「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第315話 形がないものは伝わりにくい
「そのような計画書をつくったことはないです。」
30人規模計測装置メーカー経営者の言葉です。
個別相談で経営問題を伺いました。60代の経営者です。事業承継も経営課題となっています。次世代経営者候補がいないとのこと。
そこで次のように尋ねました。
「次世代へ伝えることは整理されていますか?時間軸を示したロードマップや経営計画書を拝見できますか?」
先の経営者から返ってきたのが冒頭の言葉です。
事業承継は次の2つがセットです。
・誰に引き継ぐか?
・何を引き継ぐか?
後者を明らかにしておかないと前者を考えようがありません。経営者の頭の中は見えないので当事者も困るのです。
経営者の考え方を伝えられなければ「承継」ではなく、「丸投げ」になってしまします。
経営者の意志や意図を従業員へ正しく伝えることは難しいです。簡単ではありません。相手があります。したがって「伝えること」の成否は受け手次第です。
「何を言ってもやってくれない。あれは従業員が悪いのだ。」と言い訳しても、結局、意志や意図が伝わらなければ、目的を果たせないのです。
工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。「他人」に動いてもらう必要があるのです。経営者は意志や意図を従業員へ浸透させなければなりません。
ただ、形がなく目に見えないものは相手に伝わりにくいものです。事業承継や技能伝承が経営者の頭を悩ます所以です。
事業承継では、次世代経営者に、経営者の頭の中にある構想を伝えます。技能伝承では、現場の若手に、ベテランの頭の中にある知恵とノウハウを伝えます。
形になっていないことを伝えなければなりません。
事業承継問題を抱えている先の経営者の課題は、候補者の選択に加えて、伝えるべき事を形にすることです。候補者選択がやりやすくなります。
形になっていないものを伝えることは難しいのです。受け手の立場になれば分ります。
事業承継を成功させる要点のひとつは次世代経営者を支援するチーム作りです。そのチームに現経営者の意志や意図、想いを反映させます。
しくみで仕事をこなすチームをつくるのです。
しくみで回っていない工場はどうなるか?
仕事が属人的にこなされます。人に依存した現場です。キャリアが長い人の声が大きくなります。勝手な判断基準で仕事をやっているかもしれません。
現経営者はなんとか操れますが、現場がそのまま次世代経営者に引き継がれたらどうなるか・・・・。顛末は火を見るよりも明らかです。
経営者は次世代経営者支援チームを準備しなければなりません。人材を見極め、支援チームを選抜します。
モノづくりのDNAや我が社の仕事のやり方を支援チームに伝えなければなりません。伝えることを言語化、数値化します。
・我が社のモノづくりDAN
・我が社の判断基準
・我が社の手順
形になっていないと引き継げません。
人時生産性を高めるためには外注戦略も大事です。中小の経営資源には制約があります。自社だけで多品種対応は難しいです。
したがって地元で独自のサプライチェーンを構築しています。先代、あるいは現経営者の人脈、出会いから得られたビジネスパートナーとの絆の証です。
その財産も次世代へ引き継ぐなら、ビジネスパートナーからの継続的な協力が不可欠です。
それまでは現経営者の存在自体がビジネスパートナーとの信頼関係を維持する源泉でした。信頼関係維持へ向けた協力のお願いを「外」へ向けて発信しなければなりません。
そして、もっと大事なのは「内」への説明です。ビジネスパートナーとの信頼関係を維持する要点を伝えなければなりません。
サプライチェーンの全容は経営者の頭の中にあることです。これらも引き継がなければなりません。形になっていないと引き継げません。
我が社を持続的に成長発展させる論点を伝える必要もあります。
お客様の納期に合せて仕事をするだけでは儲からない。だから、人時生産性に焦点を当てて、それを6,000円、7,000円と高めるのだ。過去の経営状況だけではなく、将来の経営状況を説明できれば、次世代経営者は見通しを持てます。
持続的に成長発展させる論点も経営者の頭の中にあるままでは引き継げません。これも目に見えるようにします。形がなければ引き継げません。
・後継者を補佐する人材の確保
・取引先との関係維持
・後継者に経営状況を詳細につたえること
これらは事業を引き継ぐ上で苦労したトップ3です。
(出典:2019年版中小企業白書)
技能伝承が上手くいかないとご相談を受けることがあります。ベテランから若手への情報伝達が進まないのです。ただ、ベテランの事情を踏まえるとしかたがないことかもしれません。
・ベテランはそもそも人に教えられたことがない。
ベテランは先輩の背中を見ながらスキルを磨いてきました。人に教えられたことがありません。教えられたことがないから、教えることはできないのです。
無理にやっても、「若手にいくら教えても憶えなくて、やっていられない。」という的を外したコメントを出すことになります。
「だからこそ、ベテランの貴方にお願いをしているのだが」と言う経営者の期待が理解できません。そもそも教えられたことがないからです。
一方、若手は答えを欲します。具体的に示して下さいと思っていますが、ベテランのKKDの説明ではちょっとわかりにくいのです。具体的な話を希望しています。
スキルアップの手順書が必要であるとお伝えしている所以です。形がなければ引き継げません。伝えることは全て「形」にします。
KKDだけで通用する時代ではなくなったことを経営者は知らなければなりません。
手順書作成は言語化、数値化の訓練でもあります。幹部や管理者に求められる具体→抽象→具体変換能力を高められるのです。
手順書は原則、文字ですが、画像や動画もありです。動画を上手に使いこなすご支援先も増えてきました。
昨今のIT関連コストは劇的に下がっています。動画編集ソフトも信じられないほど安価です。フリーソフトでもかなりのことができる時代になりました。
やろうと思えばあらゆる情報を「形」できるのです。こうした取り組みは経営者の熱意次第と感じます。形がなければ引き継げません。やっているとところはドンドン前進しています。
・形がなければ引き継げない。
これは事業承継や技能伝承に限りません。工場経営を実践する際の要点でもあります。
・経営者の意志や意図を従業員へ正しく伝える
従業員は経営者のことを、経営者が考えているほどには理解できていません。だから経営者の意志や意図を「形」にする必要があるのです。それがロードマップです。我が社成長発展を目指した作戦書です。従業員は作戦書を読んで経営者の頭の中を理解します。
情報伝達では2つが論点となります。
誰に伝えるか?
何を伝えるか?
経営者は「受け手」を意識する必要があるのです。結局、意志や意図が伝わらなければ、目的を果たせません。
工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。「他人」に動いてもらう必要があるのです。
経営者は意志や意図を従業員へ浸透させなければなりません。だから、伝えることは全て「形」にします。KKDだけで通用する時代ではなくなりました。
形がなければ伝わりません。
経営者の頭の中を見える化して伝わりやすくするのが、ロードマップです。これがあるから現場の事を幹部や現場のキーパーソンに任せられます。
その結果、経営者は社長業に専念できるのです。伝えたいことを形にします。目で見える形がなければ引き継げません。
言語化、数値化、図表化を安価にデジタル化できることにも注目です。
次は貴社の番です!
成長する現場は、経営者の頭の中が形になって見えるので意志や意図が従業員に伝わる。
停滞する現場は、経営者の頭の中は見えないままなので意志や意図が従業員に伝わらない。