「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第152話 のみこむ

現場リーダーは、経営者の言葉に対して、どのような反応を示しますか?

 

「私の指示を、まずは、”のみこむ”ようになってきました。」

現場リーダーの行動変化を語った、中規模製造企業経営者の言葉です。

 

生産性向上を目指す経営者から、現場へ出される指示の多くは、「変える」ことです。経営者は現場に挑戦を促します。

その企業でも同じでした。しかし、指示を受けた右腕役を担う現場リーダーは、従来のやり方を引き合いに出し、「変える」ことの難しさを、度々、訴えていました。

 

それまでは、自分の主張を返すことが多かったのです。そうした言動に変化が見られてきたと経営者は感じています。あれこれ言う前に、まずはやってみようと、経営者の言葉を受け取るようになりました。

 

経営者は、その現場リーダーに、営業と製造現場のつなぎ役を期待しています。製販一体という扇のかなめ役です。

その現場リーダーは、従来、自らの現場作業を通じて、部下を引っ張ってきました。しかし、経営者は、「指示」→「フォロー」→「評価」で部下を引っ張るやり方に変えてもらいたいと考えています。

 

現場で叩き上げた職人タイプのリーダーです。実績を出してきた自分のやり方があり、頭でわかっていても、すぐに、仕事のやり方を変えられません。それまで、自らの手で直接に「加工」して価値を生み出していました。これからは、部下を通じて価値を生み出すのです。

 

それには、自分が直接「加工」するより、部下に効率よく「加工」させた方が、より大きな価値を生み出せる・・・・このことに気付く必要があります。

経営者が、地道に、継続的に、働きかけました。

 

そうしたやり取りが、功を奏し、現場リーダーは、現場の統率者として、経営者と同じような目線を持つようになったのです。

経営者の言葉を受け止め、どうしたら変えられるかを考えるようになりました。生産性向上の思考回路を経営者と共有しつつあります。

 

 

 

 

 

生産性向上は組織的な仕事です。現場の統率者である工場長や現場リーダーが、製販一体でチームを機能させます。

現場活動は当然のこと、価格設定のやり方を構築することも欠かせません。組織的に現場力と価格力を連動させるのです。チームがなければ成果は出ません。

 

2つの観点を持てば、生産性向上における、チームの重要性を認識できます。

・仕事の守備範囲

・創造力

 

職制上、上位にあるからと言って、部下の力を生かさず、工場長や現場リーダーが、ひとりで地道に仕事を進めても、その影響力は限定的です。部分最適化、工程(作業者)視点の成果に留まります。

最適な生産の流れをつくるには、全体最適化、顧客視点が欠かせないのは論を俟ちません。生産の流れをつくるのが工程管理の役割であり、そのスキルが最大化されるのは、組織的に仕事がなされたときです。

 

工場長や現場リーダーが、ひとりで力づくでやるものではないですし、ましてや、担当者がひとりで悶々とストレスを抱えながらやるものでもありません。

”ストレスを含んだ”生産の流れは、役割分担やルールが不明確な現場で見られます。役割分担やルールが明らかにされたチームがなければ、成果を上げられないのです。

 

 

 

それともうひとつ、新たな知識や知恵を生み出す力も、忘れてはなりません。

中小製造現場での生産向上は、分母を減らしつつ、分子の維持、あるいは増加が狙いであることが多いです。従来の延長線上に答えはありません。

 

仲間との議論を通じて、現場で化学反応を起こし、新たな知識や知恵を生み出す必要があります。それには、創造する力、独創性を生み出す力が欠かせません。

3人寄れば文殊の知恵、創造する力を生み出すのもチームです。1人で考えられることは限られています。

 

チームを構成するのは経営者の仕事ですが、チームを機能させるのは、経営者を支える右腕役である工場長や現場リーダーの仕事です。全体最適化の視点と創造する力をチームで生み出します。

 

 

 

 

 

先の現場リーダーは、チームの重要性を理解しつつあります。

現場叩き上げの職人ですから、個人のスキルはピカイチです。従来は自分でやってしまう方が早いと考えていました。

その考え方を変えようと、その現場リーダー自身も、試行錯誤しながら、新たな仕事のやり方を身につけていったのです。

そうして、経営者は、現場リーダーの言動に変化を感じるようになりました。

 

経営者との会話で、現場リーダーは、従来、「自分が言いたいこと」に焦点を当てていましたが、それを、「社長が期待していること」へ変えたのです。目線が高くなりました。

現場リーダーが「変わる」ことを期待した、経営者の地道な働きかけのおかげです。また、それをしっかりと受け止めた現場リーダーの心意気も賞賛に値します。

 

 

 

その現場リーダーの言動変化を見ていると、2つのことが、「変わる」ことを後押ししていました。

1)現場リーダーは大きな貢献意欲を持っていた。

2)現場リーダーは経営者が示した大きな目的を理解していた。

 

まずは、新たなことへ貪欲に挑戦していました。従来のやり方をしてしまうことに問題があると自覚していたからです。

一緒に仕事をしていて、熱心にメモを取っていました。

熱心にメモを取る行為は、新たな知識や知恵を自分に取り込む姿勢に他なりません。自分がやらねばという使命感があるから、そうします。役に立ちたいと考えるからです。

 

不満や不平のみを語る人物はメモを取りません。自分がなんとかしようではなく、人になんとかしてもらおうと考えるからです。

人への依存度が高い人物にリーダー役は務まりません。

 

 

 

さらに、経営者は、将来、工場をどのようにしたいか、見通しを示していました。だから「変わって」欲しいと考えたのです。

見通しを示された現場リーダーは、自分の将来像を設定できました。経営者の意図を知り、変わることの必然性や重要性を理解したのです。

 

また、現場リーダーの仕事のやり方が変わると、その姿を見ていた部下の姿勢も変わってきました。部下が育ってきたのも、現場リーダーの後押しをしたようです。

現場現場リーダーだけではなく、部下も目線も高くなっています。目線アップが現場全体に波及しました。

 

経営者がやっていたのは、現場目線の引き上げでした。経営者は現場リーダーへ地道に働きかけ、目線を引き上げたのです。

裏山のてっぺんから見える景色より、富士山の頂上から見える景色の方が心をとらえます。エベレストの頂上から見える景色となると、それはもう、心を揺さぶられるでしょう。

目線が、一旦高まると、後へは戻れません。見えて、感じられ、そうやりたくなる仕事のやり方が心地よくなるからです。やりがいや有能性を感じられます。

 

「安心して現場を離れられるようになりました。」

仕事のやり方を変えた現場リーダーに対する、経営者からの最大の褒め言葉です。

 

自分の言いたいことだけを語るのではなく、経営者の言葉を受け取って、それを、一旦、”のみこむ”ことができる右腕役を育成します。

貢献意欲を持たせること、大きな目的を理解させること、経営者の地道な働きかけが欠かせません。

・成長する現場は、自分がやらねばと考え、メモを取りながら、仕事のやり方を変える。

・停滞する現場は、人になんとかしてもらおうと考え、不平と不満のみを言う。

右腕役の目線を高めませんか?