「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して— 品質管理は儲けに関係ない金食い虫なのか?

「品質管理は儲けと関係がないと会長は考えているのです」

 

先日、中堅素材メーカーの2代目経営者から個別相談を受けました。

異業種出身で、先代から事業を承継し、必死に5年間走り続けてきた経営者です。事業を豊かに成長させたいという強い覚悟が感じられます。

 

現場を回り、数字を見つめ、社員と対話を重ねる中で、ようやく事業全体を俯瞰できるようになりました。そして今、改めて自社の事業構造そのものを見直したいと考えるようになったのです。製造業の専門知識も詳しい人から学べばいいと考えています。

 

その中で「品質管理」の位置づけが話題にあがりました。

 

これまでの5年間で、品質問題が経営に与える影響は小さくないと感じてきたのです。クレーム対応に追われる時間、信頼回復の労力、現場士気の低下・・・。

品質は単なる現場課題ではなく、経営課題だと痛感しています。だからこそ、この経営者は体系を強化したいと考えるのです。

 

しかし会長は言います。「品質管理はいくらやっても儲けにつながらない」と。

 

経営トップ層のベクトルが揃わなければ、全社一丸も製販一体も成り立ちません。経営判断の前提が揃っていなければ、現場は迷います。

会長に何を理解してもらえばよいのか。品質管理をどんな視点で捉え直せば、会長との議論を前へ進められるのか?経営者はそのことに戸惑っているのです。

 

明確な切り口があります。

 

 

 

 

 

●製造現場で優先させなければならない2つの項目

 

会長は「品質管理はいくらやっても儲けにつながらない」と考えています。結論から言えば、この言葉は半分正しくて、半分間違っています。

 

製造現場で、何があっても優先させなければならない項目が2つあります。

安全と品質です。

 

これは精神論ではありません。安全衛生をないがしろにした職場に、良い人材は定着しません。安心して働けない現場で、従業員が力一杯になれないのは当然です。

工場見学に来たお客様は、その空気を鋭く感じ取ります。「この会社に任せて大丈夫か」という判断は、図面より先に、現場の空気で下されるのです。

現場も大事な営業パーソンの役割を果たします。

 

また、品質も同じです。品質は生産3要素のひとつであり、仕様を守ることはお客様との約束そのものであり、遵守して当たり前と考えられます。

我が社でできるかできないかという次元の問題ではありません。死守しなければならないのです。こちらの都合で緩められるものではありません。

 

 

 

ただし、ここに落とし穴があります。

安全も品質も、やればやるほど安心度は高まるものでするものです。しかし、ここまでやればOKという明確な目安もありません。

そして、同時に、コストも上がります。安心度は高めたいのはやまやまですが、安全衛生対策も品質対策も、ただではできないのです。

 

たとえば、品質管理で考えてみます。

経営者は不具合品を絶対に社外へ流出させたくないと考えるものです。そこで、最終検査の人員を増やす、検査回数を増やす、こうした手を打ちます。

こうすれば、経営者は安心できるのです。しかしコストは確実に上がります。

そして品質が守られたからといって、お客様は、その分を価格に反映してくれるとは限りません。品質は守られて当たり前だからです。

 

この意味で、会長の言葉「品質管理はいくらやっても儲けにつながらない」は正しい面があります。品質管理を「造ってしまった品質不具合品を見つけて抽出する手段」として捉える限り、それは金食い虫に見えてしまうのです。

負の要因を抑え込むだけで、儲けが積み上がる感じがしません。

 

品質管理を検査体制の厚みだけで語ると、議論は必ず行き詰まります。論点は検査を増やすか減らすか、そこではありません。

品質管理の位置づけをどこに置くのか、そこに本質があります。次の2つの考えを対比させると、中小製造企業の品質管理が見えてくるのです。

・品質不具合品の発生を前提に、後工程で、その品質不具合品を抽出すると考える

・そもそも、品質不具合品を発生させないと考える

 

この違いは、同じ「品質管理」という言葉を使いながら、経営上での意味づけを大きく変えてしまいます。ここを整理しなければ、この企業で、会長と社長の議論は平行線のままです。

視点を変えた瞬間に、品質管理も、儲けを積み上げる役割へと姿を変えます。

 

 

 

 

 

●品質管理は儲けに関係ない金食い虫か?

 

品質管理は儲けに関係ない金食い虫なのか?

儲けにつなげる品質管理はないのか?

これは、小数精鋭の中小製造企業経営者へ、品質管理の本質を問いかける言葉です。

 

大手製造企業であれば、最終検査の人員数を増員する、検査回数を増やす、といった対応を取りやすいかもしれません。しかし、これらは、大手であってもコストアップ要因です。だから、大手であっても、品質管理で儲けを積み上げるやり方を必死に考えています。

 

 

「品質不具合品を社外に流出させない」という考え方には、前提条件があります。品質不具合品の発生を前提としていることです。造ってしまった不具合品を見つけて、ピックアップすることに手間ひまを掛けます。

 

手間ひまをかけるので、コストが発生するのです。つまり、品質管理が「後工程のフィルター」になっている限り、議論はどうしても「検査を厚くするか薄くするか」に収束されます。

そうであるなら、そもそも品質不具合品を造らない、と考えればいいのです。

造ってしまった不具合品を見つけてピックアップする必要がなくなります。品質管理を「そもそも、品質不具合品を造らない手段」と捉えた瞬間に、品質管理の役割が変わるのです。

 

 

 

そもそも、品質不具合品を造らないようにするには、製造前が勝負になります。

品質不具合品を造らない造り方を、製販一体で事前に議論し、作戦を立てるのです。製造現場には、長年積み上げたノウハウがあります。

失敗事例を振り返れば、新規製品を製造する要点が浮かびます。過去トラを紐解けば、各工程での品質管理ポイントが明らかになるのです。

各工程で留意すべきことをチームで議論し確認します。

 

そうすれば、製造時に、管理ポイントを外した事象に出会えば、感度高くそれに気づけます。仲間と一緒に確認した要点だからです。

事前に仲間と作戦を立てたから、嫌でも気になってきます。仲間のためにも、管理ポイントを外した事象が気になるのです。

自分の工程で品質不具合品を見つけたら、原因を究明し、その場で対策したくなります。

 

「そもそも品質不具合品を造らない」と考えると、営業担当者にも求められる仕事があるのです。過去トラを紐解けば、我が社で作りやすい形状、仕様に気づけます。

そこで、お客様に相談し、少しでも我が社でつくりやすい形状、仕様に変更してもらうことをお願いしたくなります。つくりやすい形状、仕様に変更してもらえば、現場は感謝です。

 

これらは、いわゆる設計力の強化です。

付加価値額を積み上げる製品を企画、開発、設計することにつながります。高くてもお客様が喜んで買ってくれる製品を考えることにつながります。

つまり、「そもそも、品質不具合品を造らない手段」と捉えた瞬間に、その品質管理は付加価値額を積み上げる役割を担うのです。良い設計は儲かる値決めにつながります。

品質管理は儲けに関係ない金食い虫ではなくなるのです。

 

会長による「品質管理はいくらやっても儲けにつながらない」という解釈の半分が間違っている所以が、ここにあります。

 

 

 

 

 

●経営者視点の儲かる品質管理

 

経営者は、品質管理の二つの顔を理解した上で、どちらに軸足をおくのか、そのバランスを決めなければなりません。大手と違って中小の経営資源には制限があります。

検査で守る品質か。設計で創る品質か

前者は安心を与えますが、それだけです。後者は、時間もエネルギーも必要ですが、会社の体質そのものを変えます。

 

品質管理を「コスト」と見るか、「競争力」と見るか。

品質管理を「守り」と見るか、「攻め」と見るか。

 

この認識の違いが、5年後、10年後の貴社の姿を決めます。品質管理は金食い虫ではないのです。

品質は守って当たり前。だからこそ、その当たり前を、どう実現させるかが、経営者の仕事なのです。品質管理を検査部門の仕事で終わらせるのか。それとも、製販一体で付加価値を積み上げる装置に昇華させるのか。

経営者の決断が、事業の成長速度を決めます。

 

 

品質管理で儲ける仕組みをつくっているか?

その問いに、真正面から答えられる経営者だけが、次の成長ステージへ進めるのです。

 

品質問題は、現場の失敗ではありません。それは、経営者による品質管理に対する姿勢の結果です。検査を増やすか、設計を変えるか。

それは現場の判断ではなく、経営者の覚悟の問題です。品質管理を「儲けの構造」に変えられるかどうかは、経営者の決断にかかっています。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、品質管理を儲けを積み上げる手段と考えるので設計力と競争力を高める

衰退する現場は、品質管理を流出防止策と考えるので儲けにつながらないと考える