「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第224話 柔軟性に富んだ生産形態へ再構築するやり方とは?
「部品の在庫があったら、生産着手がいつでもできるのですが・・・。」
産業機械製造企業、現場リーダーの言葉です。
組立工程です。従来のやり方を大幅に見直しました。従来はロット単位です。リードタイムを半減以下にできる見通しがあります。
トライアルを終えて、実践する段階です。自工程内に新たな流れができました。リードタイム短縮はその企業が生き残るカギとなっています。
リーダーは前後工程との連動が気になってきたようです。モノづくりのステージを高めるためにやることがあると気付いています。冒頭の言葉です。
価値観や仕事観、全ての変化が加速しています。現場を「外」の変化に合わせて変えなければなりません。生き残るためです。
ご自身の現場をチェックして下さい。属人的な仕事のやり方をしている現場、仕事が人についている現場は要注意です。人に依存している現場は変われません。
人は変わることに抵抗を示します。保守的です。多くの現場で見てきました。ただ、これは普通のことです。ここは悩むところではありません。
属人的でないやり方に変えればイイだけです。仕組みがなければなりません。生産形態を変えて「外」の変化への対応力を高めます。
経営者は仕組みがないことに悩やんで下さい。そうでないと、重要度が高くても、緊急度が低い仕事が、ず~っと放置されたままです。
現場の特徴はモノと情報の流れで説明できます。生産形態です。貴社の生産形態は?生産形態を分類する観点は複数あります。
1)生産品種と生産量
少品種多量生産、多品種少量生産、変種変量生産
2)生産時期
見込生産、受注生産
3)レイアウト(組織図)
製品別、機能別
4)製品の流れ
フロー型、ジョブショップ型
5)生産方式
個別生産、ロット生産、連続生産
6)生産指示
押出型、引取型
生き残りをかけた競争が激化する中、現場改革の課題は明らかです。
●顧客に選ばれるように、「商品、製品、サービス」の品種的、量的変化へ効率的に対応できる現場へ変えること。
変種・変量・変流・変事が普通の生産現場です。現状の生産形態を変える仕組みがありますか?悩むべきところはここです。
・下請け型の受注生産になっている。
・レイアウトは機能別になっている。
・生産指示にしたがって、押出型で工程毎にロット単位で流している。
多くの中小製造現場がこうした生産形態です。
少品種多量生産なら問題はありません。管理項目が少ないです。程度によりけりですが、多品種少量生産でも力尽くで回せます(担当者はきついですが)。
ただし、今後は変種・変量・変流・変事が普通です。そうでないとお客様に選ばれません。そうした状況も人時生産性を高めるのです。
現場を変える必要があります。論点のひとつが生産形態です。
受注生産と見込生産の組み合わせ
組み立てがゴールの現場なら、受注生産と見込生産の組み合わせは、人時生産性を高める具体策のひとつです。
組立てに必要な部品や部材を見込生産(あるいは調達)し、受注に応じて組立てます。要点は「戦略的な在庫」です。在庫が柔軟性を高めます。
「在庫は悪だ。」と思い込んでいる経営者にはできない戦術です。キャッシュの観点ではマイナス要因です。
しかし在庫を投入して、付加価値額を積み上げられるならどうでしょう?在庫で付加価値額が積み上がります。こうした在庫は先行投資です。
冒頭の企業方針は在庫最小化となっています。それ自体、誤ってはいません。ただ投資的思考を持たないと機会損失を被ることもあります。
現場の成果を全社に波及できるかどうかは経営判断次第です。在庫はそれ自体、悪ではありません。管理せず放置している在庫が悪なのです。
部品加工がメインの現場でもこの考え方は応用できます。規格品なら中間仕掛品を見込生産するのです。そして受注が届いたら、そこで完成品まで加工します。
最終の加工工程が中間仕掛品を必要数だけ引き出すので引出型です。生産管理の対象領域が狭くて済みます。引出型のメリットです。
製品別チーム
人は置かれた立場でしか考えようとしません。金型整備チームは金型のメンテナンスのことを考えます。塗装チームは塗料を塗布することを考えます。
機能別レイアウトの工場ではレイアウトのままの組織になっていることが多いです。あなたの仕事は金型です。あなたの仕事は塗装です。
こう言われた作業者やリーダーは何を考えるでしょうか?
自分に与えられた仕事を最優先で考えます。当然です。そして、大事なことを伝えないと、似非職人を生み出す恐れもあります。自工程にしか興味がないベテランです。
本当の職人は全体を見渡しているものです。全体最適化を考える度量の広さを持っています。前職の自動車部品工場で若手の後押しをしてくれたベテラン達がそうでした。
似非職人はモッタイナです。仕事ぶりを全社へ波及させる機会を失っています。機能別レイアウトであるが故に似非職人にならざるを得なかったのかもしれません。
仕組みがなく、仕事のやり方が属人的な現場で似非職人が生まれます。したがって、本当の職人を増やしたかったらやることは明らかです。
工場全体を見渡さないと仕事が進まない仕組みにします。似非職人を生まない生産形態にすればいいのです。製品別の考え方を導入します。製品別チームです。
レイアウトは機能別でも構いません。組織図を製品別チームに変えます。製品別レイアウトと機能別レイアウトの融合です。
あなたはA社の製品を担当して下さい。あなたはB製品と類似した製品群を担当して下さい。こう言われればどうでしょう?
製品毎、顧客視点の思考抜きでは仕事ができません。多能工化が評価の対象となります。人が育つのは環境整備次第です。
モッタイない思考回路を持った似非職人が生まれる余地はありません。
一人屋台方式
製品別チームを発展させると一人屋台方式やセル生産方式に至ります。多能工が少人数で製品を1つずつ(あるいは限定的なロットずつ)つくる現場です。
モノの移動や仕掛品をゼロにします。圧倒的なリードタイム短縮具体策のひとつです。受注量変動への対応力が高まります。
受注が増えるのに合わせて、多能工を一人、二人、三人と増やすだけでイイからです。多能工が活躍するので、ここにも似非職人が生まれる余地はありません。
「多能工が少人数で製品を1つずつ、あるいは限定的なロットずつつくる現場」のコンセプトはどんな生産形態でも活かせます。
チームがそのように機能すればイイのです。ここは意識の問題かもしれません。作業者一人ひとりがそうした意識を持てばチームの確実に効率が高まります。
競合を凌駕する、柔軟性に富んだ現場を再構築する観点が見えてきます。
・多能工化
・在庫(原材料、仕掛品、完成品)
・生産形態の組み合わせ
先の3つの例のように、多様な生産形態のイイどこ取りで独自の生産形態をつくれます。在庫を投資と考える戦略思考も必要です。変化が加速している昨今、人時生産性を高める定番の生産形態はありません。
したがって「プロジェクト型」の生産形態がカギです。
見込生産もやるし受注生産もやる。製品別チームで対応もするが、機能別チームでも対応する。ロットでも流すが、多能工が1つずつ造ることもできる。
顧客や受注に応じてプロジェクトを立ち上げこなすスタイルです。生産形態を変幻自在に変えられる現場が競合を凌駕します。
ただし、プロジェクトですからボトルネックには注意しなければなりません。似非職人がネックにならないよう経営者が現場の手綱を引きます。
意欲的な若手を育成する機会を逃す訳にはいきません。仕事が人についている現場では絶対にできない取り組みです。
人が仕事についている現場は、組織をチーム単位で考えます。「チーム力」はプロジェクト型の生産形態で欠かせないものです。「個力」でやれることはたかがしれています。
意欲的な若手が育つ生産形態に変えませんか?変えるためにも知識と型が必要です。我流では上手くいきません。
貴社を応援しています!
成長する現場は、柔軟性に富んだプロジェクト型の生産形態で人時生産をドンドン高める。
停滞する現場は、似非職人がボトルネックとなって相変わらず全体最適化ができない。