「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第114話 儲けのモデル化

従業員を豊かな成長路線へ導くぞ!!という強い意思と意図を示していますか?

 

「知り合いの経営者へ、そんな仕事の取り方をしていたら続かないぞって言っているんですよ。」

樹脂加工を事業の柱とした中規模製造企業経営者の言葉です。

 

 

今月は、リーマンショックを振り返る報道や記事が多いですね。

サブプライムローン問題によるリーマン・ブラザーズの破綻に端を発したリーマンショックが世界経済を震撼させたのはちょうど10年前、2008年9月のことです。

厳しい状況に直面したあの時のことを、今でも生々しく記憶している皆さんも多いのではないでしょうか?

 

当時、伊藤が所属していた企業も受注が激減、工場を一定期間、停止しなければならなくなったのを昨日のことのように覚えています。

後にも先にも、売上高が単月であれほど激減したことはありませんでした。

半年後、希望退職者を募る事態に追い込まれた程です。

 

皆さんも大変な思いをしながら、難局を乗り越えようと踏ん張った経験をお持ちではないかと思います。

あの出来事を機会にいろいろなことを考えた経営者は多いのではないでしょうか?

 

先の経営者も大変な思いをしました。

リーマンショックで売上高が半減、債務超過に陥る事態になったのです。

 

当時は、特定企業に売上高を依存する下請け型の事業でした。

こうしたタイプの事業形態をとっている中小製造企業は少なくないと思われます。

当該事業形態の是非について、非とする考えが多いようですが、絶対にダメかと言うと必ずしもそうではありません。

 

親企業の業績が順調であるなら経営は安定します。

市場が拡大している時であるなら、親企業といっしょに成長できるのです。

 

しかし、一方で、市場が停滞、縮小期、成長が保証されていなければ、共に沈むリスクもあります。

厳しい局面になったら、親企業は当然のように、発注先を絞ってきますから、下請け企業は命脈を保てない事態になるのです。

その特定企業に生殺与奪権を握られます。

 

そうした経験から、その経営者は特定企業に依存する状況を打破し、安定した経営を実現させる顧客構成を考えながら、今日まで受注活動を進めました。

安定した売上高を確保するための顧客、高利益率を確保するための顧客、新たな分野へ挑戦するための顧客・・・・。

 

10年経過した現在、債務超過を解消し、さらなる成長路線へ歩みはじめたところです。

ご自身の経験から、依頼が来るのを待つだけの経営では意図した顧客構成を築くことができず、結果として、特定の顧客に依存する形態になりがちだから、もっと考えながら仕事をとるべきだと経営者仲間へ話をされているとのこと。

 

「儲けのモデル化ができているので、現場でもやるべきことがはっきりしていますね。」

お話を伺って、伊藤はそのように返事をしました。

 

どの製品で、どのように儲けるのか・・、経営者だけではなく、現場も知りたいことです。

経営者の意思や意図を知った現場は自ら知恵を絞ることでしょう。

いい職場を創りたいという想いは皆同じです。

 

 

 

 

 

中小製造企業、売上高経常利益率の平均値は10程前から2~3%程度で推移しています。

これだけを見ると堅調のようです。

しかし、上位と下位の企業群間の格差は徐々に広がっています。

 

売上高経常利益率上位25%(つまり上から4分の1)と下位25%(つまり下から4分の1)の企業群では全く状況が違っているのです。

全体の平均値は2~3%ですが、

・上位25%企業群の売上高経常利益率の平均値は10%を超え、年々上昇傾向

・下位25%企業群の売上高経常利益率の平均値は▲10%を下回り、年々悪化傾向

(出典:2015年版中小企業白書)

 

この勝ち組と負け組の格差原因は、いろいろ推測されますが、そのひとつに「儲けのモデル化」の有無があると考えています。

現場の自主性や主体性の有無に繋がるからです。

 

・付加価値額の積み上げ方針を決めて、それに沿った営業活動、受注活動を地道に続ける。

・売上高のみに焦点を当て、依頼された仕事をさばいていく。

どちらのやり方が現場の自律性を高めるでしょうか?

どちらのやり方が儲かる工場経営へ繋がるでしょうか?

 

モノづくりの現場で利益を生み出すとは、固定費を回収することに他なりません。

しばしば申し上げていますが、固定費とは経営者の想いが込められた将来投資です。

現場では、この投資を毎月、付加価値額で回収しています。

回収しきれなかったら赤字です。

 

ですから、固定費を回収するパワーとなる付加価値額をどのように積み上げていくのかは、現場も知っておくべきことなのです。

モノづくりの主役は現場ですから。

 

弊社では「儲けのモデル化」のことを「固定費回収パワーUP戦略」とも呼んでいます。

固定費をいかに効率よく回収していくかに焦点を当て、顧客構成、製品構成の望ましい姿を描くのです。

蓋をあけてみなければ儲けを見通せないという状況では、これからどんどん不確実性が高まる市場の大海で遭難、難破するのは火を見るよりもあきらかでしょう。

 

売上高を増やさなければ・・・・、利益率が高い案件を見つけなければ・・・・という考え方は当然に必要です。

この観点抜きに”商売”はできません。

 

そもそも、売れなければ話は始まりません。

また、効率良くお金を社内に残そうということなら、売上高対比の利益(営業、経常、税前であってもなんでも)は多いほうがありがたいです。

 

ただし、この見方には弱点があります。

現場が具体的に何をどうすればいいのか考える余地が少ないということです。

 

売上高や利益のみを取り上げても、それは現場にとっては”結果”にすぎず、現場の自主的な行動を促すには至りません。

過程(プロセス)が見えないからです。

 

単に、単価が安いとか、これは儲からない案件だとか、精度の低い賃率で評価された製造原価のもとでは、そうした判断も致し方がないかもしれません。

現場では自社製品の一面しか見えていないのです。

 

受注案件に関して、単価や製造原価など、経営に関する数値を現場へ示していること自体は素晴らしいことですし、経営者は現場に対して何かを期待しているからこそ、こうした数値を開示します。

そうしたことが全くなされていない現場にくらべれば、現場のポテンシャルは高くなっているはずです。

 

それであるなら、経営者はもう一歩踏み込み、「儲けのモデル化」を提示し、現場へやるべきことを示してはどうでしょうか?

「儲けのモデル化」は儲けるために何をすべきか、現場へ自ら考える機会を提供してくれるのです。

 

 

 

 

 

具体的にはセミナーやご指導の中でご説明していますが、まずは、固定費回収パワーをいくつかの”軸”で分類します。

物事を複数軸で眺めると発想が自ずと広がるものです。

 

例えば、売上高と付加価値額率の相関から受注製品を分類してみます。

固定費回収パワーとは、言い換えると付加価値額の絶対値です。

ですから、売上高の大小と付加価値額率の高低の組み合せで受注案件を分類すれば、案件ごとの役割が見えてきます。

 

・付加価値額率は低いけれども、売上高規模で回収パワーを獲得している案件。

・付加価値額率が高いが、売上高規模は小さく、回収パワーはイマイチだけれども、新規顧客拡大のきっかけとなる案件。

等々、案件ごとの個性をはっきりさせるのです。

つまり、これは、経営者がどのように固定費を回収し、その先でどのように利益を生み出すかの意思表示をしていることに他なりません。

 

利益は売上高-費用と付加価値額-固定費の2通りで表現できます。

特に後者に関連した分類”軸”の組み合わせで考えてみるのです。

先に挙げた売上高、付加価値額率の他、@変動費、@付加価値額(@は製品一つ当たりという意味)、単価、販売数類、工数等、多様な分類”軸”が考えられませんか?

 

そして、軸の組み合わせで、固定費回収のパターンを想定するのです。

それに沿った顧客構成、製品構成を考えれば、独自の儲けのモデル化が出来上がります。

 

・固定費回収に貢献してくれる案件・企業。

・付加価値額を積み上げ、利益を確保するのに大きく貢献してくれる花形の案件・企業。

・付加価値額の絶対値は少なけれども、将来が楽しみな案件・企業。

・・・・等々。

 

金融資産のリスク管理で用いられるポートフォリオの考え方に類似しますね。

経営学で用いられるPPM(プロダクト ポートフォリオ マネジメント)に近い考え方かもしれません。

使える考え方は何でも活用しましょう。

 

 

 

 

 

儲けのモデル化を見せられた現場リーダーは経営者の考えを理解できますし、製品に”個性”があることを知るので、現場作業者への指導のやり方も広がります。

こうして、やる気を引き出す3つのポイントのひとつ、「自律性」を促す環境が整備されるのです。

 

リーマンショックを機会として顧客構成・製品構成を変えた先の企業では、過去実績を振り返り、時間をかけながら独自の「儲けのモデル化」を進めました。

時間をかけながら構築したものは、強固なお城と同じでです。

揺るがない、頼りになる軸が出来上がります。

突貫工事で組まれた工事現場の足場は強風で”簡単に”飛ばされてしまいますね。

 

売上高が自然と右肩上がりとなる時代はとうの昔に過ぎ去っていますから、成長には経営者の意思と意図が絶対に必要です。

顧客構成・製品構成は経営者の意思と意図の現れでなければいけません。

「儲けのモデル化」は、従業員を豊かな成長路線へ導くぞ!!という経営者の強い意思と意図に他ならないのです。

 

「儲けのモデル化」を一緒に考えませんか?