「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第95話 経営者の見通しが改善活動を活気づかせる
改善活動のための改善活動をやっていませんか?
利益のでる改善活動、お金を生み出す改善活動のことを考える度に、改善活動のご相談をいただいたある電子部品メーカーのことを思い出します。
弊社が起業してまもなくのころでした。
弊社のHPをご覧になって、2名の経営幹部の方が個別相談に来られました。
「改善活動で成果がでなくなってきたので、なにか新しいやり方がないか考えています。」
その経営幹部が所属しているのは、中規模企業に分類されますが、限りなく大手に近い中堅企業でした。
一般的に言われることですが大手企業は、いわゆる”仕組み”で仕事をしています。
売上規模が1億円、10億円と大きくなっても、属人的な仕事のやり方をやっていては成長も頭打ち、行き詰まります。
従来の仕事のやり方では、そもそも成長することはできず、単に組織が”肥大”するだけ。
成長と発展には、人に頼った仕事のやり方ではなく、判断基準が明文化された、ルールによる仕事のやり方が欠かせません。
ルールは改善できるからです。
一方、”人”はそう簡単に改善できません。
伊藤の経験を踏まえて、仕組みづくりの重要性をお伝えしている所以です。
さて、ご相談にこられた企業は大企業に近い中規模企業であり、その現場で展開している現場活動のやり方を伺うと、しっかり体制をつくり、やられていました。
改善活動の事務局を設置しているほどです。
活動を始めた当初は活動も活発で成果が出ていました。
しかしながら、最近活動が”停滞”してきたというのです。
仕組みも使っていくうちに機能不全を起こすことがありますから、それ自体を変える努力も継続しなければなりません。
この企業もまさにそうした状況に直面していたと推察されました。
当時、このご相談を伺いながら、気になったことがあります。
既視感があったのです。
伊藤が経験した中小の現場で改善活動が上手くいかなかった時の状況に類似していました。
経営者および経営者層が現場のベクトル合わせにどれだけ力をつぎ込んでいるだろうか?
経営者の見通し、想いを現場の数字へ翻訳するまで工程指標を分析し、それを通じて現場でやるべきことを熱く伝えているだろうか?
取り組みの継続性は、全て、経営者や経営者層の熱意次第です。
どんな取り組みでも、それを開始した時点では、意外と上手くいくものです。
活動自体の新しさや現場の興味があるうちは続きます。
しかし、時間経過とともにその効果は薄れるものです。
したがって、ここからは経営者や経営者層の熱意次第となります。
「なにをやってもらえますか?」
その企業の経営幹部は「改善活動サービス」パッケージ商品を探しにこられたようでした。
現場へ新たな改善のやり方を提示し、それをやらせれば停滞していた活動に活気を取り戻せるのではないかと考えたようです。
大手教育機関にこうしたサービスがあります。
改善活動の手順を示して、それにしたがって活動を進めれば成果に至るという商品です。
こちらとしては、問題解決の論点はそこではなく、経営者および経営者層の改善活動に対する想いとそれを具現化した仕組みにあると考えていましたから、話がかみあうことなく個別相談が終わりました。
中小の現場管理者時代に同じようなやり方で上手く行かなかった経験があり、そのことが鮮明に記憶に残っています。
改善活動には教育的な側面があります。
現場が現場だけで議論をして結論を出し、それを実行し成果を評価する。
仕事の基本となるPDCAの行為も練習・訓練しなければできません。
今や現場も決められた作業を淡々とこなすだけの役割に始終する時代は終わっています。
現場も知恵を絞り良い職場作りの一員になって、仕事にやり甲斐を感じる環境整備を一緒に進めることが必要です。
ですから改善活動の教育的な側面に着目すれば活動それ自体にも意味はあります。
しかし、せっかくの現場活動です。
活動のための活動に終わるのはもったいないですし、経営者が望むのは、その活動が経営課題を解決するのに貢献して、その結果、お金を生み出すことではないでしょうか?
お金を生み出す改善活動こそ経営者が描く望ましい改善活動です。
”単なる”改善活動ではダメです。
利益を出す改善活動を現場へ定着させ、継続させるには、経営者や経営者層の改善活動に対するこだわりや想いを具現化する仕組みづくりが必要となります。
単に改善活動のやり方を現場へ指導すればいいという単純なものではありません。
利益の出ない、お金の生まない、継続しない、年に1度の発表会のための改善活動を中小の現場で目にしてきて感じることです。
では、なぜ、利益の出ない、お金の生まない、継続しない、発表のためだけの改善活動になってしまうのか?
最大の理由は、経営者の5年先、10年先の見通しと改善活動につながりがないからです。
この改善活動で成果を出せば、5年先、10年先の見通しへ〇〇のように貢献するとの具体的な因果関係が提示されなければ、現場は活動の本質を理解できません。
5年先、10年先の見通しを達成するには、△△が必要であり、そのためには□□をこうしたい・・・・。
見通し達成の具体策も提示することで、現場は経営者の想いを自らのことのように理解できます。
5年先、10年先の見通し、つまり経営者の想いと改善活動をつなげたいのです。
それ抜きに、改善活動の方法論にだけ焦点を当てても、現場からやる気を引き出すことにはなりません。
経営者の想いを現場へ浸透させる方が先です。
それ抜きでは、現場のベクトルも揃わず、一体感を感じる機会もないでしょう。
現場がチームとして機能することはありません。
ですから、経営者の想いが見通しとして現場へ示されていなかれば、現場活動はやっつけ仕事になってしまいます。
つまり改善活動のための改善活動の終わるのです。
改善活動は道具でしかありません。
道具である以上、その道具を使う目的や目標を大きく掲げ、現場へ浸透させることの方が重要なのです。
現場は活動の軸になる”錦の御旗”も求めています。
道具の使い方ばかり教えられても現場は燃えません。
現場は燃える対象を求めています。
改善活動では、まず、経営者は5年先、10年先の見通しを示して、それらを達成するために現場が具体的に何をすべきかを言葉と数字で表現して下さい。
しばしば目標は売上高〇〇、利益〇〇という数字を掲げられることがあります。
これはこれで素晴らしいことです。
数字で表すことで将来に向けて成長したい規模感が肌感覚で理解できます。
しかし、これだけでは不十分ですね。
作業者目線まで降りて、この数字を翻訳する必要があるのです。
生産リードタイムを〇〇まで短縮し、不良率と手直し率を〇〇まで低減し・・・。
経営者は5年先、10年先の見通しを経営者の想いとして、現場の工程指標にまで落とし込んで下さい。
弊社のコンサルティングはここをロードマップに仕上げるところから始めます。
利益の出る、お金を生み出す、現場が自律的に回す改善活動の初手はこれです。
活気ある改善活動には経営者のこだわり(見通し)がかかせません。
これで経営者の想いを現場へ浸透させます。
見通しを工程指標に落とし込む仕組みをつくりませんか?