「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第463話 勘所が欠けていたらシステムを活かせない

「システムは導入したのですが……。」

先日、ご相談をいただいた板金加工メーカー経営者の言葉です。50人規模の企業で空調設備向け部品を製造しています。

 

製造する部品形状に、基本形はあるものの、寸法やオプションが多岐にわたるため、生産形態は特注品の受注生産に近い現場です。案件ごとに工程を設定しています。日程計画はベテラン工場長が一手に担っている状況でした。

 

「今まで、このやり方で工場を回してきました。しかし、もっと、仕事をこなせるのではないかとの考えがぬぐえないのです。」と経営者。

 

月々の生産量には、限界量が「壁」として設定されていますが、その「壁」が本当の限界なのか、それとも工場長の属人的な判断に依存しているのか、判断基準が曖昧だといいます。

 

さらに、「チームで工程管理を担える体制」に変えたいという意向もあるようです。

すでに「工程管理システム」は導入済みなのですが、どうも今ひとつ活かせていない、と感じているとのことでした。

「システム導入=成果向上」とは限らない現実に直面しているのです。

何が問題なのか?

 

 

 

 

 

●工程管理の勘所を知らないとシステムを活かせない

 

多くの中小製造企業の現場でも、同じような悩みを耳にします。たしかに「工程管理システム」があれば、短時間で精緻な日程計画を作成できます。

工番ごとの工程フロー、標準リードタイムといったマスターデータに、製造数量データを加えれば、システムは自動的に計算してくれます。

しかし——「計画表ができたから工程管理は万全」と考えるのは危険です。

 

なぜなら、その計画表はあくまで「計算された結果」に過ぎないからです。

現実の製造現場は、将棋や囲碁の対局のようなもの。

机上の理想的な手順が、そのまま実戦で通用するとは限りません。状況に応じた「読み」と「手直し」が不可欠。そこで求められるのが「工程管理の勘所」なのです。

 

たとえば「納期」一つとっても、「お客様の納期」に振り回されていては利益が出にくいので、優れた経営者は「自社が儲かる納期」を意識して工程を組み立てます。

 

システムはあくまで計算を支える「道具」であり、それをどう使いこなすかは、現場と経営者層の知恵と工夫にかかっています。

 

その核となるのが、工程管理の2本柱です:

1)計画(Planning)

2)統制(Control)

 

この「計画」と「統制」の仕組みが正しく機能してはじめて、工程管理システムは「生産性向上のエンジン」になります。

 

 

 

 

 

●「計画」の勘所は?

 

「計画」の最初のステップは「受注可否判断」です。

ここで求められるのは、「能力vs負荷」の計算結果に従った、正確な見積もりです。判断基準を設定して、「受注するか/断るか」を決めます。これは経営判断も加わる大事なジャッジの仕組みです。

「バケツに水を注ぐ」場面を想像してください。

バケツの容量(=自社の生産能力)を超えて水(=仕事)を注げば、当然あふれてしまいます。一方、半分しか入れなければ目標利益に届かないことになります。

この「ちょうどよく満たす」受注可否判断こそが、計画の勘所と言えます。そして、その判断を支えるのが「中日程計画」です。

 

受注可否判断を「場当たり的」に行ってしまうと、

・納期遅延

・品質不安定

・現場の疲弊

といった悪循環を招きかねません。

 

だからこそ「中日程計画」という中期的な視点が必要です。

・ 中日程計画で能力vs負荷を見積もる

・ 中日程計画を具体化するために小日程計画で作業指示を出す

 

右腕役と現場キーパーソンにも、この判断のロジックを理解させることが経営者の役割です。システムに頼りきりでは、思考停止に陥ってしまいます。

「システム+現場知恵」の両輪が、工程管理成功の鍵です。

先の企業でシステムを活かせていない原因の一つは、まさにこの「中日程計画」という中期的な視点が欠けていたことにありました。

 

 

 

 

 

●「統制」の勘所は?

 

工程管理2本柱のもう一本は「統制」。

その要諦は「遅れを認識し、挽回する」ことです。製造現場は、しばしば「計画通りには進まない」という現実に直面します。

航海中の船が潮流や風向きに応じて微調整するように、製造現場でも絶えず「ズレ」を補正しなければなりません。

 

この補正力を左右するのが「マスターファイル」の精度です。

・リードタイム構造

・工程毎リードタイムデータ

 

これらのデータの精度が一定水準を満たしていなければ、「遅れ」そのものを正しく認識できないのです。したがって、マスターファイルの検証と言う作業が必要になります。検証して、データを現実に合わせ続けるのです。

 

「マスターファイルの検証」という地味な作業を怠らず続けること。これが「統制」の勘所であり、右腕役と現場キーパーソンの成熟度を測るバロメーターでもあります。こうした作業を続けられるメンバーであって欲しいのです。

 

さらに、「遅れ」を見つけた後の対応では、組織能力も問われます。

・ルールをつくる能力

・ルールを守る能力

 組織能力では、特に後者が大事です。これは、5Sの中のひとつ「しつけ」に関係しています。統制では訓練と習慣化が不可欠です。

 

 

 

 

 

●工程管理をきちんと機能させる勘所

 

工程管理システムが活きる現場では、次の勘所が押さえられています。

【計画の勘所】

・中日程計画で「能力vs負荷」を正確に計算されている

・受注可否判断の基準が明確に設定されている

 

【統制の勘所】

・マスターファイルを日常的に検証・更新している

・遅れを素早く認識し、チームで挽回行動が取れている

 

この2本柱の勘所がしっかりしていれば、工程管理は生産性向上の武器となります。逆に、欠けていれば、せっかくの工程管理システムも「宝の持ち腐れ」になりかねません。

貴社の右腕役と現場キーパーソンは、これらの勘所を実践できていますか?

必要ならば、経営者は「教える・鍛える」ことが肝要です。

 

工程管理は「人が育てていくもの」です。システムはそれを支援する道具にすぎません。

主役は、工程管理の勘所を理解した右腕役と現場キーパーソンなのです。これらのメンバーが現場を引っ張ります。こうやって、チームで工程管理を担える体制ができあがるのです。

 

そして、工程管理がきちんと機能すれば、その成果は必ず

・納期遵守率向上

・生産性向上

・利益体質の強化

という形で現れてきます。

 

優れた経営者は、「自社が儲かる納期」を意識して工程を組んでいます。大事なのはシステムではなく、“勘所”なのです。

貴社の現場でも「工程管理の勘所」を磨き、システムを真に活かす一歩を踏み出してください。右腕役と現場キーパーソンへの指導が大事です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、工程管理の計画と統制の勘所を押さえシステムを生産性向上に活かす

衰退する現場は、工程管理の計画と統制の勘所を知らないのでシステムが活かされない