「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第522話 なぜ、設備を増やす前に「価値稼働時間」を見なければならないのか?

●セミナーで出された質問

 

「私の現場は、化学プラント系の工場なのですが、この指標を使えますか?」

 

あるITツール販売企業から依頼を受けたセミナーでのことです。説明を終え、受講者へ質問を促したところ、冒頭の問いが出されました。

 

設備投資の効果を高める要点を解説するセミナーでした。要点のひとつが「ロスの把握」です。ロスを把握できていれば、設備が実際に生み出した出来高を評価できます。

 

設備は、動いていればいいわけではありません。お客様へ届けられる出来高を積み上げられなければ、稼働していても付加価値は増えないからです。

それを評価する代表的な指標が、設備総合効率(OEE)です。

 

設備総合効率は、日本プラントメンテナンス協会がTPMを開発、普及する中で生み出した指標です。同協会はTPMを、工場や設備に潜むロスをなくし、生産性を高めるためのマネジメントシステムと位置付けています。

主な対象は、自動化ラインを中心とした製造業やプラント産業です。

 

化学系プラント、食品・飲料の充填ライン、自動車部品の加工ライン、自動組立ラインなどがその典型です。工程が連続しているため、一つの設備停止や速度低下が、ライン全体の出来高へ響きます。

OEEは、こうした現場で設備能力がどれだけ生かされているかを捉える指標です。

 

 

 

質問をした受講者の職場は、まさにOEEの活用が想定されている化学プラント系の工場でした。それにもかかわらず、「自分の現場でも使えるのか」という疑問が出ました。

指標の説明は理解できても、自社で具体的に、何を出来高と捉えるのか。どのデータを使い、どのロスを拾えばよいのか。

出来高の定義や、集めるデータ、捉えるロスまで自社の仕事へ置き換えられなければ、現場で使える指標や考え方にはならないのです。

 

これは珍しいことではありません。

新しい指標や考え方を導入すると、定義は理解できても、自社へそのまま当てはまらない部分が出てきます。その部分をどう扱うかが示されなければ、導入の話は先へ進みません。

もともと対象とされている業界であっても、実際に現場で使うには、こうした具体化が大事なのです。

 

本来使えるはずの指標を前にして、なぜ、質問者は自分の現場への適用に壁を感じたのか?社長が現場へ新しい考え方を伝えるとき、定義を教えるだけでは足りない理由がここにあります。

 

 

 

 

 

●そのままズバリ適用できない場合がある。

 

新しい指標を現場へ導入するとき、定義と計算式を説明しただけでは使えるようになりません。今回の受講者が感じた壁も、OEEそのものが難しかったからではありません。

指標の考え方を、自社の設備、製品、データへどう置き換えるのか、そこまで示されていなかったのです。

 

OEEは、設備の持ち時間のうち、どれだけを価値を生む時間として使えたかを見る指標です。

時間稼働率、性能稼働率、良品率の三つから計算します。計画どおりにつくれなかった理由を、「時間を失った」「速度が落ちた」「良品が残らなかった」の三つに分けます。

 

例えば、8時間動かす計画だった設備が、故障、段取り替え、材料待ちで6時間しか動かなければ、2時間を失っています。

設備は動いていても、チョコ停や材料供給の遅れで予定した速さが出なければ、速度が落ちています。

不良や手直しが発生し、お客様へ届けられる良品が減れば、良品が残っていません。

 

出来高が足りないと、社長は設備能力が不足していると考えがちです。しかし、本当に能力が足りないのでしょうか。

止まっている。

遅く動いている。

つくり直している。

こうしたロスを抱えたまま設備を増やしても、新しい設備でも、同じロスが繰り返されます。設備投資の前に、今ある設備能力を、どのロスで失っているかを確かめなければなりません。

 

 

 

OEEの説明では、製品を個数で数える例が多く使われます。

しかし、化学プラントでは液体を流量で捉え、気体なら体積で捉えます。個数で数えられないから使えないのではありません。自社の正味の出来高を何で表すかを決めればよいのです。

 

また、必要なデータも現場によって変わります。設備停止だけではありません。油圧、流量、エア圧、温度、速度、不良数などから、ロスの兆候を捉える必要があります。

そして、データは集めればよいわけではありません。

チョコ停や短時間停止は拾いにくい。人手で集めれば、集計が翌日や翌週になる。入力や転記の負担が大きければ、やがて続かなくなります。

何を、どの細かさで、どのように集めるのか、現場の負担を踏まえて決めることが大事です。それがなければ、指標は日常業務へ定着しません。

種々のデータを定義式に基づいて正しく、継続的に集めるには、応用力も問われます。そのままズバリ適用できない場合もたくさんあるのです。

 

また、OEEの考え方は、設備主体ではないラインにも使えます。

例えば、お惣菜の盛り付けラインです。材料待ちは時間のロスです。容器や食材の置き方が悪く、予定した速さで盛り付けられなければ速度のロスです。重量違いや見栄え不良が出れば、良品のロスです。

設備と人では、停止や基準速度の決め方は異なります。それでも、出来高不足を三つのロスに分けて考える方法を応用すれば、OEEの本質を維持しながら、この考え方を使えます。

 

新しい指標を導入するとは、定義をそのまま現場へ当てはめることではありません。本質を理解し、自社の仕事に合わせて使い方を変える。ここで、応用力が必要になります。

社長が現場へ教えるべきなのは、計算式の使い方だけではありません。そのまま使えないときに、どう応用するかという判断基準です。

 

 

 

 

 

●設備を買う前に、今ある能力を引き出しているか

 

社長が設備投資を判断するとき、確認すべきなのは、設備が何時間動いたかだけではありません。お客様へ届ける良品をつくり、付加価値を生み出すことに貢献した「価値稼働時間」です。

 

設備の持ち時間のうち、どれだけを価値稼働時間として使えたかを示します。「稼働しているように見える」ことと、「価値を生んでいる」ことは違うのです。

 

設備投資の効果を評価する計算のひとつに、投資回収年数があります。

投資回収年数 = 投資金額 ÷ 年間効果金額

投資金額を、設備投資によって1年間に新たに生み出される効果金額で割ります。何年で投資資金を回収できるのかを見る計算です。

 

年間効果金額は、増加した良品数量に、1個当たりの付加価値額を掛けて求めます。

年間効果金額 = 増加良品数量 × 1個当たり付加価値額

 

では、増加良品数量は何によって決まるのでしょうか。設備投資によって増える価値稼働時間を、標準サイクルタイムで割ることで見通せます。

増加良品数量 = 増加価値稼働時間 ÷ 標準サイクルタイム

 

 

 

設備投資によって価値稼働時間が増える。その時間で良品をつくる。増えた良品が付加価値額を生み出す。その良品が付加価値額を生み出し、投資資金の回収につながります。

つまり、価値稼働時間で投資金額を回収している。

これが、設備投資の基本構造です。

 

設備を買ったことが成果ではありません。

また、設備能力を増強したことだけでも、成果とは言えません。

投資によって、付加価値を生み出す時間をどれだけ上乗せできたか。ここまで見なければ、投資効果は判断できないのです。

 

だからこそ、設備を買う前に、どれだけ価値稼働時間を増やせるのかを確かめなければなりません。その前提となるのが、日頃からロス要因を見えるようにしておくことです。

止まっている時間を減らせないか。

予定した速度を出せない原因は何か。

不良や手直しで失っている時間はどれだけあるか。

今ある設備のロスを減らせば、価値稼働時間を増やせることがあります。

その結果、当初考えていたほど大きな設備能力は必要なく、より小さな投資で足りることもあるのです。

 

 

 

社長は右腕役へ、OEEの計算方法だけを教えるのではありません。

何を出来高と捉えるのか。どのロスを把握するのか。どのデータを、どの細かさで集めるのか。現場の仕事に合わせて考える判断基準を伝えます。

 

データ収集も、現場の努力頼みでは続きません。

入力や転記を増やさず、日常業務の中で無理なく取れる方法を考える必要があります。集めた結果は、できるだけ早く現場へ返します。

自分たちが記録したデータによって、停止、速度低下、不良の正体が見えれば、現場の人たちも、データを集める意味を理解できます。

採点されないテストには、関心を持つ人はいません。

 

データを集めさせるだけでは不十分です。

結果を返す。

改善へつなげる。

変化を評価する。

そこまで続けて、初めて指標は現場の日常業務へ定着します。

 

 

 

新しい指標や考え方は、そのままズバリ使えないことがあります。

そこで「自社には合わない」と終わらせるのか。本質をつかみ、自社の仕事へ応用するのか。この違いが、設備投資を儲けへつなげられるかどうかを分けます。

今ある能力を引き出したうえで、それでも足りない能力へ投資する。社長が持つべき設備投資の判断基準は、ここにあります。

工場実装とは、社長の判断基準を右腕役や現場キーパーソンの日常業務へ定着させることです。

 

設備を増やす前にロスを見よ。価値稼働時間こそ、投資金額を回収する本当の力になる。