「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第66話 ルールや決まり事を現場へ定着させるにはどうするか?

貴社の現場では決まり事やルールが定着していますか?

 

生産3要素の観点から、現場には多くの決まり事、ルールが設定されています。

品質管理の観点から、工程内検査や自主検査を決まり事としている現場もあるでしょう。

原価管理の観点から、原材料や補助材料の発注点や発注量について、ルールを決めているかもしれません。

さらに、生産管理の観点から、・・・。

 

このように、経営者は、生産の流れをコントロールするために情報を現場へ流しています。

経営者は、モノの流れやお金の流れを、直接、管理することはできません。

経営者は、「情報」を通じてモノの流れやお金の流れをコントロールしているのです。

 

一時的な伝達事項に加えて、恒久的にやらせたい伝達事項もあるはずです。

それが、現場のルールや決まり事となります。

 

ですから、ルールや決まり事とは、現場で恒久的にやってもらいたいと意思表示した事項なのです。

そして、あらゆるルールや決まり事の目的は、生産性を高めることであり、それは、最終的に利益へつながっています。

経営者の目的が利益である以上、当然のことです。

 

 

 

 

 

機械加工を主とした現場で管理者の仕事をしていたころの話です。

受注案件のなかに、規格品受注生産をしている大型部品がありました。

 

それは、地元企業からの継続的な依頼案件であり、その企業の現場で使っている大型切断機の刃をメンテナンス加工するものです。

その案件は、当時の時点ですでに10年以上の依頼実績があり、安定収益に繋がる重要な製品でした。

ベテラン従業員の技能が生かされた付加価値額率の高い案件です。

 

あるとき、その企業から相談がありました。

メンテナンス加工後の寸法精度を保証する部位を複数個所、追加して欲しいとの依頼です。

 

それまでも、数か所で加工寸法を計測、その結果を添付して納入していました。

その計測箇所を、複数個所増やして欲しいというのです。

ただし、これには、計測技術上の問題がありました。

 

これまでは、手持ちのノギスやマイクロメーターを当てれば計測できていました。

しかし、要望された計測箇所のなかに、容易に計測できない部位があったのです。

 

現場からも、「これは、無理だ!」との声を上がりました。

計測するのに時間がかかり、他の業務へ支障が出そうだと現場は判断したようです。

 

そこで、私は、現場へ、この案件に対応する意義を説明することにしました。

依頼先が、製品の加工精度高めるためにウチに頼ってくれていること。

利益率の高い案件であり、今後も、継続して受注できる状況を作りたいこと。

したがって、なんとか依頼先の期待に応えたいこと。

だから、全員でこの案件に知恵を絞って対応しよう!

今というよりは、将来への種まきが目的であることを説明したのです。

 

 

 

 

 

その後、ベテラン従業員を中心にして、新たな対応方法を考え出してくれました。

1)特定部位を計測するための冶具を作製し、寸法計測時には、それを使用する。

2)計測の信頼性を高めるため、計測するための冶具も定期的に寸法検査する。

特に2)では、第三者が計測精度に影響する冶具の部位を計測するようにしたのです。

 

こうした対応を依頼先へ提案、了解してもらい、実践に移していきました。

特に、2)の決まり事がカギとなる取り組みでした。

 

 

 

 

 

三次元測定機を持っていれば、問題なく計測できる部位でもありましたが、そうした計測機器は持っていませんでした。

したがって、知恵で乗り切らなければなりません。

 

また、確実に工数増となりましたが、その分の単価アップを顧客へ要求しませんでした。

この案件に関しては、どこよりも丁寧に対応することを顧客へ訴え、その案件を継続してウチに依頼したくなる土壌作りの方を優先したかったのです。

 

つまり、現場での対応は、全て「将来の利益」のためでした。

これをやりきることで、寸法精度を高めたい顧客の信頼を獲得し、安定した収益につながる当案件を継続的に受注したかったのです。

 

ただし、現場の「現在の利益」には貢献しません。

それでも、計測効率を高めることが必要であり、寸法保証で冶具の計測も必要なのです。

「将来の利益」のためだからです。

 

特に2)の決まり事は、設定した背景を明確にしておかないと、長期的には、あいまいな対応に至らないとも限りません。

そこで、「将来の利益」に対応した決まり事である旨を明記した作業標準書を作成し、現場へ説明しました。

現場に、作業目的が「将来の利益」にあることを知ってもらうためです。

分かれば現場の納得性も高まります。

 

 

 

 

 

中小現場の経営者が抱える課題のひとつに、ルールや決まり事の定着化があります。

仕組みの構成要因となるルールや決まり事が現場へ定着しない状況を絶対に放置してはなりません。

いざ、現場改革を推進しなければならない状況に直面したとき、経営者の想いが浸透しない問題に直面するのは火を見るよりも明らかだからです。

 

ルールや決まり事が定着しない現場の問題点のひとつに目的の未提示があります。

そのルールや決まり事の背景が、現場へ浸透していないのです。

 

現場のあらゆるルールや決まり事は、すべて利益につながっているはずです。

そして、経営者は、ルールや決まり事という「情報」を手段として、現場をコントロールします。

 

したがって、ルールや決まり事が現場へ定着しないということは、利益を獲得したい経営者の想いが現場へ浸透していないため、経営者が現場をコントロールできていないことを意味しているのです。

 

ですから、ルールや決まり事が現場へ定着しない問題に直面したら、その目的を現場へ明示して下さい。

そして、その目的をたどれば、必ず「利益」にたどり着きます。

 

「現在の利益」へ貢献する。

「将来の利益」へ貢献する。

どちらかの利益に必ず貢献しているはずです。

そのことを現場へしっかりと伝えて下さい。

そうでなければ、そもそも、経営者がそのルールや決まり事を設定するはずがありません。

 

現場からやる気を引き出すポイントのひとつに「大きな目的」を示すというのがあります。

目的が不明確な仕事は、現場へ定着しませんし、その作業自体が目的化されます。

 

「大きな目的」を知った現場は、経営者の想いを理解して知恵を絞ろうとするのです。

経営者は情報を手段にして、生産の流れをコントロールしていることも思い出して下さい。

 

ルールや決まり事が利益につながっていることを現場へ明示する仕組みをつくりませんか?