「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第250話 現場に生産性向上脳を持ってもらうには?

「先生に、膝を詰めて話をしたことがあるかと問われて気付きました。」

中堅製造企業、幹部の言葉です。

 

来月から人時生産性向上プロジェクトを始めます。プロジェクトは全員参加です。

現場改革→意識改革→構造改革。

こうして儲かる体質を作ります。

 

製販一体の仕組みづくりです。ただし、幹部は現場の足並みがそろっていないことに懸念を感じています。ベクトルが揃っていないと、余計なことにエネルギーを費やすからです。

 

これまで、新たな取り組みをやろうとしたものの、「忙しくてできない」との反応に押され頓挫したことが何度もありました。そして、これが”普通”になってしまっています。

 

そこで、その幹部に「そうした反応があった時、どうしましたか?」と尋ねると、「う~ん。」という表情。さらに問いを投げかけて、返ってきたのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

納期遵守は事業の前提条件です。これ抜きの商売はあり得ません。現場も納期遵守の重要性は理解しています。しかし、納期遵守だけでは、人時生産性は高まらないのです。

納期遵守を土台として、さらなる実務が求められます。生産性向上とはそう言うものです。

 

下請け型の事業モデルで扱う製品は部品単品であることがしばしばです。こうした現場ではベテランがひとりで仕事を完結させられます。

現場の規模や製品の仕様によりますが、納期遵守は属人的な仕事のやり方でも達成できるのです。

受注がどんどん舞い込むのなら、属人的な仕事ぶりであろうとなかろうと関係ありません。仕事をさばいたもの勝ちです。

 

手を早く動かせる人の声が徐々に大きくなり、力を持ちます。納期遵守の判断基準は納期です。経営者も「納期を守れ」の一言で十分です。

 

ただ「削減の時代から積み上げの時代へ」、中小製造企業を取り巻く環境が変わりました。

 

製販一体で受注を積極的に取りに行かなければなりません。黙っていても受注が届くことは減ってきました。納期遵守だけで現場が生き残れなくなる所以です。

 

 

 

 

 

納期遵守は属人的な仕事ぶりでもなんとかできました。そのやり方で生産性も高められるなら問題ありません。

しかし、生産性向上となると事情は違います。「詰めて、空けて、取り込む」ことをやるのです。仕事のやり方を変えます。「属人的」では難しいのは明らかです。

そもそも「属人的」には、そこまでのパワーはありません。

 

今は多品種少量、変種変量です。モノづくりが複雑化、高度化しています。属人的なやり方で生産性を向上させようとしても無理です。

納期遵守の標的は点ですが、生産性向上は線だからです。プロセスが対象になっています。チーム力、組織力が必要です。仕組みづくりが伴います。

 

納期遵守は「納期を守れ」の一言でよかったかもしれません。課題構造上、標的はシンプルです。力尽くでも結果は出ました。

しかし、生産性向上は「生産性を高めろ」の一言で実現できるものではありません。ビフォーとアフターを数値化して、目標を具体化して、そこへ至る手順を示す必要があります。

力尽くでも乗り切れる納期遵守とは違うのです。現場の行動水準にまで落とし込まないと現場はやるべきことが分りません。

 

 

 

 

 

経営者から「生産性向上20%」の指示が出ていた現場でこんなことがありました。

社長指示に基づいて具体行動を決めましょうと現場のキーパーソンに働き掛けた時のことです。反応が鈍いのです。尋ねると、具体的に何をやればいいのか分らないとのことでした。

後で経営者に確認をして分ったことですが、「生産性向上20%」以外の具体指示を何も出していなかったのです。これでは現場も動きようがありません。

 

生産性の分母と分子を定義するところからです。分母と分子を評価するやり方も決めなければなりません。ここが、納期遵守と異なります。「納期」は誰でも分ります。

 

納期遵守の標的は点、結果に焦点が当たり、属人的なやり方でもいける!

生産性向上の標的は線、過程に焦点が当たり、属人的なやり方ではいけない!

 

前者は力尽くでもできます。後者は仕組みが必要になります。納期遵守と生産性向上は課題の構造が違うのです。

ビフォーとアフターを数値化して目標を具体化し、そこへ至る手順も示す必要があります。納期遵守だけやっていれば問題はないと思い込んでいる現場の思考回路を変えなければなりません。

具体的な行動水準にまで落とし込んで伝えないと現場は経営者の意図を理解できないです。

 

 

 

 

 

新たなことに挑戦するわけです。納期遵守だけやっていればいいと考える「納期遵守脳」を「生産性向上脳」に入れ替えます。OSの入れ替えです。きちんと伝えなければ現場も理解できません。

 

天動説を地動説に変えようとすると、ガリレオが直面した程の抵抗感を示す人もいます。これまで、そういう風土だったのでしかたがありません。その結果、「忙しいからできない」の言葉に流されて、その状況を放置してきました。

これまではそれでもよかったのです。ただ、貴社は決断しました。

 

やり方を変えよう・・・・。

膝を詰めた話が必要です。

 

納期遵守なら阿吽の呼吸とか、昔ながらのやり方でも仕事は進みます。課題の構造が単純ですから。一方、今、生き残りをかけた中小製造現場で求められる人時生産性向上の本質はリードタイム短縮です。課題の構造が単純ではありません。

 

そのために何をしなければならないのか、具体指示で行動変容を促し「生産性向上脳」に入れ替えてもらいます。

現場の一人ひとりと膝を詰めて、丁寧に話さなければ、現場も経営者の目論見を理解できないのです。先の幹部にはこのことを問うたわけです。

 

先の幹部は、ベクトル云々を言う前にやることがあると気付きました。「しっかり話をすれば積極的に協力するベテランが出てきてくれるかもしれません。」とは先の幹部の言葉です。

経営者が考えている程には現場は経営者のことを理解していません。新たな試みに挑戦しようとするならばなおさらです。

 

 

 

 

 

「顧客満足を向上させよう」「生産性を高めよう」「お客様の立場に立とう」の総論は正しいです。しかし、これだけでは各論での具体行動が分りません。

行動を促す具体的な数値目標や具体指示が必要です。丁寧な対応で新たな行動を促さない限り「生産性向上脳」への変換はできません。

経営陣は指示を出したつもりになっていないかを確認する必要があります。

 

「出したつもり」の状況なのに、成果が出なかったからと言って、現場を責めていては信頼関係を損ないます。現場は「具体的なことが分らないから、まぁ、てきとうにやっておけばいいだろう。」となるからです。

これが、信頼関係の負のスパイラルです。避けなければなりません。

現場は経営者のことを知らないのです。膝を詰めて話をするしかないのです。「つもり」では改革の狼煙が現場から上がることは永遠にありません。

 

「膝を詰めて話をする。」

現場のベクトルを揃えるこれ以上のやり方を知りません。

伊藤も管理者を担った中小の現場でそうしてきました。客観的な数値化された目標を一人ひとりに膝を詰めて伝えて、具体行動を促すのです。

 

人時生産性を5,000円、6,000円、7,000円・・・と高める手順があります。

納期遵守と生産性向上、どちらも大事です。ただし、力尽くでも達成できる納期遵守とそうではない生産性向上の課題構造の違いを理解する必要があります。

 

したがって、プロジェクトは闇雲に進めるものではありません。足並みを揃えることからです。現場への働き掛け方次第です。ツボを押さえなければなりません。

プロデュースも必要であるとお伝えしています。プロジェクトの成否は計画が握っているともお伝えしています。先の幹部はさっそく新たな働き掛け方をやってみることにしました。

ツボを押さえながらです。

今度は貴社の番です!

 

成長する現場は、膝を詰めた話を通じて新たな具体行動を知り生産性向上脳に入れ替える。

停滞する現場は、納期遵守しか知らないので、納期さえ守っていれば問題ないと考える。