「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第9話 償却済みの古い汎用加工機を大切にしたい理由

%e5%9b%b3%ef%bc%92

生産効率を高めるためのにNCマシンを活用しつつ、機械加工の本質を体感できる汎用工作機械を大切に使い続けたい、という話です。

現場で汎用旋盤やフライス盤を使いこなせる若手人財はいますか?

汎用旋盤やフライス盤を今後も継続して活用することを考えていますか?

モノづくり経営者にとって、設備投資は重要な経営判断のひとつです。一方で、古くなった既設の汎用工作機械をどう処置するかも重要な意思決定となります。

 

機械加工現場の管理者時代、工作機械を1台増設する機会がありました。新たに立フライス盤を1台、設備投資で増設しようという計画です。

その職場は受注生産の形態であり、生産量自体は自らコントロールできる立場にはありませんでした。したがって、受注や納期が重なった時は人海戦術で乗り切るしかありませんでした。

こうした事業形態で問題になってくるのは、生産能力が受注のピーク時に対応できるか否かです。

お客様に対する営業的な働きかけや交渉によって受注の平準化が可能ならば対応策としては理想です。が、そうしたことが可能なケースはまれです。

ですから、事業で成長路線を描きたいならば、受注のピークに対応できる体制を整備することを優先しなければなりません。

受注減で余剰人員をどのように生かすべきかという課題よりは前向きのテーマであり、受注があるだけありがたい話ではあります。

一方で、増産体制を敷き、勇んで受注した案件で納期遅れを発生させる事態に陥ると信用失墜となり兼ねません。計画的に生産能力を向上させる手段を選択する必要があります。

そこで、受注のピーク時にどう対応すべきか、現場と一緒に考えました。

24時間交代勤務の連続操業体制を敷いていたので、既設のフライス盤の稼働時間を大幅に増やすことは難しい状況です。

結論として、設備を増設しようということになりました。

ここで、問題になったのは、新設すべき設備の仕様であり、それを使いこなす若手人材の育成でした。

・既設と同様な立フライス盤を新設するかべきか?

・今後、加工の高付加価値化のためにマシニングセンタを新設すべきか?

・そして、新設する設備を使いこなす若手人財をどう育成するか?

 

新設すべき設備仕様に関するベテラン作業者のコメントは下記でした。

「無駄な機能はいらないから、従来の立フライス盤を新設すべきだ。」

そのベテラン作業者は、30年以上、現場で加工一筋に技能を極めてきた職人です。主にこのベテラン作業者へ機種選択の相談をしていました。

「自動機は特別に不要であるし、従来の機種で十分ではないのか?」

現場のベテラン作業者も多種多様です。

その道一筋ですから、自分の極めた技能には絶対的な自信を持っています。(だから、こちらもそれを頼りにできるわけですが)

自分が持っている技能に対する自信が裏付けとなって”新しいモノ”に対してどちらかといと否定的な人。

逆にベテランでありながらも”新しいモノ”に対する好奇心が旺盛で、新たな技術導入に積極的な人。

つまり、”既存のモノ”と”新しいモノ”に対する関心の割合というか、配分が様々です。

当時、管理者として私自身が考えていたことは、”マシニングセンタの導入は不可避”ということです。目的は2つありました。

・若手人財の技能向上を急ぎ、進めなければならないから。

・異なるツールを複数必要とする複雑加工を短納期で対応できる体制を整備して高付加価値化を図りたいから。

後者の目的は、従来にはない需要にも対応できるようすることでしたから、緊急性が高い目的ではなかったのですが、複雑化するお客様からの要望に期待以上に対応するためにも、今後、必要であると考えていました。

相談相手のそのベテラン作業者はどちらかというと7:3くらいの割合で”既存のモノ”を優先すべきという考えでした。”新しいモノ”に対しては積極的ではないけども、全く否定しているわけでもない、という状況でした。

モノづくりはある意味で”科学”です。因果関係が明確な世界です。ですから、経験を重んじる現場の職人であっても技術には興味を持っています。

ベテラン作業者は、自分の目的とすることに役に立つか役に立たないかということにシビアに見てきます。

ベテラン作業者自身がモノづくりという視点で本質的な効果が得られると感覚的に判断したら黙っていても取り入れる。ですから単なる”自動化”とか”楽になる”ということが目的の設備にはあまり興味を示さない。

要するにその職場での”本質”に触れる目的が重要です。

いずれにしても設備投資の目的は受注ピーク時に対応できる生産能力を確保することでした。設備投資後、短期間でその設備を使いこなせる体制を構築しなければなりません。若手人財へ教育も必要であり、そのベテラン作業者には、従来にも増して指導者役で頑張ってもらわねばなりませんでした。

そこで、そのベテラン作業者と何度も意見交換して、将来構想を理解してもらうよう努めました。とにかく加工機を使いこなせる若手人財を増やさなければ、せっかくの受注機会を生かせないこと。今後、付加価値を高めるために、複雑加工を短納期で対応できる体制が必要なこと。

先を見通して、今、やるべきことを繰り返し説明しました。

意見交換を重ねた結果、そのベテラン作業者も若手人財への技能伝承は急ぐべきであるという見解を持っていることが分かりました。

ベテラン作業者というのは、自らの職制にかかわらず、自職場の将来を気にしてくれています。声を引き出すことがとても大切です。

結局、その職場で将来構想を実現させることを目指して、マシニングを導入することとなりました。

20名程度の職場でしたが、技能修得すべき若手人財は5~6名いました。

マシニングセンタを始め、各種工作機械のNCマシンのイイところは、かってのようにプログラム等の理解がなくても命令を入力できることです。

対話形式で対応できるのでコンピュータやデジタルデータに小さい頃からなじんでいる若手人財がマシンを稼働させる最初の1歩目の壁は高くはない。

まずは自分で動かしてみて、モノを作ってみることを経験させるということではNCマシンは効果的です。初心者でも動かせるぞという気持ちを早い段階で持たせることが可能です。

実際、現場の若手人財にマシニングセンタを使いこなすことに興味があるか?と尋ねたところ全員が、「やってみたい」との答え。面白そう、という声もあり、自らの技能を上げることに興味を示さない若手はいない、皆、前向きに頑張りたいと考えるものだとの思いも強くしました。

そこで、若手人財の中で少々、立フライス盤を扱える1名を指名してマシニングセンタ導入後、メーカー指導を受け入れる業務を担当させました。その若手人財を核にして他の若手メンバーへ使い方を伝えるわけです。

この流れをベテラン作業者に支援してもらいます。

ベテラン作業者にはフライス加工の本質を若手人財に教えもらい、マシニングで使用すべきツールの選択の仕方等、ノウハウの教育をお願いしました。

1台のマシニングセンタを新たに導入し、3ケ月後には、対象となった若手人財が全員、その設備を稼働させることができるようになりました。

その結果、受注ピーク時でも、通常対応できるだけの生産能力に引き上げることを目論見通り実現させました。

そして、引き続き、若手人財に加工技術の”本質”を理解させるため、立フライス盤での加工技術習得を急ぎました。

切削加工を始め機械加工と言われる分野では5感で”加工”を感じることが大切と言われます。音や振動、切り粉の色、切削油のにおいや等々。これらは加工品質と相関のある現象であり、工学的に現象を説明するためのカギとなる”情報”でもあります。

私も現場に教えてもらいながら、鋼に基準にして、鋳鉄や銅などを旋盤加工した経験があります。たしかに、機械本体から伝わってくる振動の具合や切削時の音が異なるのを感じた経験があります。

まさに体感です。

こうした経験と知識が結びついてノウハウとなるわけで、機械加工の場合、汎用旋盤や一般のフライス盤や研削盤は加工の本質を学ぶのに効果的な設備でもあると言えます。

一方でマシニングセンタはじめ多くのNCマシンは自動稼働での安全性を確保するためにワークやツール部はカバーがかかっていることが多い。安全を考えたら当然の処置ではありますが、加工を5感で感じる機会を減らすことにもなっています。

ですから、機械加工を若手人財に修得させるためには、NCマシンと汎用機の両者をバランス経験させることで、効果的なノウハウの積み上げができると考えています。

加工の本質は汎用機での経験がなければ理解ができないという意見もあり、それは正しいです。しかし、若手人財の”興味”という側面から考えるとNC機で簡便に稼働させる経験をさせることもまた重要なこと。

汎用マニュアルマシンで本質を学び、NCマシンで稼働させる経験を積ませる。両者をバランスよく学ぶ場を提供することが若手人財の育成に欠かせないと感じています。

ところで、汎用の機械加工機に関連して、昨今、問題があるようです。

それは、汎用工作機械を製造するメーカーが減少しつつあるらしいとのことです。取引先としてお世話になったK産業の社長さんから下記のことを言われたことがあります。

「汎用機械を国内で入手することはだんだん困難になってくるかもしれません。なぜなら、工作機械はNC化へ進み、汎用旋盤などは中古品しか出回らなくなる可能性があります。そもそも汎用工作機械を製作できるベテラン技術者、技能者もいなくなっているようですから。新規設備の場合、汎用機の方がかえって価格が高いくらいです。」

数年前の話であり、状況がどのように変化しているかわかりませんが、新規の汎用機を入手するのは価格的にも難しくなっているかもしれません。

小さな部品であるなら自作ですべし、ということで汎用旋盤やフライス盤をお持ちの現場も多いと思います。機械加工はモノづくりの基本中の基本のひとつと言えます。こうした技能を現場へ確実に残し、維持することは地味ながら極めて重要です。

ですから、汎用の工作機械は大切に使い続けたいです。

経理上の償却が終わっていようと終わっていまいと、そうしたことには関係なく、汎用工作機械は機械加工の本質を体感できる設備として現役で使い続ける工夫をしたいです。

情報通信技術が発達し、ロボットが進化したとしても、重視すべきはモノづくりの本質ではないでしょうか。

そして、こうしたモノづくりの本質に触れる機会は、自動化が進むにつれて減っています。

自動化の進んでいない設備、汎用機でこそモノづくりの本質を理解できる場合があることに注目します。

ちなみに、気が付いたら、現場のベテラン作業者も知らないうちにマシニングを使いこなしていました。

モノづくりの本質さえ修得、理解していれば、その技術を自動であろうが、ITであろうがそれでもって活用することは可能であるということです。

ITにいくら詳しくても、モノづくりの本質を理解していないと生かしようがないわけで、逆はあり得ません。

モノづくり現場へIOTを導入するときの留意点は、汎用機械とNCマシンの使いこなし方への配慮に類似しているようです。

自社工場におけるモノづくりの本質が、現場のどこに、どのように存在しているのか見定めることが重要です。モノづくりの本質を見定めながら、将来構想と照らし合わせ、設備仕様を意思決定します。

 

まとめ:生産効率を高めるためのNCマシンを活用しつつ、機械加工の本質を体感できる汎用の工作機械を大切に使い続けたい。