「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第465話 プレイングマネージャーを放置したらどうなる?

「事務所の女性従業員が現場に入ってくれます」

 

ある射出成型メーカー(従業員数40名)の経営者が語った言葉です。

課題だった「工程管理が現場で定着しない」という問題に、ようやく本質的にメスを入れる一手となります。単なる人手補充を超えた「覚悟」が込められていました。

 

現在、この支援先企業は「儲かる工場経営」を目指すプロジェクトに取り組んでいます。キーワードは「人時生産性の向上」。1人1時間あたり積み上げる儲けを高めること。

付加価値額を積み上げるのに貢献しない仕事にリソースを奪われていては、忙しさが利益につながりません。

 

プロジェクトで今進めているのは、工程管理の仕組みづくりです。受注票からリードタイムを自動計算し、中日程、小日程、作業指示までの流れができました。

しかし、今、その後の業務に問題があります。忙しくなるだけで仕組みを回せないのです。それを解決しない限り、工程管理の仕組みは期待通り機能しません。

 

行き詰まりの原因は、いわゆる「作業指示の出しっぱなし」です。

この状態になってしまうと、計画を立てて、作業指示を出しても、工程管理の仕組み自体が“絵に描いた餅”になります。実際に食べられるようにはなりません。

 

 

 

 

 

●作業指示の出しっぱなしは工程管理にならない

 

工程管理は「計画」と「統制」、この二本柱です。生産計画と生産統制です。

計画は山登りで言えば地図作り。統制は、その地図を片手に実際に登っていく中で、天気や体調、ルートの変化に対応して軌道修正していく行為です。

現実は計画通りいかないものです。だから計画と比べる「フォローと評価」が欠かせません。そうしないと遭難します。

計画は大事ですが、統制もおなじくらい、あるいはそれ以上に大事なのです。

 

生産統制とは「遅れを認識して挽回する」ことです。現場で何が起きているかを把握して、遅れやズレを見つけます。そして、それに手を打ちます。

これはPDCAでいうC(チェック)とA(アクション)に該当します。

 

多くの現場で、P(計画)とD(実行)まではやられています。が、CとAが置き去りにされがちです。結果、現場は「指示の出しっぱなし」になります。

気づけば、納期に追われる“火消し”の毎日へと逆戻りです。

これでは工程管理になりません。

遅れていないかどうか、確認し、問題を認識したら、挽回する仕組みを回し続けます。フォローと評価の仕組みがあるからこそ、現場は動けるのです。

“指示の出しっぱなし”では、現場は適切に動けません。

 

 

 

 

 

●毎朝の工程会議で生産統制を定着させる

 

遅れの早期発見と、少ない労力での挽回。これが生産統制の要点です。

少数精鋭の現場では、後手に回るとダメージが大きくなります。だからこそ、毎朝の工程会議の継続が欠かせません。

 

・右腕役がキーパーソンを集めて、前日の進捗を振り返り、今日の予定を確認する。

これは、体温を測るようなものです。異常がなければそのまま進み、異常があれば早めに処置を打つのです。

こうした仕組みが、日常業務として根付いた時、現場は、病気になっても自ら回復できる体力をつけることになります。

 

毎朝の工程会議を業務にしっかり組み込むよう指導しなければなりません。「忙しいから毎朝の工程会議ができない」では、いつまでたっても工程管理は定着しません。

病気になっても自ら回復できる体力がつかないのです。

これでは、経営者は工場のことを、右腕役や現場キーパーソンへ任せられません。

 

 

 

 

 

●「現場×事務所」で壁を越える連携

 

この企業でも、「忙しいから毎朝の工程会議ができない」状況に直面しました。

受注が増えて現場が多忙になるにつれ、工程会議が滞り、生産統制の仕組みが機能しなくなっていきたのです。工場長や現場キーパーソンは、現場業務に追われると、遅れ認識や挽回実施の時間を割けなくなります。

 

そこで経営者が手を打ちました。

「事務所の女性従業員の現場参加」です。各工程からの流れが合流する出荷前の工程で統制業務をやってもらうことにしました。

新たな女性メンバーは、工場長や現場キーパーソンと連携して、指示が出しっぱなしになるのを防ぐ業務に従事してくれます。

 

すでに、受注票からリードタイムを自動計算し、中日程、小日程、作業指示までの流れは既にできています。ここに、生産統制が加わるのです。

これで、生産計画と生産統制の2本柱が機能する環境が整いました。

 

 

 

 

 

●志のある社員は、経営者の背中を見ている

 

この改革がうまく動き出した背景には、もう一つ大きな要因があります。それは経営者自身の真摯な姿勢です。

 

このプロジェクトを始める際、経営者は全従業員に向けて「将来に向けて、今の会社を本気で変えたい」と丁寧に説明し、協力を要請していました。情熱が空回りせず、言葉が届いたのは、普段からの言動に一貫性があったからです。

だからこそ、事務所の女性従業員は迷わず現場に入りました。

 

志ある社員は、経営者の背中を見ているのです。経営者が一生懸命なら、必ずその姿を見て応える人が現れます。現場の言動は、経営者の鏡なのです。

 

 

 

 

 

●プレイングマネージャーの限界

 

さらに、ここで見過ごせないもう一つの問題があります。

それが「プレイングマネージャー」です。

工場長も現場キーパーソンも、現場作業に追われながら、同時にマネジメントを担っています。管理をしながら、作業に従事するのです。

 

本来、作業指示の件数が増えれば増えるほど、整えた仕組みの効果を実感できるはずです。ところが、先の現場では、作業指示の件数が増えれば増えるほどに、仕組みが回らなくなる──そんなおかしな状況に陥ったのです。

 

原因は明白です。受注量が増えれば、当然に、現場業務も増えます。そうなると、プレイングマネージャーは、現場業務に従事する時間が増えます。

一日の就業時間に占める現場業務時間の割合は大きくなる一方です。多い時は、8割程度になっています。これではマネジメントどころではありません。作業指示までは出せますが、その後ができないのです。

 

その結果、「作業指示のやりっぱなし」になり、統制が崩れ、納期が乱れ、また現場に負担が集中するという負のスパイラルに陥ります。

 

仕組みとは、人手が限られた現場において作業を円滑にし、管理の質を高めるための“潤滑油”のようなものです。うまく機能すれば、業務量が増えても、少人数でも、スムーズに生産が回ります。

 

しかし、その運用を担うべき人材が現場対応に忙殺されると、仕組みは回されず、効果を発揮しません。

どんなに高性能なエンジンオイルが用意されていても、肝心のエンジンに注がれずに棚に置かれているような状態です。活用されない仕組みは、存在していても“役に立たない”ものになってしまします。

 

 

 

 

 

●工程管理は仕組みづくりとそれを回すチームづくり

 

仕組みとは、本来、作業指示の件数が増えれば増えるほどにその成果を実感できるものです。したがって、作業指示の件数が増えれば増えるほど、仕組みが回らなくなるというのは変な状況にあると考えなければなりません。

プレイングマネージャーの状況を放置しておくとこんなことも起きてしまうのです。

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず」とも言われます。管理する人と作業する人が一緒では弊害があるのは明らかです。

工程管理は、仕組みづくりとともに、それを回すチームづくりも大事であることを忘れないでください。

 

プレイングマネージャーについては、短期対応と長期対応の2つが大事です。先の経営者はそのことに気付いています。この観点も持って欲しいのです。

 

仕組みは、作れば終わりではありません。回して、育てて、現場に根づかせてこそ、本当の意味を持ちます。そしてその実現には、「人」と「時間」と「本気の姿勢」が欠かせません。

先の企業で、事務所の女性従業員が現場に入ったことは、単なる業務の分担ではなく、組織全体が変わるきっかけになりそうです。

 

貴社では、業務が多忙になると、仕組みが回りにくくなっていませんか?

貴社の現場にも、同じような改革の芽が眠っているはずです。

次に動くのは、貴社の番です!

 

成長する現場は、プレイングマネージャーの現場業務を抑制するので仕組みが機能する

衰退する現場は、プレイングマネージャーの現場業務が多いままなので仕組みを形骸化する