「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第179話 新たな取り組みに着手したとき考えるべきことは?

「先生、無理にやろうとしないことが続けるポイントですね。」

25名規模の製造現場、製造課長の言葉です。

 

経営者から提示された今期の目標は「工数削減10%」。分母を減へらすタイプの生産性向上です。

経営者は、新規分野へ進出するにあたって、余力を生み出し、新たな受注を受け入れられる状況をつくりたい考えています。

 

先の現場で、今期の目標を踏まえて、新たな仕事のやり方を定着させようと試行錯誤に着手したのは先月です。

ただ、これまで納期遵守以外の目標を設定したことはありません。生産性向上PDCAの手順を設定して、工数削減の取り組みを始めたのですが・・・・。

 

2回ほど、PDCAを回せましたが、3回目以降、続かなくなりました。そこで、課長へ無理せずに回し続けるやり方をアドバイスしたところです。

早速、それでやってみたところ、これなら継続できそうだとの手応えが生まれてきました。新たな仕事のやり方を定着させる勘所を説明してくれたのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者の方々からご相談をいただく「生産性を高めたい」というご要望へ応えるために、やることがあります。

管理業務をこなす余力の見極めです。

 

生産性向上の取り組みのほとんどは、その現場にとって、初めて経験する仕事であり、新たな業務が「加わる」ことは避けられません。

現場へ新たな業務を取り込むとき、経営者が持たなければならない観点として、「品揃え理論」をご紹介していますが、簡単にそうした対応ができない現場もあります。

人的経営資源が豊富にある大手ではあまり問題にならないことですが、中小製造現場では、新たに「加わる」業務をこなす余力の有無を見極めなければなりません。

 

製造現場の業務は直接作業と間接作業に分類できますが、中小製造現場の管理者は、大手とは異なり、間接作業専任というケースは少なく、その多くが直接作業を兼ねています。いわゆるプレーイングマネージャーです。

 

プロ野球でもしばしば言われることですが、監督と選手を兼務して成功したと評価される事例が少ないのと同様、管理者が直接作業をやりながら、管理業務を担って上手くいく例は、ほとんどありません。

 

直接作業の優先度が高くなるので、間接作業、いわゆる管理業務の類は疎かになります。

それは、その担当者に問題があるのではなく、直接作業の緊急度は間接作業のそれよりも高いことが常だというあたりまえの理由による・・・・・このこと忘れてなりません。

したがって、直接作業を兼務している中小製造現場の管理者に、新たな仕事を取り入れてもらおうと考えるなら、直接作業と間接産業のバランスを踏まえ、余力の有無を判断する必要があるのです。

伊藤が経営者の依頼を受けて、工場長や部長、課長など、現場を引っ張る管理者と一緒に仕事をする際、この点に留意をしています。

 

 

 

 

 

外部の力を借りてでも生産性を高めて、儲かる体質の現場を作りたいと考える経営者の言動に常に触れている管理者の皆さんです。

期待に応えて”踏ん張る”ことを厭わない方が多いと感じています。したがって、無理しながらPDCAを回していないかを見守る必要があるのです。先の課長もそうでした。

 

現場リーダーとの役割分担でPDCAを回すことにしていたのですが、現場リーダーがやり切れない状況になり、課長が無理をしながら、代わりにやっていたのです。

課長の力ずくで、手順を1回、2回程度回せましたが、課長一人が100m走のペースでマラソンを走り切ることはできません。続かない事態に直面するのは火を見るより明らかでした。

 

詳細はセミナーや個別相談などでお伝えしていますが、弊社の生産性向上活動は2つの取り組みで構成されています。次の2つです。

・現場だけでなく管理者も含めて仕事のやり方を変えること

・フォローと評価すること

 

前者で何をするかは現場独自になりますが、ここにIE、5S、工程管理、原価管理、品質管理などの各種手法が適用されます。

先の現場でも、工数を削減するために、主に工程管理の手法から、理想とするPDCAの手順を組み立てました。

 

ここがキモです。ただ、それが、必ずしも上手く回るとは限りません。なにせ中小現場の人的資源には制約があり、新たな仕事がこなせる余力がない場合もあるからです。

作業者、現場リーダー、管理者が新たな取り組みに着手して、業務負荷が高まり、PDCAが回らなくなるなることも想定し、理想とするPDCAの手順のうちで、省くものも考えておきます。理想とする完全版に対する、簡略版、暫定的修正版です。

 

 

 

 

 

事前検討で理想とするPDCAの手順を明らかにしたわけですから、それをこなしてこそ最大の効果が期待できます。しかし、先の現場では、限られた工数内で、その手順を無理なく回すことが難し状況に直面しました。

決められたことは絶対にやらねければならないという対応を現場へ迫ると、しばらくの間は、力づくで回しますが、その後、徐々に疲弊して、取り組み自体が形骸化するか、やらなくなります。

ですから、経営者は決められたことは絶対にやらなけれならないという対応ではなく、効果は半分でも、現場が疲弊することなく、無理なく継続させるにはどうするかという対応の方が望ましいのです。

 

 

 

 

 

新たな業務を定着させるやり方は大手と中小では異なります。

大手なら決めたことができないとなると、別部署から人的支援を求めるなど、人的資源の補填を考えますが、中小ではそうはいきません。

 

限られた人材で継続させるには、理想とするPDCAの手順の簡略版、暫定的修正版に切り替えることです。

「今まで決められたことを絶対にならなければという考え方があったので続かなかったのかもしれません。」とは過去の取り組みを振り返っての課長の言葉。

 

課長の言葉からも分かりますが、継続できるか否かは、「やらされ感」と「自己決定感」によるとも言えます。自分でコントロールできなくなると、力づくで回すようになり、その無理やり感は「やらされ感」へつながるのです。

新たな業務を加えるなら、現場が自らコントロールできる範囲内に留めなければなりません。「自己決定感」を持たせることであり、それは継続につながります。

 

先の現場では、前者の取り組みのうち、ホワイトボードで生産計画を表示する業務を省略しました。生産計画は生産性向上に欠かせない道具ですが、その現場では、そうした道具抜きでも、目標を達成できる可能性があったのです。

理想とするPDCAの手順の簡略版、暫定的修正版をそうした観点で準備しておきました。このあたりは現場に身を置くことで判断ができます。

 

当然のことですが、後者のフォローと評価は絶対に外せません。この点は現場リーダーも理解してくれています。

「作業者のモチベーションを高めるのに必要ですね。」と後者の重要性を話してくれる現場リーダーです。

 

新たな取り組みに着手したとき、まず、継続させるには?と考えます。

PDCAが回らなくなったら、現場の業務負荷を踏まえ、理想とするPDCAの手順の簡略版、暫定的修正版に切り替えるのです。まずは継続です。

 

できる業務しかやらないと、いつまでたっても現場の仕事のやり方は変わりません。井の中の蛙となり、時代に取り残されます。変化への対応力次第です。

現場には生産性を高める新たな仕事のやり方を習得してもらわないとなりません。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、業務負荷を踏まえ、理想とするPDCA手順の簡略版に切り替える。

・停滞する現場は、やみくもにやっては、嫌になって、PDCAを回すのをやめる。