「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第464話 儲かる事業モデルの要点を押さえているか?

「やっと受注にこぎつけました」

30人規模産業用設備メーカー、支援先企業を訪問したとき、経営者が弾んだ声で状況を説明してくれました。長いトンネルを抜けた時の安堵感が伝わってくる感じです。

 

当初のご相談は「現場の生産性向上」でした。しかし、工場の中だけを見つめていても、本質的な人時生産性向上は実現できません。

この状況は井戸の中から空を見上げているようなものと言えます。人時生産性向上の本質を捉えた取り組みは「外」にあるのです。井戸の中だけで頑張っても成果は限られます。

 

「コスト削減」という名の節約術だけでは、儲けアップは限定的です。コスト削減を目的とする改善活動は、乾いた布を絞るように行うと言われます。絞りきった雑巾を絞っても成果には限界があるのです。

一方、「積み上げ」という成長戦略には、持続性、継続性があり、豊かさが雪だるま式に積み上がる嬉しい可能性を秘めているのです。

 

先の経営者は、勇気を持って外の世界へ足を向けました。市場という大海原に船出し、試行錯誤を重ねながら新たな顧客との出会いを求めたのです。

その結果、1年半という歳月をかけて、ついに一定規模の受注という宝物を手にしました。これは、儲かる工場経営への転換点となる第一歩です。

 

 

 

 

 

●豊かな成長のための稼ぐ力は人時生産性で計る

 

中小製造企業経営者が心から願う「豊かな成長」は、二つの柱で支えられています。一つは会社の「利益アップ」、もう一つは従業員の「給料アップ」

 

技術で勝負するモノづくりの世界は、戦国時代のように競争が激しく、利益なくして生き残ることは不可能です。価格競争という泥沼から抜け出すことは、中小製造企業にとって生命線そのものと言えます。

 

持続的競争優位を築くには、モノとヒトへの投資という継続的な種まきを可能にする利益絶対に欠かせません。そして、同時に、従業員が求める豊かな生活の実現には、給料アップという果実が必要です。

 

したがって、経営者が願う「豊かな成長」を叶えるには、両者を潤す原資となる「儲け」を積み上げる必要があります。この儲け、すなわち付加価値額を少数精鋭のチームで生み出すからこそ、稼ぐ力は人時生産性で測られるのです。

 

稼ぐ力が向上すれば、経営者は「豊かな成長」という理想郷への扉を開く鍵を手にできるのです。

 

 

 

 

 

●改善活動だけで稼ぐ力は高まらない

 

日本経済が右肩上がりで成長していた時代、従来型の下請けモデルは安定した港のような存在でした。舞い込む仕事を着実にこなせば、主要顧客と共に成長の波に乗れたのです。改善活動によるコスト削減で現場力を高めれば、儲けという果実を手にできました。

 

しかし、その黄金時代は1990年代に幕を閉じました。まるで潮が引くように、安定した環境は消え去ったのです。改善活動だけで、稼ぐ力は高まらなくなりました。

 

今や主要顧客も生き残りをかけた戦いの最中にいます。その生き残りに必死な主要お客様に、選ばれなければ受注は途絶え、従来のやり方だけでは必要な受注量を確保することすら困難な時代になったのです。

 

人時生産性を高めて稼ぐ力を強化するには、二つの道があります。

・伸び悩む「今」の主要顧客に代わる「将来」の主要顧客との出会い

・伸び悩む「今」の主力商品に代わる「将来」の主力商品の開発

 

これらは、市場という外の世界と向き合う課題です。

経営者が工場という内の世界に留まっていては、解決できない経営課題です。これでは、昨今の外部変化に対応した稼ぐ力は育ちません。

 

新たな付加価値額を積み上げる戦略を儲かる事業モデルで具現化します。儲かる事業モデルは、市場との対話なしには生まれないのです。

儲かる事業モデルの土台は内ではなく、外の世界に身を置いて構築するものとなります。社長業とは、儲かる事業モデルを構築すること。それ以外に本質はありません。

 

 

 

 

 

●製造業で儲かる事業モデルの要点は?

 

製造業の真髄は「加工」という「手間暇」にあります。技術という工学的な手間暇をかけ、価値の低い原材料を価値ある宝石に変えて、お客様にお届けするのです。

 

そして、商売の基本は販売にあります。これは製造業も例外ではありません。しかし、製造業では「加工」という独自の強みがあるため、ともすると工場に意識が向きがちです。職人が自分の技術に酔いしれるとそうなります。

 

儲かる事業モデルでは、工場の技術と同じくらい、あるいはそれ以上に、

・「将来」の主要お客様との出会い

・「将来」の主力商品の開発

これらの仕組みを重視しなければなりません。

先ほどの経営者が、まさにそうでした。最初は現場の仕組みづくりに注目していましたが、本質的な解決策は「新規のお客様と出会う仕組みづくり」にあると気づいたのです。

 

儲かる工場経営の要諦は、「お客様に選ばれる商品を効率よく造る」ことです。

効率よく造る前に重要な準備があります。お客様に選ばれる商品を手にすること、選ばれるお客様と出会うこと。これが「開発・設計」と「新規お客様開拓」です。

 

・「開発・設計」お客様に選ばれる商品を手にすること

・「新規お客様開拓」選ばれるお客様と出会うこと

 

この経営者は従来の下請け型モデルから脱却するために、未経験のトップ営業にも挑戦しました。まるで初めて海に出る船長のように不安もあったでしょうが、その勇気が新たなお客様開拓という成果を生んだのです。

 

不確実性の高い現代では、特定のものに「頼りきり、依存、寄りかかり」することは、砂上の楼閣を築くようなものです。工場経営でのリスクが高くなります。

 

・開発・設計

・製造

・営業

これらは製造業で求められる機能です。このうち、ファブレスでないかぎり、中小製造企業では「製造」を自らやっています。

今後、それに加えて「開発・設計」や「新規お客様開拓」を、「自ら」やれることも大事になるのです。不確実性が高まる外部環境に対応するためです。

下請けモデルでも構いません。儲かる下請けモデルに大きく変革させればいいだけです。あとはやるかならないかでう。

 

値決めは経営と言われます。その値決めの主導権を少しでも手にしたかったら、「開発・設計」や「新規お客様開拓」を自らやれるようにするのです。

儲かる事業モデルの心臓部がここにあります。先の経営者のように従来の下請け型モデルから脱却するのです。「自ら」やれるようになったら儲かる事業モデルを描くことができます。

 

先の企業における主要お客様は全て先代が開拓したお客様です。そこから、今、先の経営者は将来の主要なお客様になる可能性があるお客様とのご縁を自ら引き寄せました。

この実績は先の経営者に何か大きなものをもたらしてくれます。

お客様に選ばれる商品を手にすること、選ばれるお客様と出会うこと、これらが、儲かる事業モデルを描く第一歩です。

 

 

 

 

 

●儲かる事業モデルの両輪とは?

 

儲かる工場経営は、自転車の両輪のバランスが必要です。

前輪:お客様に選ばれる商品・製品を開発し、選ばれる顧客と出会うこと

後輪:その商品・製品を効率よく造ること

両方が揃わなければ、製造業という自転車は前に進みません。どちらも大事です。

 

しかし、この両輪への取り組みには、意外な難しさがあります。なぜなら、向く方向が正反対だからです。前輪は市場という外向きの視点が必要で、後輪は工場という内向きの視点が求められます。

 

経営者が担うべき役割は、明らかに前輪です。外の世界に身を置き、将来の飯のタネとなる顧客との出会いを求めてトライアンドエラーを繰り返します。

これは船長にしかできない舵取りなのです。経営者は、市場の変化に合わせて、我が社を変えます。

 

社長業とは、儲かる事業モデルという設計図を描くことです。経営者の視点は将来を向いています。そして、儲かる事業モデルを描くには時間を要するのです。経営者は「時間を味方につけて仕事をやる人」とも言えます。

 

だからこそ、経営者は工場を離れても、現場が回る仕組みを手にしなけれがならないのです。右腕役と現場キーパーソンの育成が重要なのはここにあります。

 

 

改善活動や効率化の取り組みは、今も昔も変わらず大切です。しかし、その位置づけが変わりました。改善活動や効率化の取り組みは、単独で成果を出すものではなく、経営者が社長業に専念するための土台として機能させるのです。

 

工場を任せられる人材がいなければ、経営者は現場の火消しに追われ、将来の成長機会を逃してしまいます。市場との対話は、時間を味方につける仕事です。手遅れになった時は、もはや「ジ・エンド」となります。

 

気づいた時が吉日。先ほどの経営者は気づいて行動しました。

貴社でも、右腕役と現場キーパーソンに工場を任せられる仕組みをつくっていただきたいのです。儲かる事業モデルの設計に専念できます。「開発・設計」や「新規お客様開拓」を自らやっていくためです。

貴社は、今、社長業に専念できる状況にありますか?

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、自ら新規お客様を開拓する手立てがあるので儲かる事業モデルを描ける

衰退する現場は、頼りきり、依存、寄りかかり体質から抜け出せず何をやっても儲からない