしたんだぁ~」との気持ちになりながら、上司へ報告に行ったものです。
そして、報告を受けた上司は次の指示を出します。
「すぐに標準書を持ってこい。」
どういう手順でやられている作業なのか?
その作業の要点は何か?
過去トラで挙げられていることは?
まずは、こうしたことを知るためです。それから、起きた経緯を可能な限り細かい時間軸で整理します。
そして、「標準」VS「起きた推移」の視点で差異を検証するのです。トラブルの原因を「標準」との比較で究明します。ここが、恒久策の要点です。
したがって、QCD上のトラブル原因は3つしかありません。
①そのトラブルに関する作業の標準がない、あるいはあっても不完全であった。
②標準はあるが、作業者はその通りにできなかった。
③標準はあるか、作業者はその通りにやらなかった。
検証の結果、①なら、これはしょうがないです。誰もその作業に注視していませんでした。モノづくりが高度化/複雑化したから、あるいは作業者も多様化したから、などなど、その背景はいろいろです。痛い経験を通じて、新たなノウハウを積み上げることになります。
ただ、職制は上司から「そのことを未然に防げなかったのか?」と言われます。職制に求められる業務上の想像力を鍛えていなかったことには、軽くツッコミがありました。
そして、検証の結果、②と③なら、職制は上司から、有無を言わさず強く責められます。
「なぜ、しっかり指導しないのだ。」
ここが大手と言えども、最も重視していることですが、職制に最も求められのは、現場指導だからです。これが無ければベクトルが揃いません。
②と③は似ていますが、原因の本質は異なっています。組織能力や現場体質に従った見極めが大事です。セミナーや支援先では弊社の事例で対応方針を説明していますが、いずれにせよ、②と③では職制が責められます。それだけ重要なのです。
以上のことは、自動車部品工場時代の実務で経験したことです。
400人ほどの工場でした。仕組みがなければ回らない規模です。そうした工場のトラブル対策は、全て仕組みに焦点が当たっています。
トラブルが発生したとき、作業者に厳しい言葉はありません。安全に留意してくれればそれでイイのです。その代り、職制の仕事ぶりに厳しい言葉が投げかけられるのです。筋が通った仕事ぶりを目にした現場は、経営者層や管理者を信頼するようになります。
一方、先の製造部門長の対応はどうだったか?
問題発生を認識した時点で、早速、リーダーを呼び出して、状況をヒアリングしたのです。「なぜ、そうやったのか?」「なぜ、やらなかったのか?」と問いただしました。
結論は、「やるべきことをやっていなかった」です。リーダーにしてみれば、「取り調べ」の感じだったでしょう。ヒトに焦点を当てたトラブル対策になっています。
貴社のトラブル対応はどちらの視点ですか?
「工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある」ので、従業員の協力を引き出すことが必要です。社長業に専念したかったら、そうしないとできません。
仕組みづくりの要点は、このあたりにありまが、具体対応は現場によっていろいろです。ただし、全ての支援先についていて言えることがあります。
人に焦点を当てた恒久策では、従業員の協力を引き出せないということです。ノウハウも蓄積されません。
従業員には、責められた記憶しか残らないので、指示導線の前提となる経営者と現場との信頼関係を構築するどころの話ではないのです。経営者は、知らず知らずのうちに、指示導線が機能しない現場に変えていることになります。
●クレーム対応を間違えている現場の末路は?
誤解を恐れずに言い切るなら、成果を出せる決まった体制があるわけではありません。業種業態、経営者の考え方、事業の成熟度などなど、企業の背景はいろいろです。したがって、結果として成果を出せるなら、体制はなんでもかまいません。
ただし、製造業で成果を出す場合、必要な体制があります。しばしばお伝えしている4階層指示導線です。指示導線を機能させる体制であることは必要です。
経営者の仕事場は外にある以上、経営者に替わって、誰かに工場を仕切ってもらわなければなりません。経営者の意志や意図を理解した右腕役が工場を管理します。さらには、右腕役の右腕役として現場キーパーソンが作業者へ指示を出します。
これが、製造業の4階層指示導線です。
信頼関係に基づくこうした体制が機能すれば、経営者が工場に不在であっても、トップダウンがあり。そして、現場からのボトムアップがあるのです。
製造業では、お客様へ販売する仕事に加え、同じくらいの大変さで、原材料を「加工」して価値を生み出す仕事があります。現場からのボトムアップなしに、儲かる仕組みづくりはできません。そして、ボトムアップは現場の自主性が前提です。
トラブルが発生するたびに、作業者が責められたら、どんな現場になってしまうか?指示導線の前提となる経営者と現場との信頼関係を構築するどころの話ではありません。ボトムアップは望むべくもないのです。
大手メーカーの品質不正を振り返ると、原因として下記があげられることが多いのです。
・経営者層の言動によって、ボトムアップができない現場になった。
知らず知らずに、そうなっていくのは、恐ろしいことです。ボトムアップがない現場になってしまったら、経営者は安心して外へ出られません。
クレーム対策をノウハウの積み上げの機会とするか、知らず知らずに指示導線が機能しない体質に貶めていくのか、全ては、仕組みの有無次第であり、経営者の考え方次第です。あるべき指導が貴社の命脈を保つのに欠かせません。
クレームが発生した時は、「誰が悪いか」ではなく「どの仕組みを改善すべきか」と考えるのです。そうすれば、現場からアイデアが湧き出し、貴社の現場は着実に成長します。訓練すればそうした現場に変わるのです。
大手の仕事のやり方で、イイところがあれば、取り入れたいものです。悪いところを真似る必要はありませんが。貴社が成長発展するひな形は身近なところにあります。
先の支援先は、プロジェクトを通じて、組織能力を高める要点は仕組みづくりにあることを体感するでしょう。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、問題発生時、仕組みに焦点を当てて対策を考え現場から協力を引き出す
衰退する現場は、問題発生する度に人に焦点を当てて対策をたてるので現場は口を閉ざす