「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第500話 5Sの最後がなぜ躾になっているのか?

「言ってもそのとおりにやってくれない作業者がいます」

 

先日、支援先50人規模部品メーカーで開催されたプロジェクト会議でのことです。現場主任の若手メンバーが口を開きました。

経営者と定めた方針を共有し、具体的な手順を議論しようとした矢先の発言です。

 

 

現場で起きている「やってくれない」という事実は、単なる不満ではなく、その主任の責任感の裏返しでもあります。自分が掲げた方針に現場が応えてくれない、その現実に正面から向き合おうとしているからこその言葉です。

 

したがって、この懸念を放置すれば、志ある若手は、のどに魚の小骨が刺さったままの状態で活動することになるでしょう。

心理的な疲弊は、やがて挑戦心を削ぎ、組織全体の空気を重くします。小さな違和感が積み重なれば、やがて「どうせ言っても無駄だ」という諦めが徐々に蔓延するのです。

 

 

現場がこうした状況に直面したとき、経営者が、自らに語り掛けるべき問いがあります。その問いに真摯に向き合えたとき、現場は変わり始めるのです。

ピンチは、経営者の覚悟を試す機会でもあります。

その問いとは?

 

 

 

 

 

●5Sの最後がなぜ躾になっているのか?

 

整理、整頓、清掃、清潔、躾。5S。

現場改善の基本です。

 

多くの企業が取り組み、掲示物を整え、チェック表も整備されています。

けれども、成果が出る工場と出ない工場の差は、道具や表の出来栄えではなく、5S最後の一文字をどう扱っているか次第です。

なぜ最後が「躾」なのか。

 

整理とは不要なモノを捨てること、整頓とは置き場所を決め責任者を明確にすること、清掃とは汚れを取り除くこと、清潔とはその状態を維持すること。

ここまでは、環境整備の新たなルールをつくる作業です。標準化し、誰もが同じやり方で実行できるようにして、ベクトルを揃えます。

 

ここまでできれば、現場は良くなるはずです。しかし現実は、立派なルールができた瞬間から、別の問題が出てきます。

「守らない人」が現れるのです。

守る人が損をし、守らない人が得をする空気が漂い始めます。すると、5Sは、単なる美化活動、スローガンに堕ち、儲けに結びつかなくなるのです。

 

だから、最後に「躾」が置かれています。躾とは、ルールを守らせる姿勢そのものです。注意喚起の掲示を増やすことでも、朝礼で声を張ることでもありません。

守った人が報われ、守らない人が必ず指導され、是正されるという、この当たり前を、毎日、地道に徹底することです。

 

 

 

ここで視点を変えます。

小学校低学年の子どもが、問題行動を起こした場合を思い浮かべてください。

周囲は、その子どもを責めるでしょうか。多くの場合、「どんな躾をしてきたのか?」との問いを、子供の親に投げかけます。小さな子供を責めることはしません。

躾とは、躾けられる側よりも、躾ける側の責任を問う言葉です。

 

現場でルールが守られないとき、「作業者が悪い」で終わらせていないでしょうか。

右腕役や現場キーパーソンの指示に従わない従業員がいる場合、それは、単なる担当者個人の問題ではありません。

 

経営者のこれまでの関わり方、伝え方、評価の仕方に、見直す余地はなかったか・・。「これまでの指導のやり方に問題はなかったか?」と自身へ誠実に問いかけられるかどうかです。

それができたら、5Sは、単なるスローガンから収益の仕組みへ変わります。

 

 

 

躾とは叱責することではありません。現場を躾けるとは、ルールを破ったとき、それへの対応がきちんと決まっていて、誰に対しても同じフォローと評価ができることです。

注意で終えるのか、やり直しを命じるのか、査定に反映させるのか、人事での配置や役割を見直すのか。現場主任や右腕役が指導してもダメなら、経営者はどう対応するのか。

この「フォローと評価の階段」が設計されているかどうかです。階段がなければ、若手リーダーは毎日同じ段差でつまずき、やがて諦めます。

人の問題の最終判断は、経営者がやらなければどうしようもありません。経営者が人事権と査定権を持っているからです。

 

 

だから経営者は、5Sの最後を現場任せにしてはいけません。躾が必要になった瞬間から、それは人の問題であり、文化の問題であり、経営者の問題です。

経営者の一言で空気は変わります。誰が見ても公平な基準を示し、守った人を評価し、守らない行動には必ず手を打つ。ここまでやって、初めて5Sは、儲ける技術になります。

 

 

 

 

 

●結局、コミュニケーションしかない

 

では、躾を徹底するために、結局、何が必要なのか?

 

5Sの最後「躾」、この意味を理解できた瞬間、現場の景色が少し変わって見えてきます。

整理・整頓・清掃・清潔は、手順やルールをつくる業務です。しかし躾は、つくったルールを守らせる業務です。

ここから先は、道具や掲示物の勝負ではありません。人と人の勝負になります。だから結論はシンプルです。結局、コミュニケーションしかありません。

 

 

組織を機能させる3要素があります。共通の目標、コミュニケーション、貢献意欲。この3つが揃って初めて組織は機能し、どれか一つでも欠ければ、現場は緩むのです。

 

躾がなおざりにされている現場は、たいてい「共通の目標」が曖昧で、会話が不足し、貢献意欲が作業者の間で、ふわふわ、行き場を失っています。つまり、ルールを守らせる以前に、「なぜ守らないといけないのか」を腹落ちさせる会話が足りていないのです。

 

この企業の若手メンバーが困っているのは、作業者の性格ではありません。「言ってもやってくれない」という現象の奥にある、作業者1人ひとりが勝手に考える解釈のズレです。

作業者はこう思っています。

「上はまた何か言っている」「今日だけやればいいだろう」「忙しいときは例外だ」「守らなくてもいいのだろう」「自分のやり方を変えるつもりはない」などなど。

一方、若手は「決めた以上は守るのが当たり前」と思っています。

ここに溝が生まれるのです。溝を埋めるのは、注意の回数ではなく、言葉の往復です。言葉に想いを載せて伝えるしかありません。

 

 

要点は、「あなたには・・・」と個別に働きかけることです。全体朝礼で「守れ」と言っても、現場は動きません。人は自分ごとになったときに動きます。

たとえば、ルールを破った作業者に対しても、いきなり叱るのではなく、まず確認します。「なぜ守れなかったのか」「どこがやりくかったのか」「守ると何が良くなるのか」。

この対話の中で、目的と本人の状況を結び直すのです。そうして、初めて、躾は一方的な押し付けではなく、従業員一人ひとりとの合意になります。

 

ただし、コミュニケーションとは、語れば終わりということではありません。

期待と基準を明確にし、守った人を評価し、守らない行動には必ず手を打つ。その上で、本人が次に守れるように支える。これがコミュニケーションです。

 

 

 

放置すれば、「ルールを守らなくてもいい」という学習が現場に定着し、志ある若手の足を引っ張ります。だから経営者は、右腕役・現場キーパーソンとタッグを組み、現場一人ひとりに丁寧に働きかけるのです。

100人以下の会社なら、個別の働きかけができます。だから、やる価値があるのです。ここで割く時間は全て投資になります。

 

しかし、忘れてはならないのは、コミュニケーションは、感情論ではなく「構造」で支えなければ続かないということです。

若手メンバーが孤立しないように、作業者からの声が現場キーパーソンへ、そこから右腕役へ、そして経営者へと上がり、経営者の意思が再び現場へ戻る循環が必要です。

これが4階層指示導線です。

情報が上がり、意思が下りる階段が整備されているからこそ、躾は単なる注意で終わらず、組織の約束として定着します。

階段がなければ、若手は一人で抱え込み、やがて疲弊します。躾を根付かせるとは、実はこの往復運動を止めないことなのです。

 

もう一つ前提があります。

右腕役や現場キーパーソンがプレーイングマネージャー化していると、従業員との会話が続きません。働きかけた後のフォローと評価が抜け落ち、かえって現場を荒らします

躾を根付かせる要点は、言いっぱなしではなく、日々の確認と小さな承認の積み重ねです。

 

したがって、貴社の腕役や現場キーパーソンが、名ばかり管理者になってしまっているなら、まず、ここにメスを入れます。経営者はこの点に留意しなければなりません。

一度きりの面談ではなく、毎日の「見た・声をかけた・認めた」を積み重ねることです。これが組織の文化、風土になります。

 

 

 

 

 

●人の問題の解決には時間がかかる

 

躾は、今日から明日に定着する魔法ではありません。人の問題は、土を耕すのと同じです。手を入れたからと言って、直ぐに豊かな土壌に変わるわけではありません。

だからこそ経営者は、焦って、叱責するのではなく、約束を積み上げる覚悟を持ちたいのです。共通の目標を言語化し、「あなたには・・・」と個別に期待を伝え、守った行動をその日のうちに承認する。

守らなかった行動は、4階層指示導線に乗せて必ず是正し、評価までつなげる。これを、淡々と繰り返すだけです。

 

地域に根差した中小製造企業で働く従業員にとって、会社の将来は自分の将来と重なっています。本来、貢献意欲は誰でも持っているものです。しかし、「守らなくてもいい」という空気が一度でも許されると、その意欲は徐々に削られていきます。

やがて、志ある若手が疲れ、右腕役が孤立し、経営者は、再び現場の火消しに追われるのです。市場に向かう時間は奪われ、将来構想は後回しになります。

そうなると、全てが、後手、後手のスパイラルに陥るのです。

それでもなお、「作業者が悪い」で終わらせますか?

 

躾とは、従業員を縛るものではありません。守った人が報われる風土を守ることです。風土は一朝一夕ではできません。しかし、放置すれば一瞬で崩れます。

だから経営者が、最後に立つのです。5Sの最後が「躾」なのは、最後に責任を負うのが経営者だからです。

ここから逃げなければ、工場を右腕役や現場キーパーソンに任せられる。ここを避ければ、永遠に現場から卒業できない。どちらを選びますか?

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、躾の意味を理解しているので、新たなルールをつくったらきちんと守る

衰退する現場は、新しいルールができても自分で勝手に解釈して守らなくてもいいと考える