「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第140話 時間データ
時間データを集計できていますか?
「作業時間集計をやってみましたが、個人差がかなり出ています。」
中堅製造企業経営者の言葉です。次世代を見据えて、現場改革に着手しました。
現場改革に着手したら、早速、やるべきことがあります。現状把握です。現状を基準に目指す状態を設定します。基準がなければ、目指す状態を現場に理解させられません。
皆さんの現場活動でも、ビフォー、アフターで成果を計測していると思います。アフターだけでは成果を計れません。現状を数値化することが現場改革の1歩目です。
そこで、まず、把握したい数値があります。製品別所要工数です。納期さえ守っていればいいと思い込んでいる現場では知る由もない数値です。
所要工数は付加価値額人時生産性の分母となります。先の経営者は工数データの重要性を理解していました。ただ、集計データを生かせていませんでした。
そこで、早速、工程別所要時間の集計に取り組んだというわけです。その結果が冒頭のコメントです。明らかに、個人差がありました。
業務を遂行する能力の差の現れでもあったのですが、主因は、「何を作業時間とするのか?」、定義が曖昧だったことです。「定義を明らかにする必要がありますね。」と経営者へお伝えしました。
現場へ指示するとき、定義が重要だよなぁと感じている皆さんも多いはずです。例えば、「明日から5Sを実施する!」と現場へ宣言したとします。
皆さんが期待する「5S」と現場が考える「5S]は一致しているでしょうか?5Sは日常的な言葉だけに、定義はあいまいです。
ですから、仕事の指示で「5S」をやらせるのなら、定義が欠かせません。いわんや数値においてをやです。「数値」が関わる場合、定義の重要性はますます高まります。
製品別所要工数を把握したいのなら、まずは工数の定義からです。
工数データは儲かる工場経営に欠かせません。付加価値額人時生産性の分母であり、価格設定や受注戦略のベースとなるからです。
大量生産時代が終わり、多品種少量生産やマスラピッド生産、マスカスタマイゼーションが中小生き残りで求められている中、仕事のやり方をも変える必要があります。
大量生産であるなら、出来高が成果につながります。造れば売れるからです。効率を無視してでも、量を追います。機会損失を最小にすれば、利益が結果としてついてきました。
また、受注生産形態の個別生産でも、納期にのみに焦点を当てて、とにかく、依頼された案件をさばけば、事業を存続できました。どんどん仕事の依頼が舞い込んできたからです。
大量生産では、出来高や納期遵守率が主役です。
これらの重要性は今も変わりませんが、時代に合わせて仕事のやり方を変えたいのなら、これだけでは不十分となりました。
これからは生産性、つまりアウトプットのみならず、インプットにも注視する必要があるのです。製品毎や工程毎の工数データも明らかにしなければなりません。
皆さんの現場を振り返ってください。
1)製品毎、工程毎の自動運転時間
2)段取時間(内段取り)
この2つを管理できていますか?
製品別所要工数の定義は業種業態で様々ですが、非組み立て型の現場なら、その多くはこの2つで表現可能です。これらは、多品種少量生産で絶対に外せない指標でもあります。
付加価値額積み上げ効率の良し悪しを把握しようとするなら、製造の手間に焦点を当てる必要があり、その手間を計測する尺度を持たなければなりません。
それが、「時間」です。「出来高」ではありません。
同一形状で色のみ異なる製品を造っている2つの工場を比べます。
工場A: 赤色50個 白色50個 計100個
工場B: 赤色25個 白色25個 青色25個 黒色25個 計100個
100個の製品を造っている点で、工場Aと工場Bは同じですが、コストに差が出ます。製造の手間が違うからです。
段取り回数が異なります。工場Aは2回、工場Bは4回。工場Bは工場Aより段取り時間計は多くなります。
段取り時間が多くなると、機会損失があるかもしれません。そもそも稼働率が低下します。出来高が同じでも、コストに差があるのです。(それを価格へ反映させるかどうかは受注戦略次第。)
さらに、段取りコストを把握するやり方も論点となります。
伝統的な原価計算では、段取りコストは各製品に同じく発生する製造間接費と考え、例えば出来高を基準にして製品へ配賦します。
例えば、工場Bの段取りコスト計が400円なら、一律400÷100個=4円/個の段取りコストを各製品へ配賦するのです。
しかし各製品の段取り時間が下記だったらどうでしょう。
赤色40分 白色30分 青色20分 黒色10分。 (段取り総時間100分)
製造の手間を反映させた方が自然です。400円÷100分=4円/分なので、下記を各製品の段取りコスト計とした方が実態に忠実です。
赤色160円 白色120円 青色80円 黒色40円。
これらを、各製品の出来高で除すれば、製品毎に配賦すべき段取りコストが評価できます。
このように、多品種少量生産では、段取りひとつを取り上げても、
・段取り回数の多寡
・段取りコスト把握のやり方
の影響が大きくなるので、時間把握が欠かせないのです。
多品種化でプロセスが複雑化するので、自動運転時間や段取時間の総計は、今後、どんどん増える恐れがあります。それらは全てコストや機会損失へつながるのです。
これまで丼勘定や一律評価だったやり方を変えないと正しい経営判断ができません。各種工数データは、付加価値額人時生産性の分母であり、価格設定や受注戦略のベースとなります。
キーワードは時間です。
マシンの稼働状況やマン(人)の作業状況を「時間」で把握することが求められます。
現場の本業はモノづくりですが、こうしたデータ、特に時間データの重要性が高まっていることに気付きたいのです。
価値を少しでも多くの顧客へ届けたいと考えるなら、作業の開始から完了までの時間を意識することになります。持ち時間は有限です。
生産性向上と人材育成の仕組みづくりでは、納期を定める”時刻”に加えて、生産性のインプットである”時間”への感度も高めます。時間を計るには、始めと終わりが必要です。
納期遵守ができていれば問題はないと考えている現場も、いよいよ、発想の転換が求められます。納期に合わせた仕事のやり方を変えるのです。
変えることに挑戦してください。弊社は、挑戦する経営者の後押しをして参ります。
・成長する現場は、作業の開始から完了までの時間を意識している。
・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、納期のみを意識している。
時間データを無理なく集計する仕組みをつくりませんか?