「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第61話 下請け型企業が独自性を目指す前にやるべきこと
貴社は、独自性を追い求める前に、下請け型の事業を極めましたか?
「もし、顧客からの依頼を全て受けられたら、あと2割は売り上げを伸ばせます。」
生産性向上のご相談を寄せられた企業の経営者の言葉です。
鋼を中心としたアルミや銅などの金属の切削加工やプレス加工を事業の柱としている金属加工メーカーです。
地元密着型の企業で、いくつかの特定企業との強いつながりで仕事を確保しています。
典型的な下請けタイプの企業です。
生産性を向上させて、機会損失をなくしたいというのが、企業様の要望事項でした。
せっかくの依頼案件も、生産能力が追い付かないために断る場合が多々ある状況です。
現場には、3つの流れがあります。
物とお金、そして情報です。
生産管理の視点で、3つの流れをチェックします。
その企業様では、情報の流れにボトルネックがありました。
ここを解消すると、現場のノウハウを結集させられ、生産性向上につなげられそうです。
コア技術は、固有技術と管理技術からなります。
この企業様のボトルネックを解消するキモは、管理技術にあったわけです。
さて、この企業様の強みのひとつに、顧客と強い関係性を構築したことがあげられます。
既存顧客からの依頼案件を全てこなせれば、売上高が現行対比で20%upする見込みがあるというのです。
生産能力以上の需要を常時、確保できています。
これは、顧客との信頼関係が強固である証左といえます。
信頼関係の構築に王道はありません。
経営者の話を伺うと、顧客となる企業の担当者のところへ足しげく通い、顔を出しては仕事に関連した情報を聞き出しているとのことです。
この話を耳にして、機械加工職場の管理者を担っていたとき、現場リーダーといっしょに、数か月間、顧客先を回ったことを思い出しました。
赤字が続き、黒字化が大きな目標だった職場での活動です。
生産性向上とともに、売上の積み上げも重要な施策でした。
現場リーダーといっしょに顧客先を回り、新たな案件の獲得に動いたのです。
客先回りで意識したのは、次の2つです。
・毎週、同じ時間に出向く
・影響力の大きい担当者に集中する
こうして情報を引き出しやすい環境を客先に整備しました。
技術で戦うモノづくりは、科学であり、工学です。
感情が入る余地はありません。
しかし、モノづくりで商売をするとなると、それだけでは不十分です。
客先との強固な人間関係の構築も忘れてはなりません。
中小製造企業が目指すべき戦略のひとつに、”脱下請け”があります。
これを目標に掲げて、奮闘している経営者は少なくないでしょう。
親会社に依存することをやめ、主導権を持って独自の事業を展開するのです。
下請け型の仕事では、自社が提供する製品の単価は、親会社の原価の一部としか評価されない場合があります。
付加価値創出・拡大への貢献度が高くないときがそうです。
これでは利益率も低いままで、儲かりません。
この場合、単価の決定権は、当然、親会社にあります。
薄利多売に陥ります。
また、値決めに加え、仕様や納期の決定権も親会社にあるということも少なくありません。
親会社に、生産3要素の決定権を全て握られています。
下請け企業は、独自性を発揮する余地が無い状態です。
市場が右肩上がりで拡大し、親会社の発展も約束されていた時代であるならば、親会社とともに成長する戦略も間違いではありません。
しかし、今はどうでしょうか?
大きな変化の時代を迎え、不確実性の高まっている昨今、従来型の下請け企業は、生殺与奪権を親会社に与えていることになります。
そこで、値決めの決定権を自社に取り戻すべく、”脱下請け”を目指すのです。
自社独自の製品を開発し、直接に市場と向き合って、自ら販売に乗り出します。
これは、中小製造企業が目指すべきひとつの方向です。
しかし、その前に、下請け企業には、やるべきことがあります。
下請け型を極めたか?ということです。
下請け型では、通常、競合が多い環境にさらされます。
したがって、行き着くところは価格競争です。
なにせ、貴社の製品単価は親会社の原価の一部を構成しているのに過ぎないのですから。
従来のやり方ではダメです。
そこで、まずは、圧倒的なQCDを目指し、競合を凌駕するのです。
そうして、価値を客先に認めてもらいます。
単価以外の要素で、客先へ新たな価値を届けるのです。
着眼点は2つ。
短納期と多品種です。
客先の期待を上回る成果を提供すれば、顧客は、それ自体に価値を見出してくれます。
それとともに、顧客企業の担当者と強固な人間関係を築くのです。
システムは組織的に機能しますが、受注の意思決定は個人的、感情的なところで作用することも少なくありません。
下請けタイプは原則、受注生産です。
安定した事業を展開するうえで、顧客企業担当者とのアナログ的な人間関係が重要な役割を果たしていることにも留意します。
これは、受注生産全般にも当てはまることです。
先の企業様も、経営者が既存顧客のところへ熱心に足を運んで信頼関係を築き、安定した受注につなげました。
こうしたアナログ的な対応も忘れてはなりません。
下請け型企業にとって、”脱下請け”は、豊かな成長のためには欠かせない戦略です。
ですから、独自性への挑戦は絶対に欠かせません。
ただし、その前に、やるべきことがあります。
下請け型を極めたか否かです。
1)競合を凌駕するほどのQCDに挑戦をしたか?
2)顧客企業の担当者と強固な人間関係を築き、有利に事業を展開する環境を整備したか?
モノづくりは科学ですが、商売には感情も影響してきます。
顧客企業との関係性を強化することも大切なのです。
下請け型も極めれば、強力な武器になります。
その取り組みの延長線上に、独自性への挑戦があると考えるのです。
下請け型の企業では、まず、足元の強化を考えて下さい。
下請け型と言えども、これまで綿々と積みあげてきた経営資源場あるはずです。
まずは、これらの最大化を目指します。
そうして、値付けの決定権を取り戻すのです。
独自性の追求はその後でも遅くありません。
顧客企業の担当者と、密接な人間関係を構築するしくみを作りませんか?