「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第148話 固定費を健全に成長させる
固定費を健全に成長させていますか?
「固定費は削減するだけの対象ではないのですね。」
ある中小金属加工メーカー経営者の言葉です。
利益=売上高-費用
この式に当てはめれば、固定費は削減の対象です。その経営者もムダ除去の重要性を理解しています。取引銀行も固定費削減に言及しているようです。
しかしながら、違和感も感じていました。ムダ除去の考え方だけで、長期的な展望を見据えた工場経営ができるだろうか・・・・・・。
例えば、固定費削減、固定費スリム化の発想から出てくる、主な施策は、人件費・労務費の圧縮です。こうした施策が、利益確保の手段として、功を奏する局面もあります。
ただし、固定費スリム化一辺倒では、現場に閉塞感が漂い、施策として長続きしません。
儲かる工場経営を標榜するなら、経営者自身にとっても当然のことながら、従業員にとっても、夢があって、やり甲斐が感じられ、安心して働ける職場づくり戦略が必要です。
そこで、先の経営者は、固定費を健全に成長させる新たな戦略を考え始めました。
地域において、業界において、少しでも多い給料を払えるようにしたいと考えていたその経営者は、その想いを、具体的な数字で評価したところです。
これから構築したいのは、付加価値額を積み上げて、固定費を回収するしくみであり、それを実践するチームづくりも欠かせません。現場のやる気を引き出す受注戦略と現場活動がカギです。
付加価値額を積み上げるのに、既存市場、新規市場で何ができるのか?
既存製品を生かすことに加え、どのような新製品を生み出すのか?
そして、顧客の期待へ応えるのに、現場での仕事のやり方をどう変えるのか?
その経営者は5年先、10年先へ向けて、固定費を健全に成長させる新たな戦略を考えています。価格設定体系の構築から着手しました。
弊社のロードマップづくりは、将来投資の観点で固定費を設計することから始めます。5年先、10年先を見通したロードマップのスタートを固定費の設計に置いているのです。
従業員の給料と昇給分、賞与、新たな設備投資による減価償却費、教育費、研修費、研究開発費・・・などなど。従業員の豊かな成長を目的とする費用が固定費であると言えます。
そして、その固定費の多くを占めるのが従業員の給料です。
従業員の活躍に期待をして、今、計上する費用ですが、将来での活躍にも焦点を当てているので、「将来投資」と考えられます。変動費とは異なり、経営者の意思でその多寡を決められるのが固定費、つまり将来投資です。
ただし、振る袖がなければ、想いの実現も、絵に描いた餅に終わります。そこで、付加価値額を積み上げなければならない必然が出てくるのです。
製販一体となって、付加価値額生産性を高め、健全に成長させていく固定費を回収しなければなりません。したがって、売上高は結果ではなく、必然的な目標となります。
固定費を回収し、その後、利益を獲得するのが儲かる工場経営のやり方であるのなら、売上高には必達売上高と目標売上高があることに気づくはずです。
必達売上高に達しなければ固定費の回収もおぼつきません。固定費未回収が意味することを理解していれば、現場活動にも熱が入ります。
イギリスの登山家、ジョージ・マロリーの有名な言葉に「なぜ、山にのぼるのか。そこに、山があるからだ」があります。
マロリーの言う「山」とは、具体的に存在する山、エベレストを指しており、冒険家なら誰でも抱く、未踏の地を征服したいという気持ちを表現したのが先の言葉です。
製造現場も同じです。具体的な売上高が提示されれば挑戦したくなります。マロリーの言葉よろしく「なぜ、現場活動に取り組むのか。具体的な目標が示されているからだ」となるのではないでしょうか。
そして、その売上高に説得力を持たせたかったら、固定費の規模を明らかにしなければなりません。「健全に成長させた固定費」の意味が共有されていれば、現場は経営者の期待に応えようとします。
「健全に成長させた固定費」が「未踏の地」であれば、現場は一層頑張ることでしょう。だからこそ、経営者は固定費を成長路線にのせるべきです。
固定費を削減の対象とするか、成長の対象とするかは、経営者の想い次第です。
・固定費を成長させる戦略
・固定費をスリム化、維持する戦略
これは経営者の主義主張によるものです。どちらの戦略が良いとか悪いとか議論をする対象ではありません。手段の話であり、方法論の違いです。
経営者なら誰でも抱いている「収益を確保し続け、現場を豊かに成長させたい」という想いに違いはありません。その想いを実現させるルートが異なるだけです。
富士山には4つの登山ルートあります。吉田、御殿場、富士宮、須走の各ルートです。所要時間や途中の風景に違いはありますが、どのルートも、富士山山頂を目指しています。それと同じです。
弊社では富士山山頂を目指す登山ルートとして、固定費を健全に成長させる戦略がベストであると考えています。
そして、ここで求められるのが、「健全に成長させた固定費を回収ために付加価値額を積み上げる」という思考回路です。
固定費 → 付加価値額 → 売上高
「固定費を回収する付加価値額を積み上げるための」売上高という発想です。売上高から費用を引いた残りが利益という考え方とは本質的に異なります。
想いを実現させる固定費を設計することからです。健全に成長させた固定費を明らかにするので、具体的に存在する山、エベレスト(必達売上高、目標売上高)が目の前に現れます。
生産性向上活動で5SやIEを活用している現場は多いのではないでしょうか?
こうした5SやIEによる現場活動を目的化させないために必要なのは、取り組みの必然性です。多くの経営者は、ヤラサレ感たっぷりの現場活動が長続きしないことを知っています。
なんのために工程分析をするのか?
動作分析をする狙いはなにか?
何を目的に時間研究で稼働時間を明らかにするのか?
すべての答えは「固定費を回収する付加価値額を積み上げる」ためです。5SやIEを手段として、成長させる固定費に負けないスピードで効率よく付加価値額を積み上げます。
固定費 → 付加価値額 → 売上高
固定費を健全に成長させる戦略で、具体的に存在する山、エベレストを示せます。それは経営者と現場で共有する夢でもあるのです。
やる気を引き出すうえで、仕事のやりがいや達成感を感じさせる内発的動機付けの役割は大きいです。が、一方で、最低限の外発的動機付け(報酬や職場環境など)も忘れてはなりません。これは中小の現場で管理者をやっていたときに、痛感したことです。
健全に成長させる固定費の提示は、現場へ、最低限の外発的動機付けを宣言することに他なりません。最低限の外発的動機付けの上で、内発的動機付けが機能するときに、現場のやる気が最大化されると考えています。
・成長する現場は、現場活動で、健全に成長させた固定費の回収効率を高める。
・停滞する現場は、ヤラサレ感たっぷりの現場活動でストレスを高める。
固定費を健全に成長させるしくみをつくりませんか?