「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第184話 急ぎの仕事に囚われている現場を変えるには?

「働きやすい職場に変えることも活動の目的です。」

作業者を前にして語った部品製造ライン製造課長の言葉です。

 

その現場では、新たな現場活動に着手しました。工数削減とリードタイム短縮です。

こなせないほどの受注を抱え、てんてこ舞いになりながら必死に仕事をしている現場ならリードタイムを短くする必然性を感じるでしょう。

仕事がどんどん舞い込むわけですから、手離れを良くしたいと考えたくなります。仕事の手順を見直し、工程間連携を強化しながら「生産の流れ」を良くしていくわけです。

 

しかし、受注量が少ないなかで、こうした活動を現場へ展開しようとすると、作業者はどう感じるでしょうか?

「忙しくないのに、どうして、わざわざリードタイムを短くするのだろうか?今の仕事のやり方のままでも問題ないのに。」

 

先の製造ラインの稼働率は80%前後で推移しており、仕事量が多くて仕事に追われているという状況ではありません。ただし、経営者は今のタイミングで現場の基礎体力を鍛えたいと考えています。

今の仕事のやり方を続けていては5年のうちに行き詰まるとの危機感を持っている経営者です。受注拡大を狙って、新規顧客を開拓しようともしています。

 

多様なQCDの要求に対応できるように「生産の流れ」を見直すのは具体策のひとつです。現場にも危機感を感じてもらいたい、そうして、自ら積極的に現場活動を展開して欲しいと考え、プロジェクトに着手しました。

新たな現場活動に着手するとき、経営者の意向をくみ、製造課長が作業者を前にして活動の狙いを語ったのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

火事になっている家があれば、全てに優先して火を消そうとします。誰でも緊急度の高い仕事にはすぐに取り掛かるものです。

一方で、重要度が高いことはわかっているけれども、緊急度が低い仕事はどうしても後回しになってしまいます。防火壁の設置や燃えにくい材質への変更という仕事は着手しがたいものです。

 

今、すぐにやらなくて、当面は大丈夫だから・・・、ただ、それだけの理由で、重要性が高い仕事が手つかずで放置されます。これは儲かる工場経営を目指した経営者が直面する問題です。

重要性は高いけれども、今すぐにやらなくても、当面、影響は無いと考えがちなテーマこそ、実は、今やらないと、「その時」になって大変な事態に陥る恐れがあったりします。

新規顧客開拓、新製品開発、新技術開発、事業継承対応、スキルアップ・多能工化、人材育成・・・。

 

「その時」がいつくるか分からない以上、「今すぐにやらなくても、当面、影響は無い」という考えは幻想に過ぎません。経営者には見えることが、現場には見えていないので、作業者はそうした幻想に囚われます。

これは経営者は持っている時間軸と現場が持っている時間軸の差によるので如何ともしがたいことです。

 

現場は基本的に日々の納期を判断基準としています。したがって、時間軸は1日単位です。

一方、経営者の時間軸は5年、10年単位となります。現状を踏まえて、5年先、10年先どうするかを考えること、これは経営者にしかできない仕事です。

 

先の見通した課題というのは、当然のことですが、緊急度は低くなります。今すぐの話ではないからです。

ただし、緊急度の高い仕事にばかり囚われていると、5年先、10年先を目指した、時間を味方につけて成果を上げる仕事に、いつまでたっても着手できません。

 

その時になって行き詰まるのは火を見るより明らかであり、その行き詰まりは会社の存続を危うくする水準です。

経営者は、持っている時間軸の違いを理解したうえで、現場に、重要性は高いけれども、今すぐにやらなくても、当面、影響は無いと考えがちな仕事をやらせる必要があります。

 

そこで、欠かせないので現場目線です。重要性は高いけれでも、今すぐやらなくても、当面、影響がないと考えてしまう現場にとって、その仕事をやる意義はどこにあるのか、現場目線で説明する必要もあります。時間軸を調整するのです。

 

 

 

 

 

先の現場では、リードタイムを短縮できるモノづくりの基礎体力を高めようとしています。戦略的には「圧倒的な納期」です。ただ、現場には今一つ、ぴんときません。

なぜなら、今は忙しくないからです。

したがって、そうした状況でもリードタイム短縮に挑戦する必然性を感じさせるため、目的・狙いの見せ方を変える必要がありました。それが冒頭の製造課長の言葉です。

 

リードタイム短縮=仕掛品減

この理屈から明らかですが、リードタイムが短くなれば、各工程での手離れが良くなり、生産に関わるスペースを縮小できます。

現場目線で目的を表現すれば、リードタイム短縮は現場にスペースを生み出す、となるのです。先の製造課長はそのことを現場へ伝えました。

 

スペースが生まれたら台車での運搬も楽にできる、掲示物を整理するホワイトボードを設置できる、作業場所がすっきりする・・・・。

現場目線の目的を表現することで経営者と現場の時間軸の違いを埋めたのです。

 

優先順位が低くなりがちな、重要度が高いけれども緊急度が低いテーマにどれだけ早い時点で取り組むかどうかは現場の命脈に関わります。

どんなテーマであれ、主役が現場のひとりひとりである以上、そのテーマの意義を理解させる工夫が求められるのです。

 

 

 

 

 

今、中小製造企業は厳しい状況に直面をしています。国内の中小製造企業は、現在、24万~25万社あると言われていますが、その中小製造業界はすでに縮小モードです。

実質、1日に3つの会社が消えていくスピードで縮小しています。ざっくり、1年で千社です。縮小するスピードは今後、ますます早くなるでしょう。

そうなると、10年で2万社、3万社という規模の中小製造企業が消えていくことになります。そうならないためにも、直面の問題のみに囚われない現場を育成しなければなりません。

 

「納期順守をしっかりやっているのだから、問題ないだろう」という思考回路しか持てない現場は生き残れないことを教える必要があります。

削減の時代から積み上げの時代に変わった今、生産向上やリードタイム短縮に代表される現場活動に挑戦することが生き残りの手段です。

 

現場としては持ち難いですが、「長期的な視点」で変わることに挑戦できる現場が生き残ります。急ぎの仕事ばかりに囚われている現場は生き残れません。

優先順位が低くなりがちな、重要度が高いけれども緊急度が低いテーマに現場へ散り組ませるために、現場目線での目的・狙いも加えて伝えたいのです。現場が持っている時間軸との違いを踏まえて下さい。

 

先の現場では、仕事量が薄いながらも、工数削減のプロジェクトに着手したところです。フィードバックするための活動実績の見える化も忘れていません。取り組みが軌道に乗りそうです。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、社長の時間軸を理解して、5年後に一層、飛躍する。

・停滞する現場は、目先の問題にだけに囚われて、5年先に行き詰まる。