「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第173話 削減の時代から積み上げの時代へ

「先生、工場長と営業とのミーティングが定着してきました。」

金属加工メーカー経営者の言葉です。

 

その経営者は、付加価値額生産性を高めるカギが情報一元化にあると考えています。営業部門から届いた受注情報を工場長が精査、最適な工程を組み、生産計画へ反映させる・・・。

受注から作業指示に至る「情報の流れ」を整備することが課題です。

 

工場長は現場生え抜きのベテランで、技能はピカイチ。現場へ指示するより、自分でやってしまう職人気質の工場長です。

これまで、工場長は、自らの後ろ姿で現場を引っ張ってきました。しかし、これからは、「情報」で現場を動かして欲しいと、経営者は考えています。

 

今後、営業と製造の連動が欠かせないからです。

黙って受注が舞い込んでくる時代は終わりました。これからは、付加価値額を積み上げるモノづくりを標榜しなければ、価格競争に巻き込まれて、体力を消耗するだけだとの危機感を持っています。

 

「ベテラン工場長の背中」に変わって、現場を動かし、営業と製造をつながる道具が必要です。工場長には、「情報」を活かした新しい仕事のやり方を習得して欲しいと考えたのです。

そこで、プロジェクトをスタートさせました。

 

儲けの見える化を切り口にした製造現場の生産性向上活動では、徐々に成果が出てきた一方、なかなか進まなかったのが営業と製造の連携構築。

工場長自身の意識改革も必要でした。一進一退、3歩進んで2歩下がる・・・失敗や衝突を繰り返しながらも、工場長は営業と製造の要になることを目指しました。

試行錯誤、紆余曲折の結果が、冒頭の経営者の言葉です。

 

営業と連動するのが大事であると腹落ちした工場長は、営業に働き掛けて、最適な工程や日程計画を一緒に考え始めました。

毎朝、事務所の一角に設置したホワイトボードの前で、工場長と営業部隊が打ち合わせをしています。製販一体への1歩目です。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営とは、「顧客に選ばれる製品や商品」を「効率良く、高い生産性で造る」ことです。

・「自社の製品や商品が顧客に選ばれる」こと

・「モノづくりの生産性が高い」こと

 

両者がそろって、儲かる体質になります。どちらも大切な論点です。ただ、黙って受注が舞い込んでくる時代が終わりを告げた昨今、特に前者の観点が求められます。

顧客に選ばれる製品や商品を、効率悪く、低い生産性で造っていても、儲けは限定的です。100の利益を得られる機会を生かせず、50に留まります。

 

しかしながら、これは、顧客に選ばれない製品や商品を、効率良く、生産性高く造るよりはましです。顧客に選ばれなかったら、高い生産性で造っても、儲けはゼロとなります。

高品質・高機能と高生産性を誇っていた国内家電業界の顛末を知れば明らです。「顧客に選ばれる」こと無しに、儲かることはありません。

 

「現場だけの生産性向上活動でも利益が生まれた時代」から、「製販一体の生産性向上活動で利益を生み出す時代」へ変わりました。

製造現場のコスト削減だけでも利益を生み出せた時代から、付加価値額を積み上げる時代へ変わったのです。

 

 

 

 

 

100年に1度の大変革の時代と言われている昨今、国内製造業の裾野を広げてきた自動車業界は、「CASE」の流れ受けて、業界全体が揺らぎ始めています。

今後、安定した受注が約束されることは、期待できそうもありません。変化に直面した皆さんの業界も同様ではないでしょうか?

顧客も変化する市場への対応で四苦八苦です。そうであるなら、自社の製品や商品の選んでくれる顧客が、今、どう変わろうとしているのか知る必要があります。

 

先週のコラムで価格設定を取り上げました。

顧客希望価格よりも高い見積もりを提示し、受け入れられた事例を紹介しましたが、顧客との真剣な交渉があったからこそ、できたことです。

営業チームが、顧客の判断基準は価格だけでないことを見つけてくれました。”加工”を通じて価値を生み出す製造現場も儲けを生み出す勘所を知らなければなりません。

現場でも顧客視点が求められるゆえんです。

 

 

 

 

 

工場管理者のみならず、現場リーダーなど、工場のキーパーソンへ、「外」に触れる機会を与えていただきたい。

自分の製品や商品が、顧客からどのように見られているのかを知ることができます。顧客視点を肌感覚で体験する絶好のチャンスです。

 

展示会へ出店したある社長は、数名の現場リーダーを自社ブースへ連れていきました。初めてそうした場に立った現場リーダーは、営業担当者と一緒に訪問客と直接やり取りすることを通じて、痛感することがあったようです。

もっともっと、”強み”を磨かないと勝負に勝てない・・・。

 

ブースを回っては、同業他社との比較をしている訪問客と接しました。相見積もりがやりやすい環境にあるといえばそうなります。

結局は、顧客に選ばれないと商売にならない・・・・。その現場リーダーは、顧客視点の重要性を、理屈ではなく、体験を通じて知ったようです。

 

 

 

 

 

製造現場では顧客視点と作業者視点が交錯しています。いわゆる、製造現場の2重構造。

納期に追われる現場では、目先の仕事を優先しがちです。いきおい、作業者視点の部分最適化が先に立ち、生産の流れを意識した顧客視点の全体最適化が抜けてしまいます。

 

市場規模が右肩上がりで、成長していた1990年代までなら、部分最適化に留まっていても、結果として儲かりました。

当時の「時代の流れ」は規模の拡大であり、現場の視点の如何にかかわらず、売上高の規模に利益が付いてきたからです。現場はコスト削減するだけでも利益が拡大しました。

ムダ取りなど、コスト削減戦略が20世紀型のモノづくりです。

 

しかし、昨今、黙っていて、受注が増えることのない成熟化の時代を迎えました。そうした市場を相手に商売をするなら、顧客ニーズの多様化、小ロット化、様々な変化に対応するために、製造現場も営業情報が欠かせなくなっています。

付加価値額を積み上げる観点が求められるのです。コスト削減だけでは限界があります。また、コスト削減はもう十分にやり切ったと考える経営者も少なくありません。継続的なコスト削減の重要性は論を俟ちませんが、それだけでは現場も疲弊します。

削減ではなく、積み上げる戦略が21世紀型のモノづくりです。

 

だから、市場や顧客の変化に合わせて、製造現場をどのように変えていくかを考え続けるのです。経営者や工場管理者は考え続けなければなりません。

そして、経営者は工場管理者へ製販一体の重要性に気が付かせる必要があるのです。

 

 

 

 

 

製販一体の生産性向上活動で利益を生み出すのが21世紀型のモノづくりです。

付加価値額人時生産性を高めるには、従来の日程計画において、

1)詰めて、空けること

2)新たな品種を取り込むこと

請負型ビジネスモデルの中小製造企業では、付加価値額を積み上げる手段として、単価UPや販売数量UPは、ほとんど期待できません。

 

価格競争を回避して、こうした手法を自由にコントロールできるのが最終形ではありますが・・・。しかし、QCD決定権の多くを握られている現実を踏まえると、いかに新たな品種を取り込めるかが、事業の命脈を保つ論点となります。

したがって、1)と2)がセットです。

 

外部から言われたくない、とにかく自分でやる、他人に教わる必要はないという”お山の大将”の現場を放置していると、製販一体は望むべくもありません。

 

先の工場長も、かっては、そうした”お山の大将”でしたが、顧客視点を持つことの重要性を体感する経験を通じて、営業との連携をやらねばという思考回路を持つに至りました。

現場の事情を優先した仕事のやり方を続けていても儲からないことに気付いたのです。工場長は、外部からの情報に耳を傾けれらない現場は成長できないことを悟りました。

 

 

 

 

 

20世紀型モノづくりから、21世紀型モノづくりへ変えるポイントは、製造現場と営業の一体化にあります。

製造現場と営業が一体化する目的は、顧客に選ばれる観点を共有することです。営業が顧客と接して感じたことを製造現場へ伝えるには、継続的なコミュニケーションしかありません。

コミュニケーションは組織活性化3要素のひとつでもあります。

 

付加価値額を積み上げるために、詰めて、空けて、新たな品種を取り込むには、製販一体です。削減だけでは儲かりません。

工場長や工場管理者と営業部隊との定期的なミーティングからです。

 

経営者は工場管理者には、営業部隊との連携を強く訴えて下さい。製造現場でお山の大将を演じるだけでは、時代に取り残され、儲からないと。

顧客視点の思考回路で、着実に付加価値額を積み上げます。

 

繰り返しますが、削減だけでは儲かりません。

削減から、積み上げへ、です。

 

製販一体の付加価値額生産性向上活動が21世紀の現場活動です。付加価値額生産性150%を目指して前進しましょう。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、製販一体の積み上げ戦略による21世紀型のモノづくりで顧客から選ばれる。

・停滞する現場は、お山の大将のまま、削減だけの20世紀型のモノづくりで顧客から見放される。

製販一体で着実に付加価値額を積み上げる仕組みをつくりませんか?