「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第113話 見通しと改善活動
改善活動を定着させようと無理をしていませんか?
「そういうのは作っていませんね。」
5年先、10年先を見通した経営計画、事業計画、ロードマップはありますか?との問いに対する、ある小規模加工企業経営者幹部の答えです。
数年のうちに、現社長である父親から事業を引き継ぐ予定の経営幹部からご相談を受けたことがあります。
ご相談内容は日程計画を現場に定着させる改善活動の進め方でした。
既存顧客から求められている仕事量を、全てはこなせていないとのことで、せっかく仕事があるのに断っている状況でした。
そこで、受注の機会を逃さず、いわゆる機会損失をなくし、利益の上乗せを狙ったのです。
さらに、既存顧客に依存していては、万が一の時、危ない事態に成りかねないので、新規顧客を開拓したいとも考えていました。
しかし、当時の現場力では手が一杯。
そこで、作業者間の連携を強化して、複数台有するMC(マシンニングセンタ)の稼働を高め、生産性を向上させようと考えたのです。
現場の連携を促すため、さらには新規受注可否判断を迅速かつ精度良くするため、まずは中日程、小日程計画の整備が肝要だとその経営幹部は考えました。
それまで、「なんとなく」、受注票ベースで、納期遵守の生産活動を力づくでやっていたわけですが、その仕事のやり方のままでは生産性向上どころではありません。
先の現場では、現場改革の第一弾として、生産活動の見える化を取り上げました。
そこで、その幹部の右腕役の現場リーダーを中心としたプロジェクトチームをつくり、改善活動を始めようとしたのです。
現場が自ら主体的に動いて、日程計画を現場に定着させることが目標です。
自ら主体的に動いて獲得した成果物でないと現場に定着はしません。
定着させたいなら、現場の自主性、主体性が発揮されなければならないのです。
一方で、その経営幹部の頭の中には漠然としてはいますが、事業の将来像がありました。
現社長から事業を受け継いだ後の構想です。
つまり、現場が目指すべき将来像が経営幹部の頭の中にあるようでした。
それであるなら、日程計画の現場定着だけに焦点を当てるのではなく、将来像へも焦点を当てるべきだとお伝えしました。
・目の前の課題だけを示される。
・将来へ向けた見通しと一緒に課題が示される。
現場のモチベーションは高まりやすいのはどちらでしょうか?
後者であることは、論をまたないところでしょう。
経営学上の見解ですが、見通しと職務満足には相関性があります。
それであるなら、経営者の頭の中を見える化した経営計画、事業計画、ロードマップを現場と共有した方が明らかに望ましいのです。
そこで、事業の将来像を示した計画をお持ちでしょうか?と尋ねたわけですが、それに対する経営幹部の答えが最初のコメントです。
セミナーや個別相談でお会いする経営者へ、経営計画、事業計画、ロードマップの有無をお聞きすることがありますが、有るという経営者は必ずしも多くはないです。。
年度開始時、あるいは年始時点で、直近、1年間の方針や目標を現場へ説明する経営者は多いですが、その先、5年先や10年先という中長期の展望を示している中小の製造企業経営者は少数派と感じます。
これはもったいないことです。
経営計画、事業計画、ロードマップは、経営者といっしょになって、現場改善に取り組む必然性を語ってくれます。
現場作業者のベクトルが揃えやすくなり、経営者の右腕役となる現場リーダーは、現場を導きやすくなるのではないでしょうか。
先の企業でも、簡単ながら将来を見通した計画を作成し、現場と共有しました。
経営者と現場、あるいは現場同士のコミュニケーションから共通語が生まれ、一体感が醸成されます。
将来への見通しの働きかけによって、活気を注入しやすい職場となるのです。
現場リーダーは仕事がやりやすくなります。
そうした仕事のやり方を取り入れて欲しいです。
経営計画は大手がやるべきことだとお考えの経営者もいらっしゃるようですが、それは間違いです。
会社の規模に関係なく、経営計画、事業計画、ロードマップなど、経営者の頭の中の見える化ツールは、儲かる工場経営に不可欠です。
将来目指す姿を現場へ示さないと、全体最適化という発想が生まれてきません。
製造現場特有の2重構造のため、現場はそもそも部分最適化になりやすいからです。
5年先、10年先に目指す姿を現場と共有できていないと、良い仕事をするための共通語が生まれませんし、事業の成長に欠かせない長期的な視野を持ったとき、何をどう進めるかもわかりません。
1週間程度の旅行のとき、旅程を明らかにしてから、出発しませんか?
旅行ですら、いわゆる”見通し”を明らかにしてから出発するわけです。
いわんや人生をかけた事業においてをや、ということですね。
簡単な様式で十分です。
経営者は事業の見通しを現場へ示していただきたいです。
経営者の想いを浸透させることに他なりません。
現場は改善活動に取り組む必然性を感じることになり、目的を共有できます。
工場経営の本質は他人を通じて経営者の想いを実現させることにありますから、現場が動きたくなる環境の整備が経営者の最大の仕事です。
見通しは、現場の”夢”に繋がります。
2018年版中小企業白書(p78~79)に興味深い調査結果が掲載されています。
経営計画(中期計画)の策定の有無と経営の取り組みを分析したところ、下記の結果になりました。
・経営計画(中期計画)を策定している中小企業のうちで、人材育成に取り組んでいる中小企業は75%、業務効率化に取り組んでいる中小企業は64%。
・経営計画(中期計画)を策定していない中小企業のうちで、人材育成に取り組んでいる中小企業は58%、業務効率化に取り組んでいる中小企業は42%。
経営計画(中期計画)を策定している中小企業のほうが、人材育成や業務効率化等の改善活動に挑戦したくなるようです。
さらに、経営を見据える年数と経営の取り組みを分析したところ、下記の結果になりました。
・1年以内を見据えて経営をしている中小企業のうちで、人材育成に取り組んでいる中小企業は47%、業務効率化に取り組んでいる中小企業は37%。
・10年先を見据えて経営をしている中小企業のうちで、人材育成に取り組んでいる中小企業は81%、業務効率化に取り組んでいる中小企業は66%。
将来を見通している中小企業のほうが、人材育成や業務効率化等の改善活動に挑戦したくなるようです。
この2つの調査結果から何が考えられますか?
5年先、10年先を見通している中小企業は、ここ1年以内のことしか視野に入れていない中小企業に比べて、現場活動が活発であると推測されます。
これは、経営者の想いが現場へ浸透した結果、現場のベクトルが揃い、現場活動を推進する意義や目的が共有され、前向きの雰囲気が醸成されているからではないでしょうか?
活気の源となる組織の3要素が整います。
その結果、現場リーダーも各工程のキーパーソンたちも、現場作業者を導く武器を手にできるのです。
仕事がやりやすい環境が整備されます。
現場作業者の自主性や主体性を促し、工程内、工程間の連携を強化するためには、改善活動そのものよりも、経営者の将来への見通しに焦点を当て、それを現場で共有することの方が効果的です。
羅針盤の無い船で航海したいと考える船員はいません。
見通しと改善活動を連動させて、現場の自主性、主体性を促す仕組みをつくりませんか?