「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第260話 現場に問題意識を持たせる唯一の方法とは?
「問題意識が足りないです。」
先週、ご相談をいただいた家庭向け内装製品メーカー経営者の言葉です。
生産管理の担当者はいるものの、上手くやれていないと経営者は感じています。特急、突発が増えており、現場の混乱度合いが高くなっているようです。
やり方を変える必要があると考え、担当者やリーダーへ改善を指示しています。しかし、進みません。経営者は問題を解決する姿勢が足りないと語っていました。
そこで、先の経営者に尋ねました。「将来へ向けた会社の計画や方針を現場へ説明していますか?」問題意識の醸成と関係があるからです。
問題とは目標と現状とのギャップと定義されます。
・目標―現状=問題
問題意識は目標が明らかにされていないと持ち得ないものです。目標や目的、狙いを示すことをせずに、現場の問題意識が低い!と嘆いても、現場が悪いわけではありません。目標を示さない経営者の方に(文字通り)問題があるのです。
「トヨタ生産方式」を著したトヨタ自動車元副社長大野耐一氏は、現場に足を運んでは、リーダーたちに「今、何が問題か?」と尋ねていました。
「問題はありません。」と答えるリーダーがいたら、大野氏はチョークで床に大きな丸を描いたというのは有名な話です。
そこに立って現場を半日見ていろと指導しました。
リーダーたちがそこに立って現場を観察していると無駄が見えてきます。
「あの作業者の動きがいまひとつだ。」
「フォークリフトがやたらと動きまわっている。」
「仕掛品が積みあがっている。」
「人が動き回っている割には製品が次工程へ進まない。」などなど。
作業者と一緒にせわしなく動いている時は見えませんでした。
指導されるリーダーはリーダーを任される程ですから、もともと意欲的な人材です。そのリーダーでも現場で作業者と一緒になって動き回っている状況では目前の無駄に気付かないということです。
問題を見つけようとするなら、プレーイングマネージャーではダメだということをこの逸話は教えてくれます。
立ち止まって観察することが要点です。動いていては見えてきません。定点観察はマネージャーの仕事です。この逸話は定点観察の大切さを私たちに教えてくれます。
さて、貴社ではどうでしょう?大野氏と同じような指導をしたとき、半日、丸の中で立ち止まって現場を観察したリーダーは問題点に気付くでしょうか?
もしかしたら、次のような答えが返ってくるかもしれません。
「社長に言われて、半日、現場で観察しましたが、特に問題はなかったです。」
大野氏の指導には前提条件があります。リーダーたちは「現場活動の目標」を知っていました。「現場活動の目標や目的、狙いは無駄の除去である」を理解していたということです。
トヨタの7つの無駄は有名です。
・加工のムダ
・在庫のムダ
・造りすぎのムダ
・手待ちのムダ
・動作のムダ
・運搬のムダ
・不良・手直しのムダ
現場活動の目標は7つの無駄を排除することである。日頃から大野氏に厳しく指導を受けていたはずです。リーダーたちは現場活動の目的や狙いに知っています。
忙しく動き回っていたので気付かなかっただけです。無駄の定義と現場活動の目的を日頃から教えられていたので、そうした人材が育ちました。
大野氏がリーダーたちに現場活動の目的を繰り返し、繰り返し説明していたであろうことは容易に想像できます。人材育成は意図的なものです。
目標や目的、狙いが明らかにされていなければ、現状とのギャップを認識したくてもできません。問題意識は醸成されないのです。
問題意識は目標や目的、狙いを明らかにして、初めて醸成されます。問題意識の醸成は経営者の目標設定次第なのです。
経営者は目標や目的、狙い、そしてそれを実現させる方針を丁寧に説明しなければなりません。大事なことは繰り返し語ります。
・目標や目的、狙いと方針の設定
そして、経営者が設定した目標や目的、狙いは言語化、数値化され、明文化されなければなりません。口頭だけではダメです。現場へ浸透しません。
現場は文書に書かれたものを目にして、初めてそれを理解しようとします。口頭のみではほぼスルーです。文書になれば目で見えます。
これが我々の判断基準なのだと認識できるのです。
・目標や方針の言語化、数値化、明文化
現場での打ち合わせは経営者が設定した経営計画と部門計画のために開催されるものです。現場の打ち合わせは、経営計画と部門計画の2つに従って議論されなければなりません。
論点を明らかにするためです。現場活動の大義名分があって初めてベクトルが揃います。
考えるとは比べることです。
現状と比べるモノを丁寧に示さなければ現場は考えられません。
経営計画も部門計画も無いままに現場で打ち合わせをすると、自分の考えや立場だけを言い合う場になる恐れがあります。何も決まりません。
判断基準が「経営者の考え」ではなく、「作業者の経験や考え」だからです。「問題はありません」という答えが返ってくるのは、判断基準がズレているからに他なりません。
先の経営者に経営計画や経営方針の有無を尋ねたのはこうした理由からです。判断基準がズレている限り、何をやっても現場は変わりません。
経営者は自分の意志や意図を言語化、数値化、明文化し文書で現場へ丁寧に伝えなければならないのです。そうして、問題意識を醸成します。繰り返し、繰り返し、繰り返し説明です。
・文書による丁寧な説明
経営者の意志や意図を理解した現場は行動し始めますが、その段階で現場を後押しする大事なものがあります。
フォローと評価です。
計画や方針は定期的にチェックしなければなりません。言いっぱなしではダメです。フォローと評価で現場の承認欲求が満たされます。
せっかく芽生えた問題意識を大きく、頼もしく育てなければなりません。これも経営者の大事な仕事です。
・フォローと評価による問題意識の育成
経営計画書や方針書は貴社の命脈を保つのに必要なツールです。ただ、やみくもに作ろうとしても失敗します。多くの論点が絡むからです。
特に指標設定ではそうです。利益アップ、給料アップの目標も数値の裏付けがなければ絵にかいた餅になります。人時生産性がその役割を担いますが、業種業態によって水準が異なるのです。同業他社等、外部の情報が欠かせません。
さらに、経営計画書や方針書を従業員目線で表現する必要もあります。従業員一人ひとりに読んでもらわないと意味がないからです。ベストセラーを出すべく、編集者のアドバイスをもらいながら大作を手掛けている小説家よろしく、客観的にチェックする必要もあります。
そうして完成した経営計画書や方針書は現場の一人ひとりに刺さります。もはや標語ではありません。こうしないと我々は生き残れないのだ!!という経営者の魂の叫びです。
判断基準や比べるモノを教えられれば、現場は問題に気付きます。そして行動するのです。利益アップ、給料アップを願っているのは経営者だけではありません。
弊社は挑戦する経営者のご支援を力一杯させていただいています。
次は貴社の番です!
成長する現場は、計画や方針を知って判断基準を理解し、現状とのギャップを認識する。
停滞する現場は、計画や方針を知らされず判断基準がバラバラなので問題意識を持てない。